浅井 秀樹

<h3><span class="strongInContent">社長が70</span><span class="strongInContent">～80</span><span class="strongInContent">代の企業の多くが「後継者不在」……高額な事業譲渡Ｍ＆Ａの費用を払えず倒産も</span></h3>
<p>中小零細も含む企業で、経営者の６割超に後継者がいないという調査結果がある。中小零細などでは経営者が突然の体調不良や死亡で経営不振となり、後継者がいなくて倒産することもある。経営者が早めに後継者を外部に求め、企業を売買譲渡するなどの動きもあるが、さまざまな課題が山積している。</p>
<p>後継者難で倒産すると、地域経済にも影響する。</p>
<p><span class="strongInContent">「パート・従業員とか地域の雇用問題にもなり、地域経済衰退にもつながりかねません」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p>と話すのは、東京商工リサーチ情報本部の坂田芳博課長。大企業のような定年もない中小零細の経営者には「元気なうちは自分が働く」という人が少なくないという。坂田さんは<span class="strongInContent">「経営者がいまは元気でも、会社を存続させるのか、存続させるなら後継者をどうするのか、自覚しないと始まらない」</span>と話す。</p>
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<p>こうした後継者難の背景には<span class="strongInContent">「経営者が高齢化していることもある」</span>と、坂田さんは指摘する。</p>
<p>国も企業の後継者難に危機感を強め、対策を進めようとしている。中小企業庁の検討資料によると、中小・小規模事業で70歳を超える経営者が’25年までに約245万人となり、その約半数の127万人が後継者未定になると推測する。これを放置すると廃業が急増して、’25年に累計で約650万人の雇用、約22兆円の国内総生産（GDP）を失う可能性があるとみている。</p>
<p>町工場のような中小企業には、優れた技術で日本のものづくりを支えてきたところもあり、技術の承継も課題になっている。</p>
<figure id="attachment_356323" aria-describedby="caption-attachment-356323" style="width: 640px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="40ea6ef8"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/55df39e5dbff94aca6635f0bdb6adf31.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-356323" class="wp-caption-text">雇用だけでなく、優れた技術による日本のものづくりが失われる可能性も指摘されている</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">事業譲渡のM&amp;Aに消極的な理由は「世間体」！？</span></h3>
<p>企業をそのまま譲渡する方法として、合併・買収（M&amp;A）がある。企業の売り手と買い手を探し出して結びつけるのがM&amp;A仲介ビジネスだ。大手銀行を退職後にそのビジネスに従事する50代の男性は、後継者のいない企業もM&amp;Aの対象にしている。こうした事業譲渡の手法を利用するのに経営者が消極的な理由を「世間体」と指摘し、次のように説明する。</p>
<p><span class="strongInContent">「『刀が折れ、矢が尽きて敗北』というイメージがまだ残っています。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">最近は後継者がいなくて、にっちもさっちもいかなくなり、従業員から突き上げられたりして、やむなく売却に踏み切るオーナー会社もあり、状況は変わってきています」</span></p>
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<p>昨年の「後継者不在率」は約61％と、前年に比べ1.19ポイント上昇し、調査開始以来で初めて６割を超えた。東京商工リサーチが約17.1万社を対象に調べた。後継者問題が急務ではない新興企業の若い経営者が増えたこともあるが、経営者が高齢で後継者が不在だと、その死亡や体調不良で倒産に至る懸念があると指摘する。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="後継者不在による倒産件数は、過去最高水準に"></div>
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<h3><span class="strongInContent">後継者不在による倒産件数は、過去最高水準に</span></h3>
<p>後継者不在による倒産件数は昨年、過去最高水準で増えているという。東京商工リサーチでは、そのうち経営者の死亡や体調不良が約９割を占めていると分析している。</p>
<p>東京商工リサーチの「後継者不在率」の調査によると、30代や40代の若い経営者では９割前後。一方、60代では約46％、70代が約30.5％、80代でも約23.8％となり、経営者の年齢が高く事業承継の判断や対応が急務なのに、手つかずになっている実態が浮かび上がってくる。</p>
<p>日本政策金融公庫が昨年、インターネットで実施した「経営者の引退と廃業に関するアンケート」によると、「後継者を探すことなく事業をやめた」が95.9％を占めた。その理由は、「そもそも誰かに継いでもらいたいと思っていなかった」が55％と最も多かった。廃業を決めた企業は経営者のみで、従業員がいないことが多い一方で、規模の大きな企業では事業承継が増えているとも指摘する。</p>
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<p>中小企業庁は、中小企業経営者の高齢化が進み、経営者年齢のピークはこの20年間で50代から60代や70代へ上昇したと分析している。後継者不在は中小企業の廃業の大きな要因の一つとし、経済・社会を支える雇用や技術が失われる可能性があると危機感を強めている。そこで、事業承継による世代交代や、M&amp;Aによる規模拡大が企業の成長に効果的として、その支援を推進している。</p>
<figure id="attachment_356324" aria-describedby="caption-attachment-356324" style="width: 690px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e2a2641c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/795d5ba774036d60848769b40b47c2ce.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-356324" class="wp-caption-text">休廃業時の経営者年齢は、’23年平均で70.9歳となり、３年連続で70歳を超えた（帝国データバンク・全国企業「休廃業・解散」動向調査2023より）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_356325" aria-describedby="caption-attachment-356325" style="width: 657px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f7946a5f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/fadf8d6686a75ddbd9bf4057506aa6be.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-356325" class="wp-caption-text">年代別では「70代」が42.6％と４割を超えた。事業承継がスムーズに進まず、後継者へのバトンタッチができないまま代表者の高齢化が進み、休廃業・解散を余儀なくされている可能性がある（同上調査より）</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">事業譲渡の妨げになっている高額な「M&amp;A事業者の仲介料」「資産査定の費用」</span></h3>
<p>中小企業庁が昨夏まとめた「中小M&amp;A推進計画」の主な取り組み状況によると、中小M&amp;Aの実施件数は増えており、年間３千～４千件程度とみている。</p>
<p>前出の元大手行員でM&amp;A仲介事業者は、M&amp;Aビジネスをめぐる実態をこう話す。</p>
<p><span class="strongInContent">「地元の地方銀行が、できれば同じ地域内で相手を探しますが、元々地方は経済的なキャパが小さく、東京の仲介専門会社に依頼するケースも増えています。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">ただ、東京の専門会社の中には儲けに走るあまり、経営情報の守秘義務や買い手の素性などを無視して高く売ることだけを目指して走り回り、問題が起きたりもしています」</span></p>
<p>中小・零細企業は、経営者の手腕に依存するところが少なくない。後継者を探しているとか、事業承継先を探しているという情報は、その経営者が退くことを意味するため、将来性に不安になった取引先が撤退するなどの問題が起きやすい。このため、M&amp;Aをめぐる情報は守秘性が高いとされる。</p>
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<p>ある経営者が譲渡先を探していることがわかると<span class="strongInContent">、</span>「競合企業が取引先をごっそり引き抜くこともあるかもしれません」と東京商工リサーチの坂田さんは話す。販売先や資材納入の取引先にとっては、新たな譲渡先の経営がどうなるのか不安になるなかで、既存の競合企業に取引を移した方が安心にみえるのかもしれない。</p>
<p>M&amp;Aをめぐる問題について、坂田さんは仲介事業者の報酬が高いことや、デューデリジェンスと呼ばれる資産査定の費用の高さを挙げる。M&amp;Aに際して、売却企業の資産を査定するが、その費用が高いとされている。また、M&amp;A仲介事業者の成功報酬は、成約額の２割くらいともされ、それとは別に最低費用を設け、その額が２千万円くらいのところが少なくなく、安いところでも１千万円などとされる。</p>
<p>こうしたM&amp;A関連の費用が高額になることも、事業譲渡の妨げになっているとみられている。坂田さんは「中小・零細事業者にもM&amp;Aが身近になってこないといけない」とみている。M&amp;A仲介ビジネスの透明性が高まり、利用しやすくなれば事業譲渡が進み、後継者難の問題に光明が見えてくるかもしれない。</p>


浅井秀樹

経営者の６割超に後継者がいないという調査結果がある。経営者が早めに後継者を外部に求め、企業を売買譲渡するなどの動きもあるが、さまざまな課題が山積している。後継者難で倒産すると、地域経済にも影響する。

あなたの会社は大丈夫…？　企業「後継者不在率」は61％…’25年までに650万人が失業の可能性も

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