2024年活況が期待できるのは「ホテル」損失を被るのは?楽観と不安が交錯する最新不動産マーケット | FRIDAYデジタル

2024年活況が期待できるのは「ホテル」損失を被るのは?楽観と不安が交錯する最新不動産マーケット

一抹の不安を感じる年明けとなったが、今年の不動産マーケットはどのような展開を見せるか考えてみたい。

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新しい年がスタートした。直後に大地震発生やら空港での重大事故など、なにやら一抹の不安を感じる年明けとなったが、今年の不動産マーケットはどのような展開を見せるか考えてみたい。

※写真はイメージです 写真:共同通信
※写真はイメージです 写真:共同通信

特に地方4市の地価が上昇する見込み

まず地価の動向だが、公示地価が3月に発表される。これは毎年1月1日時点での全国の地価に関するデータだが、全国的に地価はさらなる上昇を示すと思われる。三大都市(都区部、大阪市、名古屋市)の地価は住宅地で3~5%、商業地で4~6%程度の高い上昇率を示すだろう。特にコロナ禍からの本格的な回復を裏付けるように、商業地の地価は予想を超える動きになるかもしれない。また成長著しい地方4市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)の地価上昇率は住宅地、商業地ともに8~9%程度の上昇率になることも想像される。

地価は一定レベルの上昇である限り、経済活性化の証として歓迎されるべきものだが、不動産マーケットにおいては心配な面も出てきている。近年の建設費の急上昇だ。国土交通省発表の建設工事費デフレーターによれば、2015年度基準(指数=100)で、’23年7月現在の指数は、マンション建築に相当する住宅総合、鉄筋RC分野で124.5を示している。コロナ禍が始まる’20年2月段階では108.0であったからコロナ禍以降に大幅に上昇したことがわかる。現場感覚でいえば3割から4割の上昇である。

負の影響は郊外部の戸建てを検討する層と素人投資家に集中

この事象は住宅マーケットに大きな影響を与えている。コロナ明け以降、価格の高い物件しか売れない、という状況にあるのだ。都心部はもとより、郊外部での新築マンションでも販売価格が高騰、売れ行きが落ち込む物件が増加している。一方で都心部の高額物件を購入する富裕層は、価格の上昇を吸収できる余裕があるし、投資用に買う顧客からみれば短期間で売却するので、値上がりさえすればよいし、相続対策で購入する顧客にとっても販売価格の高さはあまり関係がない。

戸建て住宅においても、低価格で取得できたはずの郊外部で販売在庫が積み上がっているのは、土地代も建物代も高騰して、到底一般庶民の手には届かない状況になっているためだ。

こうした傾向は今年も継続するであろうが、年内に住宅ローンの基準金利になっている短期プライムレートの上昇があると、低金利であることを前提に何とか新築マンションを購入しようとしていたパワーカップルなどの実需層に大きな影響を与えそうだ。

投資家の購入が少なく実需層がこぞって購入する湾岸エリアや武蔵小杉、都内ターミナル駅前の再開発物件でのタワマン人気に陰りが出る可能性がある。そんな中、投資需要が見込める都心エリアのタワマンなどへの影響は限定的とみる。

さらに今年は、約10年にわたり好調を謳歌(おうか)してきた不動産マーケットに見切りをつけ、いったん売却して利益を確定させたい投資家の売りが重なるリスクがある。なぜなら投資家は金利動向に非常に敏感だからだ。政策金利の変更、つまり利上げは不動産価格の下落を想起することにつながり、早めにエグジットしようとの動機が生まれるのだ。

投資環境はリーマンショックのときのように一夜にして激変したりする。そうした意味では宴がどこで終わるか、まじめに投資を行っている投資家ほど動きは速い。そして何も考えずに「みんながやるから」というシンプルな動機と欲望だけで投資している素人が底なし沼にはまる機会が今年やってくるかもしれない。

オフィス市場は平均賃料の下落、商業施設はインバウンドが鍵に

オフィスマーケットは都心5区の平均空室率が6%台で高止まりの状況にあるが、今年は大規模ビルの供給が少ない。景気動向にもよるが、コロナ禍後のオフィス床の借り戻しが一定数見込めることから、小康状態が続くものと予想する。ただし、新規のテナント需要に限りがあり、最近完工する新築オフィスビルのテナントの多くが周辺ビルやデベロッパーの既存ビルなどからの引き抜きで埋め合わせる傾向が強く、引き抜かれたビルでの2次空室発生の問題は顕著になると考えられる。提示している賃料水準を下げて引き抜く、あるいは表面賃料は変えずにフリーレントという一定期間の賃料免除を施すことで実質テナント賃料を引き下げるなどの動きが続くことから、平均賃料の下落は今年も止まらないことが予想される。

商業施設マーケットは富裕層向けの高額品、インバウンド需要に的を絞った施設を中心に活況となりそうだ。大都市部の百貨店は近時の不振がウソのような急回復だ。国内富裕層が急増していることに加え、インバウンドも最近は目立って富裕層が増え、日本人よりもカネをもった客が宝飾品、高級時計などを買い求めるからだ。

また物価高騰はスーパーの売上高を伸ばす効果がある。値下げ一辺倒だった食料品などの価格も相次ぐ値上げで売り上げ増になっている。ただ一般庶民の財布は社会保険料の引き上げや増税に対する警戒感から節約志向が今後加速することが予想される。コモディティを扱う商業施設は人件費や施設費の高騰を吸収できるかが問われており、今年のマーケットは予断を許さない。

今年もっとも活況が期待できるのは「ホテル」

もっとも活況が期待できる不動産セクターが、ホテルだ。最近は東京、大阪、京都といった都市部のみならず、地方都市やリゾート地でも多くの外国人観光客(インバウンド)の姿が目立つ。それもそのはずで、’23年のインバウンド数は1月から11月までの累計で2233万人を記録した。おそらく’23年の着地は年間2500万人程度になりそうだ。これは’19年のほぼ8割水準に相当する。国内旅行客の回復も著しい。宿泊者延べ数で’23年1月から10月までの累計で3億9876万4千人泊とほぼ’19年の同期間の数値(4億172万2千人泊)と肩を並べている。

この傾向は今年さらに強まることが予想される。数だけではない。ホテルの宿泊単価は上昇傾向を強めており、業界にとっては稼働があがるだけでなく、単価も上昇するという勝ちパターンを享受している状態にある。今年のインバウンド数は’19年の3188万人を上回る3500万人程度になりそうだ。

総括すれば、今年の不動産マーケットはコロナ禍からの回復基調を継続してさらに活況の時代に入るのか、利上げに賃金の上昇が追い付かず、物価上昇により消費が低迷、オフィス空室や住宅在庫が膨れ上がる年になるかの分岐点にある。まずは4月の春闘を含めた賃金上昇と日本銀行の金融政策の動向を注視したい。

 

【PROFILE】牧野知弘(まきの・ともひろ) 東京大学経済学部卒業後、第一勧業銀行(現 みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループ、三井不動産を経て2005年にパシフィックマネジメントへ入社。同年、パシフィック・コマーシャル・インベストメント代表取締役社長に就任し、日本コマーシャル投資法人執行役員を歴任した後、2009年に株式会社オフィス・牧野を設立し、代表取締役に就任。現在は2015年に設立したオラガ総研株式会社の代表取締役も務め、不動産事業の企画立案から事業実施、運営管理に至るまでをトータルプロデュースしている。主な著書に『負動産地獄 その相続は重荷です』(文藝春秋)、『2030年の東京』(祥伝社、河合雅司さんとの共著)、『不動産の未来 マイホーム大転換時代に備えよ』(朝日新聞出版)などがある。

  • 牧野 知弘写真共同通信

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