<h3><span class="strongInContent">低予算ならではの工夫と明確なターゲット</span></h3>
<p>ここ数年、BS放送の番組に出演する芸人が続出している。’20年のパイロット版を経て’21年１月からレギュラー化した<span class="strongInContent">『極楽とんぼの週末極楽旅』</span>（BS日テレ）、同年10月には<span class="strongInContent">『バナナマン日村が歩く! ウォーキングのひむ太郎』</span>（BS朝日）、<span class="strongInContent">『X年後の関係者たち〜あのムーブメントの舞台裏〜』</span>（BS-TBS）がスタートした。</p>
<p>’22年３月にはBSよしもとが開局。『花王名人劇場』や『よしもと新喜劇』といった過去番組の放送をはじめ、ランニング番組<span class="strongInContent">『ブラマヨ小杉の「走れ！こすっちょ」』</span>（昨年７月からテレビ大阪でも放送開始）、千原ジュニアが全国各地の様々な人たちにインタビューする<span class="strongInContent">『ジュニア、伺う』</span>、東北各地を歩きながら自由律俳句を披露する<span class="strongInContent">『又吉・せきしろのなにもしない散歩』</span>、水川かたまりの地元・岡山県の食やアクティビティなどを紹介するロケ番組<span class="strongInContent">『空気階段の●山』</span>など、続々と新番組が始まっている。</p>
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<p>一方、同年４月に<span class="strongInContent">『飯尾和樹のずん喫茶』</span>（BSテレ東）がレギュラー化され、10月に’80年代の音楽やアーティストを深掘りする音楽バラエティー<span class="strongInContent">『霜降り明星のゴールデン☆80’S』</span>（BSフジ）、’23年４月に<span class="strongInContent">『ドランク塚地のふらっと立ち食いそば』</span>（BS日テレ）、10月に<span class="strongInContent">『ケンコバのほろ酔いビジホ泊 全国版』</span>（BS朝日）がスタート。不定期ではあるが、’22年12月から<span class="strongInContent">『錦鯉のいまオフってます。サイコーなひとり時間』</span>（BSフジ）が開始し、’23年９月に単発の<span class="strongInContent">『オードリー春日の趣味を見つけたい！』</span>（BS朝日）も放送されている。</p>
<p>さらに今年に入り、ゲストとじっくり語り合う<span class="strongInContent">『太田光のテレビの向こうで』</span>（BSフジ）が始まるなど、若手からベテランまであらゆる面々がBS放送で露出を増やしている。</p>
<p>’07年の<span class="strongInContent">『所さんの世田谷ベース』</span>（同）、’11年の<span class="strongInContent">『おぎやはぎの愛車遍歴 NO</span> <span class="strongInContent">CAR, NO LIFE!』</span>（BS日テレ）、’15年の<span class="strongInContent">『クイズ！脳ベルSHOW』</span>（BSフジ／MC ますだおかだ・岡田圭右）といった長寿番組のほか、’18年の<span class="strongInContent">『となりのスゴイ家』</span>（BSテレ東／アンガールズ）、’19年の<span class="strongInContent">『町中華で飲ろうぜ』</span>（BS-TBS／浅草キッド・玉袋筋太郎）などの人気番組も放送される中、BS放送は年々さらにラインナップを充実させているのだ。</p>
<figure id="attachment_359027" aria-describedby="caption-attachment-359027" style="width: 1520px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b73e5ae6"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/24148a60e53330d6b5fc94f68ccf52db.png" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-359027" class="wp-caption-text">「喫茶店が大好きっ！」そんな“ずんの飯尾和樹”が、気になる昭和レトロな『ずん喫茶』で美味しいコーヒーを１杯（BSテレ東『飯尾和樹のずん喫茶』公式HPより）</figcaption></figure>
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<h3><span class="strongInContent">番組が持つ個性をふんだんに届ける</span><span class="strongInContent"> </span></h3>
<p>とはいえ、なぜ地上波ではなくBSに出演する芸人が増え始めたのか。まず挙げられるのは、全体的に非常にリラックスした雰囲気を持っていることだ。</p>
<p>バナナマン・日村勇紀が都内を中心にウォーキングし、最後にご褒美の食事シーンが恒例化している『ウォーキングのひむ太郎』、極楽とんぼの２人がゲストとともにスマホもカーナビも使用せず旅をする『週末極楽旅』といった番組を見ても、出演者が自発的に行動しているのが見ていて心地よい。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="地上波では見られないエピソードが…"></div>
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<p>地上波のロケ番組のように効率よく飲食店や観光地を巡り見どころを作るのではなく、スタッフや地元民との自然なやり取りのほうに重きが置かれているように思う。また、喫茶店や蕎麦屋、中華料理屋、異郷の駅前食堂、建物巡りなど、あらゆるパターンのロケ番組が見られるのもBSならではの魅力だろう。</p>
<p>もう１つ、何らかのテーマを比較的少ない出演者でじっくりと深掘りする点も大きな特徴だ。例えば’14年に放送を開始した番組<span class="strongInContent">『球辞苑〜プロ野球が100倍楽しくなるキーワードたち〜』</span>（NHK BS１）は、“野球にまつわる究極の辞典”をコンセプトに制作されている。</p>
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<p>「流し打ち」「ヒットエンドラン」「ツーシーム」「完全試合」「投球間隔」など放送回ごとにテーマを変え、’19年12月から司会を務めるナイツ・塙宣之を中心に３、４人のスタジオゲストとともに語らっていく。</p>
<p>メイプル超合金・カズレーザーが司会を務める『X年後の関係者たち』も、基本的には同じスタイルだ。かつて一世を風靡したエンタメや商品、社会現象化したプロジェクトなどを採り上げ、その関係者３、４人を招いて映像VTRとともに当時の舞台裏を述懐。 毎回違うテーマを“同窓会形式で振り返る”というコンセプトも秀逸だ。</p>
<p>美術セットや豪華なキャスティングに力を入れるのではなく、“番組が持つ個性をふんだんに視聴者に届ける”という点でいずれも共通している。こうした見せ方は、低予算で制作されるBS放送ならではの工夫と言えるだろう。</p>
<figure id="attachment_359028" aria-describedby="caption-attachment-359028" style="width: 1932px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="70334065"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/c794022ed185d47b62a4abc4a7cfe32c.png" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-359028" class="wp-caption-text">’07年スタートの長寿番組、『所さんの世田谷ベース』（BSフジ公式HPより）</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">地上波では見られないエピソードが飛び出す</span><span class="strongInContent"> </span></h3>
<p>視聴者側からすると、地上波ではあまり見られないシーンやエピソードが飛び出す楽しさもある。</p>
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<p>この点においては、昨年４月に２週にわたって放送された『ウォーキングのひむ太郎』が真っ先に思い浮かぶ。バナナマン・日村勇紀とゲストのバカリズムが下積み時代に過ごした思い出の地（明大前、新代田、下北沢など）を巡る企画で、番組を見ているこちらも一緒に参加しているような気分になった。</p>
<p>何よりも、街をウォーキングしながら思い出話に花を咲かせる中で、バカリズムが「（筆者注：日村と遊んでいる中で）『これからどうする？』っていう話で『○○しーの、○○しーの、帰りーの』『帰んのかい』ってずーっと遊んでたのを、そのままネタにして『トツギーノ』に進化した」と語るなど、自然なやり取りの中でくだらなくも興味深いエピソードが次々と飛び出すのが新鮮だった。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="高めの年齢層をターゲットに…"></div>
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<p>また、今年１月３日に放送された<span class="strongInContent">『ひむひむゴルフ～仲間とプライベートなGOLF旅～』</span>（BSテレ東）も記憶に新しい。まず目を引くのが、バナナマン・日村、土田晃之、おぎやはぎ・矢作兼、オードリー・春日俊彰という珍しい組み合わせだ。</p>
<p>内容はプライベートのようにゴルフ場を旅するというもので、とくにプレー後に温泉やグランピングを楽しむ４人の姿が新鮮で胸が躍る。また放送翌日、矢作が自身のラジオ番組の中で、オープニング撮影後、プレー中盤の食事前後と春日がハンチングを被るシーンの前に逐一髪を洗って整髪料を落としていたことに触れ、「こいつはプロフェッショナルだなって感動した」と番組の裏話を明かしていたのも印象深い。</p>
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<p>長らく続く前述の『世田谷ベース』にしろ、所ジョージがアドリブで進行し視聴者を楽しませている。これに加えて時折大物ゲストが登場したり、ガレージを離れてサーキットレースに参加したり、同局のCS番組<span class="strongInContent">『しおこうじ 玉井詩織×坂崎幸之助のお台場フォーク村NEXT』</span>（フジテレビNEXT）に出演したりと、かねて自由度の高さとリアリティー、何らかの意外性がBS放送の武器になっているのだろう。</p>
<figure id="attachment_359029" aria-describedby="caption-attachment-359029" style="width: 1546px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="89efa178"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/02/afc8444a739ff0dc750edcc71d82e44f.png" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-359029" class="wp-caption-text">『オードリー春日の趣味を見つけたい！』（BS朝日公式HPより）</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">高めの年齢層をターゲットとする企画</span><span class="strongInContent"> </span></h3>
<p>「家でBSしか見てない。（中略）やっぱ１日にさ、夜帰って見られる番組数って決まってるじゃない、ある程度さ平均的に。これ以上増やすと追いつかなくなっちゃうんだよね、だから。毎週毎週ほら、溜まってっちゃうというかさ」</p>
<p>これは今年１月27日深夜に放送された『オードリーのオールナイトニッポン』（ニッポン放送）の中で春日が発した言葉だ。地上波での活躍に留まらず、春日自身もBS冠番組『趣味を見つけたい！』をスタートさせたのは、40代中盤という年齢によるところも大きいのかもしれない。</p>
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<p>’80年代までの流行歌にスポットを当てた<span class="strongInContent">『昭和歌謡ベストテンDX』</span>（BS-TBS／司会 関根勤）、芸歴20年以上の芸人たちによるネタバトル<span class="strongInContent">『お笑い成人式』</span>（BSフジ）といった企画の方向性を見ても、全体的に高めの年齢層をターゲットとする番組が多いことに気付く。</p>
<p>SNSやサブスク文化が根付き、頻度の高い情報更新が求められる昨今、むしろBS放送のようにテレビクオリティーでじっくりと見せる番組もまた求められているのかもしれない。</p>


フリーランスの編集／ライター。元バンドマン、放送作家くずれ。エンタメ全般が好き。特にお笑い芸人をリスペクトしている。2021年4月に『志村けん論』（朝日新聞出版）を出版。個人サイト「不滅のライティング・ブルース」更新中。http://s-akira.jp/

鈴木旭

ここ数年、BS放送の番組に出演する芸人が続出している。なぜ地上波ではなくBSに出演する芸人が増え始めたのか。まず挙げられるのは、全体的に非常にリラックスした雰囲気を持っていることだ。

「見ていて心地いい」「じっくりと深掘り」…BSで中年芸人の冠番組が続々スタート！　その納得の理由

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