「選手生命が絶たれることだって」…スキージャンプの女王・高梨沙羅が勝てなくなった「本当の理由」
スキージャンプW杯歴代最多63勝の絶対女王はなぜ表彰台に届かなくなったのか? 原因はケガかメンタルかーー 五輪の女神に嫌われた天才ジャンパーの現在地
女王は、競技人生最大の危機を乗り越えられるのか――。スキージャンプW杯で歴代最多の優勝63回、年間総合優勝4回と圧倒的な実績を誇る高梨沙羅(27)の低空飛行が続いている。
1月13日に札幌で行われたW杯9戦目では今季最高の4位に入賞したが、その表情はどこか暗いままだった。
「昨季は3位を2回獲ったのみで、キャリア初の0勝に終わりました。今季は表彰台からも遠ざかってます。周囲からは『もう復活は厳しい』と心ない声も聞こえてきます」(全日本スキー連盟関係者)
なぜ女王は飛べなくなったのか? 高梨を長年取材している国際スキージャーナリストの岩瀬孝文氏が解説する。
「大きな原因は両ひざのケガです。昨年2月の練習中、着地の衝撃でひざに力が入らなくなってしまい、転倒。病院で、脛骨骨挫傷と診断されました。スキージャンプにおいて、ひざは踏み切りにも着地にも重要なパーツ。
オフに下半身の筋肉を鍛え直し、ひざへ負担をかけない跳躍を目指していたのですが、ひざのケガは治りにくい。少し改善しても、大会に出場すればまた負担がかかって回復が遅れる。だから今、あえてテレマークを入れないようにしているのでしょう」
テレマークとは、ジャンプの着地の際に、両足を前後に開いて片方のひざを深く曲げ、両腕を広げて安定した姿勢をとることを指す。テレマークが入れば得点はアップし、入らなければ下がる。それでもテレマークを入れられないほど、ひざの状態は悪いのだ。
「無理に入れれば、着地の衝撃で靭帯を切り、選手生命が断たれることだってあり得ます」(前出・スキー連盟関係者)
高梨はこのまま終わってしまうのか。岩瀬氏が首を振る。
「今季は大きな大会がない。『なんとしてでも勝ちに行く』とか、『表彰台に必ず上がる』というよりは、勝負勘が鈍らないように競技を続けながらひざを治すことに主眼を置いているんです。目標としているのは、’26年にイタリアで行われるミラノ・コルティナダンペッツォオリンピックでしょう。
スキージャンプの会場は、’13年の世界選手権で金メダルを獲った『ヴァル・ディ・フィエンメ』。’26年に向けてベストの8割くらいまでひざの状態を戻し、そこに彼女の経験を足せば、今からでも世界最高の選手に戻れますよ」
今季から強豪国・フィンランドのコーチがついたこともプラス材料だという。
「レジェンド・葛西紀明(51)を復活させたのも、北京五輪で金メダルを獲った小林陵侑(27)を指導しているのもフィンランド人です。今年は新コーチのノウハウを体に叩き込みつつ、状態を上げるための雌伏の時。今後、彼女は必ず、二度目の全盛期を迎えるはずです」(同前)
高梨が見据えているのはただ一つ。イタリアの冬空を舞う大ジャンプだ。
『FRIDAY』2024年2月2・9日号より
PHOTO:岩瀬孝文