バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』（竹書房新書）を上梓。電子書籍『異聞 徒然草』シリーズも出版

島 右近

<figure id="attachment_358190" aria-describedby="caption-attachment-358190" style="width: 768px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="89e55384"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/0e4da9cf59e6e8faee11862ec22ce817.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-358190" class="wp-caption-text">『ブギウギ』でヒロインを務める趣里だが……</figcaption></figure>
風雲急を告げる朝ドラ『ブギウギ』（NHK）。新しい命の誕生に湧いたのも束の間、２月２日に放送された第86話では、愛する人の死を告げられ、呆然とするスズ子（趣里）の“無言の９秒間”が、大きな注目を集めている。
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今回の朝ドラは戦後の大スター、“ブギの女王”と呼ばれた笠置シヅ子がヒロイン・福来スズ子のモデル。歌や踊りと持ち前の明るさで、傷ついた日本を明るく照らすヒューマンストーリーだ。
長く苦しかった戦争も、ヒロインたちは“エンターテインメントの力”を信じて乗り越えてきた。しかし、新しい命の誕生の直後に、最愛の人で最大の理解者である愛助（水上恒司）の訃報に接する。
だが、このドラマチックすぎる展開には、危惧する声もあったという。
「制作部内でもタイミングについてかなり議論した結果、脚本を手掛ける足立紳さんは『劇的ではあるが、この流れが一番しっくりくる』『生まれる前に愛助の死を伝えるのは、スズ子にとって残酷すぎる』と発言していたことが明らかになっています」（テレビ局関係者）
一度は、絶望のあまり
「ワテも死にたい」
と呟くスズ子。しかし、愛助が死の間際に書いた手紙がスズ子の気持ちを前に向かせる。
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「スズ子さん、辛いことがあったら歌ってください。そして今、スズ子さんの隣で可愛い顔している子をみてください。きっとその子と一緒なら、何があっても生きていけるはずや」
この言葉とともに、添えられていたのが、今生の別れとなった箱根旅行で撮った写真の数々。もし箱根で互いの夢を語りあうシーンがなければ、“スズ子の復活”はもっと空々しいものになっていたに違いない。
<div data-friday-nextpage-lead="『エール』と比べると、戦争に関する描き方が……"></div>
戦時下におけるエンターテインメントの苦悩は描いてきたものの、今作ではスズ子自身に迫る危機はあまり描かれてこなかった。特に終戦のシーンでは、それが顕著になって表れている。
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終戦で食べ物こそ不足していたものの、劇場が再開され“ブルースの女王”と呼ばれる茨田りつ子（菊地凛子）は心に秘めた思いをスズ子に告げ、涙ながらに「別れのブルース」を熱唱。そしてスズ子も久々に「ラッパと娘」を披露する。圧巻のパフォーマンスを見せ、エンタメの力が蘇ったことを高らかに宣言している。
だが、何かが足りない。そう感じてしまったのは、私だけだろうか。
「『ちゅらさん』『おひさま』『ひよっこ』と、三度朝ドラを手掛けた脚本家・岡田惠和氏は、『“朝ドラ”で戦争を描く場合、作家性が問われる』と、常々話しています。
例えば『ブギウギ』と同じく音楽を題材にした朝ドラ『エール』では、脚本も手掛けたチーフ演出の吉田照幸さんは“コロナ禍”で撮影が休止すると、すでに書き終えていた脚本を主人公・裕一（窪田正孝）の苦悩を色濃く描くために、戦場描写をより一層鮮烈なものに書き換えています」（制作会社プロデューサー）
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裕一は、慰問のために地獄絵図と化したビルマ戦線の奥地へと赴く。ところが音楽会当日、恩師（森山直太朗）まで狙撃兵の銃弾を浴びて失い、裕一は目の前で起きた現実が受け止められず、半狂乱となる。だが戦時歌謡を作った責めは、これだけでは終わらない。
裕一の歌に感化された青年（山時聡真）が、予科練に進みやがて戦死。その青年に恋心を抱いていた娘・華が嘆き悲しむ姿を見て「僕は、音楽が憎い」と呟き、裕一はその日以来、譜面を見ることすらできなくなってしまう。『エール』にある切迫感が、『ブギウギ』の終戦のシーンにはやはり足りない。
ひるがえって新しい命の誕生、愛助の死を描くシーンでは、スズ子の切実な思いがひしひしと伝わってくる。
「高く飛ぶためには、深くしゃがみこむことが必要。これはドラマの場合にも言えること。二人の今生の別れを丹念に描くことで悲しみも深まり、“ブギの女王”としての輝きは光り輝くばかり。
スズ子の人生にとっての最大のターニングポイント。ここに来て、やっとドラマが大きく動き始めました」（制作会社ディレクター）
未曾有のピンチに襲われるスズ子。しかし苦境を乗り越えるシーンこそ、ヒロインを演じる趣里にとって最大の見せ場だ。
今週、第19週は「東京ブギウギ」。いよいよ高く舞い上がるヒロインにお目にかかれそうだ――。
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島右近（放送作家・映像プロデューサー）

共同通信

NHK朝ドラ『ブギウギ』が最大の見せ場を迎えようとしている。趣里が演じるヒロイン・福来スズ子の最愛の人である愛助の死を迎えて……

「戦争描写の物足りなさ」を補って余りある…NHK朝ドラ『ブギの女王』趣里が魅せた「愛助の死」

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