1987年生まれ。スポーツや経済、事件、海外情勢などを幅広く取材。著書に『コロナ禍を生き抜く タクシー業界サバイバル』。『甲子園を目指せ！ 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数

栗田 シメイ

１月下旬――新千歳空港に到着し、タクシー乗り場に向かうと一台もタクシーが見当たらなかった。飛行機が大幅に遅延したせいかもしれないと随分待ったが、一向にタクシーが来る気配がない。周りを見渡すと、同じように手持ち無沙汰にしている外国人観光客の姿が散見された。
<figure id="attachment_358635" aria-describedby="caption-attachment-358635" style="width: 4032px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="3a215f31"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/ec693d859b35e59621541716e91958da.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-358635" class="wp-caption-text">新千歳空港のタクシー乗り場</figcaption></figure>
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タクシーを諦めて札幌行きの急行電車に乗り込んだが、走り出した後に大雪で電車が止まり、１時間以上遅延した。途中下車して迎車のタクシーを呼ぶべく、タクシー会社を探して電話をするも、「すべて出払っている」と断られた。筆者が慌てふためく様子を見て、札幌在住だという男性は諭（さと）すように話した。
「冬の北海道は、これが当たり前。たぶん今日は、タクシーは捕まらないんじゃないかな」
男性の言葉を噛み締めているうちに電車は札幌駅に到着。駅を出ると100人以上のタクシー待ちの人々が行列をなしていた。最大の歓楽街であるすすきの周辺も、同じくタクシーを待つ人々で溢れていた。
<figure id="attachment_358636" aria-describedby="caption-attachment-358636" style="width: 4032px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="671dd282"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/08b8e739efe4b5c6b38d594acfa9abd7.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-358636" class="wp-caption-text">札幌駅前にも長蛇のタクシー列が</figcaption></figure>
冬の北海道は慢性的なタクシー不足が生じやすいという。全国的にタクシー不足が叫ばれて久しいが、私が近年訪れた場所の中で、これほどタクシーを捕まえるのが困難な地域は記憶にない。札幌は道内の中では「タクシー不足が比較的緩やかな地域」と言われているそうだが、少なくとも大雪の札幌は明らかな供給不足だった。
北海道ハイヤー協会のデータによると、５年前の札幌市とその周辺３市区域のドライバーの数は9000人だったが、昨年は約6600人まで減少していた。北海道全体の現在のタクシードライバー数は約１万3200人。コロナ前と比べると約25％も落ち込んでいた。昨年から急速に回復し始めたインバウンド客の需要も重なり、タクシー不足が深刻化している。
道内に支社を10社持つ「互信ホールディングス株式会社」の広報担当者が言う。
「今年はまだ雪の影響は少ないほうです。２年前は道路が凍ってまともに営業できない期間がありましたから。ただ、冬季は車線規制が頻繁に行われているので、道路渋滞に巻き込まれてしまうことが珍しくない。それでも、北海道では夏季よりも冬季のほうがタクシーの売上げが立つのです」
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なぜここまで乗務員不足が深刻になったのか。
「改善基準告示により、４月から時間外労働に上限が設けられるようになる影響はあるでしょうね。タクシー業界から転職をする人が増えています。北海道はタクシーの影響が天候に左右されやすく、ドライバーの高齢化も深刻。平均年齢は約63歳と全国平均よりも４歳以上も高い」
<div data-friday-nextpage-lead="夜勤しなくても収入は増加"></div>
夜のすすきの付近で拾ったタクシーの30年選手だというベテランドライバーはこう私に打ち明けた。
「札幌の人は1300円未満の近距離乗車が多い。電車の遅延が多い、バスがなかなか来ないなど理由は様々ありますが、『寒い中を歩きたくない。雪の中で歩きたくない』というのが一番多いと感じます。運転する側も本州ならロング（長距離移動）は歓迎でしょうが、北海道だと繁華街に戻るのにも時間がかかるから短距離をたくさん乗せるほうがありがたい。雪道を夜に運転するのは危険だから、朝勤や日勤希望で入ってくるドライバーが増えました。雪の日の夜が一番、忙しい」
<figure id="attachment_358637" aria-describedby="caption-attachment-358637" style="width: 4032px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b117e177"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/0a520b37650e92dac4edc318bc965a8a.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-358637" class="wp-caption-text">日本屈指の歓楽街である、すすきのでタクシーを拾うのは至難の業</figcaption></figure>
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中心部から少し離れて、円山公園に行くと何台か空車のタクシーを発見した。歴45年という超ベテランのドライバーは、滑らかな口調で話し始めた。
「迎車やアプリ配車が主流で、あなたのように流しを拾えるのはラッキーですよ。売上げはかなり良くて、日勤だけでも例年の２～３割増し。アベレージで４万円は稼げている。短距離移動で利用したい地元の方は困っているでしょうけど、我々は忙しくて嬉しい悲鳴をあげてますよ」
札幌よりもタクシー不足が深刻だと言われているニセコでは、ピークシーズンに合わせて東京や札幌からドライバーが派遣される「ニセコモデル」の実証実験が昨年末からスタート。１ヵ月間で6000件を超える利用者が出るなど、滑り出しは好調だ。東京都タクシー協会の関係者は筆者の取材に「今後、ニセコモデルが全国的に広がっていく可能性がある」と明かした。不足が深刻化している地域にとって“県外派遣”は解決策の１つとして浸透していくかもしれない。
<figure id="attachment_358638" aria-describedby="caption-attachment-358638" style="width: 4032px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c1a4e9b8"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/32afefb1357d79702457bfbf7fbc80a8.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-358638" class="wp-caption-text">外国人を乗せる機会は意外にも少ないという</figcaption></figure>
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それでも、雪に相対してはどうしようもない。
「暑くてもタクシーはストップしないけど、寒すぎるとタクシーは動かなくなるから……」
天災と日々向き合う北海道のタクシードライバーたちは、当たり前のようにそう話した。北海道の移動インフラ問題は、解決までにまだまだ時間を要しそうだ。

栗田シメイ

冬の北海道は、タクシーがつかまらない……。観光などで訪れた時にそう感じる人も少なくないだろう。これには、慢性的なタクシー不足と寒さという特殊事情があった。

「無理して夜は働かなくても…」冬の札幌が直面する「深刻なタクシー不足」を引き起こす特殊事情

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