1977年福島県生まれ。元高校球児（3年間補欠）。ライフスタイル誌の編集を経て2003年にフリーとなる。『Number』（文芸春秋）を中心に、雑誌を中心に活動。共著に「戦力外通告　プロ野球をクビになった男たち」、同「諦めない男たち」「負けて見ろ」（秀和システム）「9冠無敗能代工バスケットボール部 熱狂と憂鬱と」（集英社）などがある

田口 元義

<figure id="attachment_364296" aria-describedby="caption-attachment-364296" style="width: 3984px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="9323c86f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/03/b2bb77cb1cdfadb633ccb33dc64a3489.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-364296" class="wp-caption-text">背番号１をつける関浩一郎（右）と背番号10の櫻田朔（左）。入学当初は逆の立場だったが、切磋琢磨はこれからも続く</figcaption></figure>
<p>今年のセンバツに出場する青森山田には、揺るがぬ双璧がある。</p>
<p>エースナンバーを背負う関浩一郎と背番号10の櫻田朔。２人ともストレートの最速は140キロ台中盤を計測する。昨秋の東北大会を制し、「東北ナンバーワン」として甲子園を戦ううえで、監督の兜森崇朗は迷うことなくこの両右腕をチームの柱に挙げている。</p>
<p><span class="strongInContent">「関と櫻田の仕上がりというのが、試合の勝敗を大きく分けると思います。『２人いる』というのが重要なんです。人間ですから、１人だと注目が集中したり、負担が増してしまったりするでしょうから大変だと思うんですね。競争し合える２人がいることで、互いの成長の栄養素になれていると思います」</span></p>
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<p>青森山田の二枚看板が出会い、確立されたのは必然だった。兜森は彼らが入学する時点で今の姿を想定していたのである。</p>
<p>プランのはじまりは、櫻田だった。</p>
<p>中学時代は青森山田中の硬式野球チームである青森山田シニアのエースとして、３年夏の日本選手権初優勝を支えた。それだけに「高校でもエースに」という矜持は、彼自身も当然のように持ち合わせていた。</p>
<p>入学直後からAチームに加わるなどキャリアのスタートは順調だったが、初めてベンチ入りした１年の秋、櫻田の野球人生に影を落とす出来事が起こる。青森県大会決勝で先発マウンドに上がり、５回無失点と上々のパフォーマンスで優勝に貢献した直後、右ひじに違和感が走ったのだ。すぐに病院で検査を行うと、医師から「クリーニング手術の必要がある」と診断され、メスを入れた。翌’23年の春先にようやく投げられるようになった矢先、今度は腰を痛めた。故障していた期間、櫻田は「すごく嫌だった」と胸中を吐露する。</p>
<p><span class="strongInContent">「投げられない間に先輩や関が投げている姿を見るのが精神的に辛くて。ケガをしていたときも、できるトレーニングはしていたんですけど、練習の補助に回ることもあって、そういう自分も嫌でした。何度も『野球をやりたくない』って辞めそうになりました」</span></p>
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<p>こんなはずじゃない――。</p>
<p>中学時代にエースとして日本一を経験しながら、高校では煩悶する日々を過ごしている。弱気になることも多く、電話で両親に「辞めたい」と訴えたのも一度や二度ではなかった。</p>
<p><span class="strongInContent">「朔がどうしても辞めたいなら辞めてもいいけど、せっかく今まで頑張ってきたんだから」</span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="中学時代は無名だった関"></div>
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<figure id="attachment_364302" aria-describedby="caption-attachment-364302" style="width: 3984px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="92537724"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/03/07aba26a449c57393bae7cc950972089.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-364302" class="wp-caption-text">櫻田は中学時代、青森山田中の硬式野球チーム青森山田シニアのエースとして、３年夏の日本選手権初優勝に貢献した</figcaption></figure>
<p>肯定も否定もせず寄り添ってくれる両親の言葉に、櫻田は徐々に前向きな自分を取り戻していったのだと明かす。</p>
<p><span class="strongInContent">「中学から青森山田で野球をやらせてもらって親にはお金をすごく使わせてしまっているし、迷惑もかけているんで。ここから自分が野球で頑張って、プロになって恩返しをしないと『やってきたことが無駄になる』と思って立ち直れました」</span></p>
<p>マウンドから遠ざかり、心もすさんだ。ただ、ボールを握れずとも食事の改善やウエートなどに精力を注いだことで、体重が入学時の63キロから20キロ近く増量。故障が癒えると球速と球威が増した。櫻田にとってこの時期は、すべてがマイナスだったわけではなく、飛躍への糧となっていたのである。</p>
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<p>櫻田が戦線を離れている期間、関はめきめきと頭角を現していた。ライバルと同じく１年生の秋にベンチ入りを果たすと、上級生とともに投手陣を支える存在となっていた。</p>
<p>中学時代に所属していた青森戸山シニアではどちらかというと無名で、関にとって櫻田は「違う世界にいる人だった」という。球速も「そんなに速くなかった」と本人は謙遜するが、シニア時代の関のボールを見た兜森は「櫻田を刺激できる」と昂揚していた。</p>
<p><span class="strongInContent">「櫻田と甲乙つけがたいボールを投げていましたし、なにより『負けたくない』というプライドをすごく感じました。私は青森山田中学出身の選手を優遇するつもりはないですし、中学で日本一になったからといって安心させたくありませんでした。それぞれの育った環境だったり、選手として大事にしていることだったり、いいところは絶対にあるはずだから。そこを競争させながら伸ばして、勝てるチームを育成していきたいんです」</span></p>
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<p>関は兜森の方針を地で行く男だった。</p>
<p>強豪校からも誘いがあったなか、あえて櫻田のいる青森山田を選択した理由に、兜森が称する負けん気が打ち出されていた。</p>
<p><span class="strongInContent">「自分にとっていい腕試しができるチャンスをいただけたというか。ここで頑張れば、目指しているプロに近づけると思ったんで」</span></p>
<p>スピンの効いたストレートを生命線とする櫻田とは対照的に、関はカーブ、スライダー、チェンジアップを効果的に織り交ぜる、柔軟なピッチングを身上とする。新チームとなった２年生の秋に背番号１を託されたのも、「１年生から脱落することなく踏ん張ってくれたから」と監督に評価されたからだった。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="背番号10が成し遂げた人生初のノーヒットノーラン"></div>
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<figure id="attachment_364299" aria-describedby="caption-attachment-364299" style="width: 3984px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a573836d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/03/006c2c6912d4b5e029b2374605b24358.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-364299" class="wp-caption-text">ブルペン投球をする関（右）と見守る兜森監督（左）</figcaption></figure>
<p>昨秋、主軸として先発マウンドに立った関のハイライトは、東北大会準決勝だ。勝てば翌春のセンバツ出場が当確となる一関学院戦で、２安打、12奪三振の完封を演じた。</p>
<p><span class="strongInContent">「８年ぶりのセンバツがかかった試合で絶対に負けられなかったんで、いつも以上に気合いが入った結果だと思います」</span></p>
<p>背番号１の面目躍如。関の圧巻のパフォーマンスをベンチで見届けた背番号10の櫻田は、素直に喜ぶことができなかった。</p>
<p><span class="strongInContent">「チームとしては勝ってセンバツに近づけたのは嬉しかったんですけど、個人的には悔しくて。素直に喜べなかったというか。でも、関がすごいピッチングをしてくれたことが、決勝での結果に繋がったのかなって」</span></p>
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<p>青森のライバルでもある八戸学院光星との決勝戦。ストレートの走りを試合でのバロメーターとしている櫻田は、初回から「打たれる気がしなかった」と自信を漲らせていた。６回を過ぎたあたりからベンチがざわつき始めても自身に動揺はなく、「失点しなければいいや」と冷静に腕を振り続けた。</p>
<p>野球人生初となるノーヒットノーラン達成。不遇という印象が強かったこれまでの歩みが、報われた瞬間でもあった。</p>
<p>櫻田には<span class="strongInContent">「背番号に関係なく、マウンドに立つピッチャーがエース」</span>といった概念はない。あくまでもエースナンバーにこだわる。</p>
<p><span class="strongInContent">「自分は結構、負けず嫌いなんで『夏大（夏の大会）では絶対に１番をとってやる』って。そのためにセンバツでは結果を残したいです」</span></p>
<p>櫻田を追う立場から追われる存在となった関も同じだ。１年からマウンドを守ってきただけに、背番号の持つ意味を誰よりも知る。</p>
<p><span class="strongInContent">「エースだった先輩方の姿を間近で見てきて憧れていましたし、自分もそういう存在になりたいんで。だから、１番にはこだわります」</span></p>
<p>想いを隠さず火花を散らしながら切磋琢磨する２人に、兜森は「背番号を意識し合える関係でいてほしい」と目尻を下げる。</p>
<p>青森山田が誇る二枚看板は、今やプロのスカウトが注視するまで成長を遂げる。<br>
待ち受ける甲子園のマウンド。関と櫻田の熱気が、観衆にこう訴えかける。</p>
<p>俺こそがエースだ、と。</p>
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田口元義

センバツ初優勝を目指す東北王者には２大エースがいる。入学当初はエースの呼び声が高かった櫻田朔は昨秋、背番号10をつけてノーヒットノーランを達成。背番号１の関浩一郎との切磋琢磨が栄冠の原動力になるはずだ

「絶対に1番をとる」初のセンバツ優勝を狙う青森山田…プロ注目2人のエースの「想いを隠さない火花」

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