<h3><span class="strongInContent">松田聖子を生み出した’80年…アイドル史のエポックに</span></h3>
<p>’80年４月１日。日本のアイドル史上、最も重要な存在のひとりがデビューする。</p>
<p>誰もが思い浮かべるだろう、<span class="strongInContent">松田聖子</span>である。</p>
<p>資生堂の洗顔フォーム「エクボ」のCMソング『裸足の季節』でデビュー、続く７月発売の２枚目のシングル『青い珊瑚礁』がオリコンチャート２位、『ザ・ベストテン』では１位を獲得するヒットとなり一躍トップアイドルの仲間入りを果たす。</p>
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<p>以後、３枚目の『風は秋色/Eighteen』から’88年の『旅立ちはフリージア』まで24曲連続オリコンチャート週間１位を獲得。同年のブロマイド年間売り上げも１位となり、レイヤーカットをアレンジしカールを組み合わせた聖子の初期の髪型は「聖子ちゃんカット」と呼ばれ若い女性の間で流行した。人気が爆発するいっぽうでその仕草やキャラクター、『ベストテン』１位獲得時に「<wbr></wbr>おかあさ〜ん」と泣いて呼びかけたことなどが「ぶりっ子」と揶揄されることもあり、女性お笑い芸人にネタにされたり一般の女性に反感を買われることもあった。</p>
<p>この松田聖子を生み出した’80年という年が、アイドル史の中でのひとつのエポックとなる。</p>
<figure id="attachment_355729" aria-describedby="caption-attachment-355729" style="width: 703px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="1f167d24"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/01/2ee39cc37ed68830f4be6db82645ac48.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-355729" class="wp-caption-text">TBSドラマ『はじめての情事』の主演で、記者会見をする松田聖子（’83年年９月８日）（PHOTO：共同通信）</figcaption></figure>
<p>同年デビューの女性アイドルは、西城秀樹の妹としてオーディションに合格した『スマイル・フォー・ミー』や『けんかをやめて』の<span class="strongInContent">河合奈保子</span>、『ハロー・グッバイ』や『春なのに』のヒット曲をもち、現在の天皇陛下がファンでコンサートにも訪れたことでも注目を集めた<span class="strongInContent">柏原よしえ</span>（現・柏原芳恵）、のちに『タッチ』のヒットでも知られる岩崎宏美の妹・<span class="strongInContent">岩崎良美</span>などがいる。</p>
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<p>いっぽうドラマ『３年B組金八先生』（TBS系）の生徒役として出演していたジャニーズ事務所（現・SMILE-UP.）所属の<span class="strongInContent">田原俊彦</span>、<span class="strongInContent">野村義男</span>、<span class="strongInContent">近藤真彦</span>の３人が「たのきんトリオ」と称され、爆発的人気を得る。なかでも田原と聖子はNHKの音楽番組『レッツゴーヤング』内で結成されたグループ「サンデーズ」のメンバーとしてもお茶の間に親しまれ、２人が共演したグリコチョコレートのCMも話題を集めた。『金八』では、不良女生徒役で注目を集めた<span class="strongInContent">三原順子</span>（現・三原じゅん子）も輩出、同年『セクシー・ナイト』でデビューを飾った。</p>
<p>聖子とたのきん、女性アイドルと男性アイドルが同時期に爆発的人気を得たことによって、しばらく低迷気味だったアイドル界は一気に勢いを取り戻し、『ザ・ベストテン』や『夜のヒットスタジオ』『ザ・トップテン』『レッツゴーヤング』『ヤンヤン歌うスタジオ』といった、人気アイドルが多数出演する歌番組、ランキング番組も一気に華やぐアイドル黄金時代が幕をあける。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="松田聖子と山口百恵…２人の最初で最後の共演"></div>
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<h3><span class="strongInContent">松田聖子と山口百恵…２人の最初で最後の共演は</span></h3>
<p>’80年は、’70年代を駆け抜けた山口百恵が結婚・引退した年でもある。百恵の解散コンサートが開催されたのは、『青い珊瑚礁』のヒットの余韻も残り聖子の３枚目のシングル『風は秋色/Eighteen』が発売された’80年10月。ピンク・レディーも同年の９月に解散を発表（解散コンサートは’81年３月）、’70年代と’80年代それぞれを代表する女性アイドルのバトン交換のようなタイミングには不思議な因縁、運命のようなものを感じずにはいられない。</p>
<p>この年の９月に『青い珊瑚礁』で聖子が『ザ・ベストテン』で１位を獲得した週に山口百恵が10位でランクイン、これが２人の最初で最後の共演となった。</p>
<p>翌’81年は、<span class="strongInContent">伊藤つかさ</span>が『少女人形』でデビュー。たのきんトリオの冠バラエティ番組『たのきん全力投球！』から田原俊彦の妹役としてデビューしたのが<span class="strongInContent">松本伊代</span>で、同年の『センチメンタル・ジャーニー』で歌手デビューを飾ることとなるが、まだ聖子の勢いは止まることを知らない。</p>
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<h3><span class="strongInContent">「花の82年組」デビュー</span></h3>
<p>そして訪れる’82年。突如として地球上の生物が爆発的に多様化したカンブリア爆発のごとく、’80年に匹敵、あるいは凌駕するような人気アイドルが多数登場、のちに「花の82年組」と呼ばれるようになった。</p>
<p>その代表格が<span class="strongInContent">中森明菜</span>、そして<span class="strongInContent">小泉今日子</span>だ。’82年にデビューした主な女性アイドルは、２人のほかに、<span class="strongInContent">堀ちえみ</span>、<span class="strongInContent">早見優</span>、<span class="strongInContent">石川秀美</span>、<span class="strongInContent">三田寛子</span>、男性アイドルでは<span class="strongInContent">シブがき隊</span>と、豪華な顔ぶれが並ぶ（’81年10月デビューの松本伊代も「82年組」扱いをされることがある）。彼女たち以外にもこの時期の女性アイドルのデビュー当時の髪型は、ほとんどが「聖子ちゃんカット」であり、そこからも、いかに松田聖子の影響力が大きかったかをうかがい知ることができる。</p>
<figure id="attachment_355731" aria-describedby="caption-attachment-355731" style="width: 839px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="1d926a4d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/01/f13f17ad627b1171677b5a9023fae79e.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-355731" class="wp-caption-text">デビュー当時は「聖子ちゃんカット」だったが、翌年’83年にはショートカットに（’82年10月）（PHOTO：共同通信）</figcaption></figure>
<p>なお、明菜と今日子は、’70年代の女性アイドル界を引っ張った「中三トリオ」とピンク・レディーを生み出した『スター誕生！』出身者。この２人を送り出した翌年に、昭和アイドルの歴史に大きく貢献した番組は、その役割を果たしたかのようにいったん幕を下ろした。</p>
<p>’82年組の登場後も’80年組の人気はまだまだ衰えをみせず、その放つ光が強すぎたゆえか、続く’83年デビュー組の<span class="strongInContent">大沢逸美</span>、<span class="strongInContent">伊藤麻衣子</span>（現いとうまい子）、<span class="strongInContent">岩井小百合</span>、<span class="strongInContent">桑田靖子</span>、<span class="strongInContent">松本明子</span>、<span class="strongInContent">森尾由美</span>らはそれぞれ一定の人気を得るものの、結果的に「不作」と呼ばれる不本意な評価をされることとなってしまった。</p>
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<p>興味深いのは、彼女たち人気アイドルたちも、デビューして即人気が出たわけではないケースが多いことだ。山口百恵やキャンディーズなどがそうだが、’80年・’82年の、アイドル史の中でも特に豊作の年のアイドルのデビュー曲を並べてみると、それぞれデビュー曲でいきなりブレイクしたわけではないことがわかる。</p>
<ul>
<li>・松田聖子『裸足の季節』</li>
<li>・河合奈保子『大きな森の小さなお家』</li>
<li>・柏原芳恵『No.1』</li>
<li>・三原順子『セクシー・ナイト』</li>
<li>・堀ちえみ『潮風の少女』</li>
<li>・三田寛子『駈けてきた処女』</li>
<li>・小泉今日子『私の16才』</li>
<li>・石川秀美『妖精時代』</li>
<li>・早見優『急いで！初恋』</li>
<li>・中森明菜『スローモーション』</li>
</ul>
<p>男性アイドルも、たとえば旧ジャニーズでSMAPや嵐がブレイクまで時間がかかった例もある。デビューしていきなり売れるよりも少しずつ時間をかけて人気を獲得していくほうが、より大きく長い人気につながりやすいのかもしれない。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="「角川三人娘」"></div>
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<h3><span class="strongInContent">薬師丸ひろ子、原田知世、渡辺典子…「角川三人娘」</span></h3>
<p>’80年代前半にあった人気女性アイドルもうひとつの流れが、角川映画の世界だ。</p>
<p>映画『野生の証明』で女優としてデビュー後、主演映画『セーラー服と機関銃』の同名タイトル主題歌で歌手デビューを果たした<span class="strongInContent">薬師丸ひろ子</span>から始まり、その後、<span class="strongInContent">原田知世</span>、<span class="strongInContent">渡辺典子</span>へと角川映画の主演をつとめ人気を獲得するという系譜は続き、３人は「角川三人娘」とも呼ばれた。角川映画の映画、主題歌、小説というメディアミックス展開によって人気を獲得していくという流れは、かつてエンタメの主役だった映画でのスター育成システムを時代に合わせ進化させた形とも見える。</p>
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<p>’80年代も半ばに差し掛かると、’80年組、’82年組のアイドルとしての人気もさすがにピークを超えた感が出てくる。男性アイドルの世界では、<span class="strongInContent">チェッカーズ</span>が登場、<span class="strongInContent">吉川晃司</span>もアイドル的人気を獲得するなどアーティスト的香りを持つ存在が人気となる。</p>
<p>聖子ちゃんカットでデビューし、デビュー曲『私の16才』、２曲目『素敵なラブリーボーイ』がいずれも’70年代アイドルのカバーと、これまでのアイドル像を踏襲させられてきた小泉今日子は聖子ちゃんカットを捨て、個性を前面に出すことで群雄割拠の’82年組の中から明菜と並ぶ抜きん出た存在になり、これまでとはまったく違うサブカル感もまとうアイドルへと進化、’85年リリースの『なんてったってアイドル』では秋元康の手によるメタな視点でアイドルという虚構の偶像そのものを切り取った楽曲を叩きつけることになる。</p>
<p>’85年、松田聖子が結婚する。’80年代初頭を大きく引っ張ったアイドル・オブ・アイドルの結婚。しかし、山口百恵と違い聖子は長女の出産後に復帰、アイドル性を崩すことなく活動し、ママでもアイドル、「ママドル」という言葉も生み出し、新たなるアイドル像を切り開き現在に至る。</p>
<p>アーティスト性を持つアイドルへの移行、聖子の結婚……混沌とし始めたアイドル黄金時代を根底から揺るがすことになるグループが、誕生することになる。</p>
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ライター・編集・インタビュアー。学生時代よりライター活動を開始、現在はウェブや雑誌などで主にエンタメ系記事やインタビューなどを執筆。

太田サトル

’80年４月１日。日本のアイドル史上、最も重要な存在のひとりがデビューする。誰もが思い浮かべるだろう、松田聖子である。彼女を生み出した’80年という年が、アイドル史の中でのひとつのエポックとなる。

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