大河『いだてん』の視聴率は“引き算”で上がる

指南役のエンタメのミカタ 第15回

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廃校で撮影中の中村勘九郎(左端)と杉咲花(左から3人目)。多くの視聴者を取り込むことができるか

最近、ネットニュースなどで、NHKの大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』に関するネガティブな記事をよく見かける。やれ幹部からテコ入れの指令が下っただの、やれチコちゃんに叱ってもらうだの、やれ脚本のクドカン(宮藤官九郎)の更迭もありうるだの、やれ万策尽きただの――。まぁ、チコちゃんに関しては同ドラマの演出に携わっている大根仁監督が明確に否定したし(当たり前だ)、クドカンさんの更迭云々は単なる与太話の類いだろう。

そもそも、NHKは『いだてん』が視聴率的に苦戦することくらい、最初から織り込み済みだったのではないか。まず、主人公が2人とも無名だし、それも1年の前後半で主人公が入れ替わる異例のリレー形式だし、33年ぶりの近現代劇だし――およそ、そこに高視聴率を期待させるような要素はない。むしろ、クドカンらしさを出すために、あえて変化球を狙いに行ったようにも見える。

それに「脚本・宮藤官九郎」の看板にしても、民放の連ドラにおける普段の彼の立ち位置を見れば、いわゆる数字の取れる脚本家でないことくらい、NHKは百も承知だったろう。『あまちゃん』にしても、他の朝ドラ作品と比べて取り立てて視聴率が良かったワケでもない。ただ――(ここからが大事)彼が書くドラマには、不思議と人を引き寄せる力がある。クドカン好きのディープなファンは元より、SNSなどで評判を知った若い人たちも見に来てくれるかもしれない。役者たちもクドカン作品なら喜んで出てくれるので、意外性のあるキャスティングも期待できる――。

要するに、NHKが『いだてん』に期待したのは――普段、大河ドラマを見ない人たちの取り込みである。お茶の間の高齢化が進む中、先のことを思えば、公共放送のNHKとしては若年層へのアプローチはマストである。ただ、あまりにクドカン色が強くなりすぎると旧来の大河ファンが離れるリスクもあり、その辺りの“収支”がトントンなら御の字くらいの腹積もりだったのではないか。

それが、フタを開けたら、旧来の大河ファンが予想以上に離反し、一方、新規のお客さんは思ったほど来てくれず、収支的には赤字――というのが現状だと思う。

では、どうしたらいいか。

――“引き算”を提案したい。何かテコ入れをするのではなく、その逆。余計な先入観や雑音をなくして、シンプルにドラマを見せてあげるのだ。

実は『いだてん』は、思われているほどクドカン色は強くない。ちゃんと“大河”に仕上がっている。クドカン自身、当初はもっと志ん生パートを厚く描く予定だったが、金栗四三や田畑政治の“東京オリムピック噺”を掘り進めるうち、そっちの方が俄然面白くなってきたのではないか。元々、難しい課題を与えられるほど才能を発揮する人だけに、アウトプットされた脚本はかなり面白い。ならば、それをシンプルにアピールすることで、一度離れた旧来の大河ファンが戻ってきてくれないだろうか。

手始めに、お茶の間の先入観を取り払ったらどうだろう。近現代劇で、ほぼ無名の主人公の『いだてん』は、半世紀を超える大河ドラマ史において極めて異端に見られているが、確かに変化球ではあるものの――実はそれほどでもない。

何も大河は、戦国や幕末ばかりをやっているワケじゃない。意外と変化球の作品も多い。

例えば、14作目の『風と雲と虹と』は、歴史ドラマでは珍しい平安中期が舞台だった。22作目から24作目までは3作続けて近現代劇で、3作目の『いのち』に至っては、終戦直後からリアルタイムの現代までが描かれた。31作目から33作目は通年放送をやめて半年間や9ヶ月間の放送になり、扱う題材も「琉球王国」や「奥州藤原氏」などチャレンジングなものだった。

また、『いだてん』が無名の主人公だから感情移入しづらいという声もあるが、それにも異を唱えたい。歴代の大河を紐解くと、5作目の『三姉妹』で早くも架空の人物が主人公になっている。16作目の『黄金の日日』は、無名の豪商・呂宋助左衛門の生涯に光を当てる話だった。先に挙げた『いのち』に至っては、登場人物が全員架空で、歴史上の有名人が一切登場しないまま1年間、お茶の間はその空想劇に付き合わされた。脚本は、かの橋田壽賀子先生である。

そう、『いだてん』が特に異端というワケじゃない。時々、思い出したように変化球を投げるのが、これまでの大河のパターン。リレー形式の主人公にしても、11作目の『国盗り物語』や、39作目の『葵 徳川三代』で既に実証済みである。別段珍しくもない。ならば――お茶の間も肩の力を抜いて、よくある大河ドラマの変化球の1つくらいの軽い気持ちで、『いだてん』を視聴したらどうだろう。

え? 金栗四三の話だけならいいが、途中で古今亭志ん生のパートが挿入されるから、混乱する?

まぁ、分からないではないが――それについては、例えばこう考えるのはどうだろう。これは、日本の『フォレスト・ガンプ』であると。

まず、高座で語る晩年の古今亭志ん生(ビートたけし)が、バス停のベンチに座って隣の人に話しかける現代のフォレストだ。つまり物語の語り部である。そして、回想話に出てくる若き日の志ん生=孝蔵(森山未來)が、若き日のフォレスト。で、孝蔵はなぜか行く先々で金栗四三やオリンピック関連の人々に出くわすが、これもフォレストがケネディ大統領と握手したり、ウォーターゲート事件に遭遇する構造と同じだ。

つまり――“東京オリムピック噺”という壮大な歴史絵巻があり、その絵巻の中を若き日の志ん生=孝蔵が神出鬼没に動き回り、それを晩年の志ん生が回想する――ほら、こう整理すると、なんてことないでしょ。

そうなると、演出の方々にも1つだけ注文を付けさせてもらいたい。

晩年の志ん生は高座の語りに徹して、極力動かないほうがいい。その方が粋というもの。そして孝蔵も、毎回なぜかオリンピック関連の人たちと出くわす“出オチ”的な扱いに留める。その一瞬の画面の切り取りで、演じる森山未來サンの躍動感を魅せるのがいいのではないか。ほら、6話の「お江戸日本橋」のラスト、五輪の花火を背景に日本橋で四三と孝蔵がすれ違うシーンは最高だった。これ即ち、引き算の演出である。

どうだろう。『いだてん』は実は面白い。今後、視聴率を上げるために必要なことは、何かを足すことではない。引き算である。

  • 草場滋(くさば・しげる)

    メディアプランナー。「指南役」代表。1998年「フジテレビ・バラエティプランナー大賞」グランプリ。現在、日経エンタテインメント!に「テレビ証券」、日経MJに「CM裏表」ほか連載多数。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。代表作に、テレビ番組「逃走中」(フジテレビ)の企画原案、映画「バブルへGO!」(馬場康夫監督)の原作協力など。主な著書に、『テレビは余命7年』(大和書房)、『「朝ドラ」一人勝ちの法則』(光文社)、『情報は集めるな!」(マガジンハウス)、『「考え方」の考え方』(大和書房)、『キミがこの本を買ったワケ』(扶桑社)、『タイムウォーカー~時間旅行代理店』(ダイヤモンド社)、『幻の1940年計画』(アスペクト)、『買う5秒前』(宣伝会議)、『絶滅企業に学べ!』(大和書房)などがある

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