新井浩文とピエール瀧の「代役」はある意味チャンスである

指南役のエンタメのミカタ 第16回

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新井浩文(左)とピエール瀧(右)

手塚治虫の作品に「七色いんこ」という漫画がある。

代役専門の舞台役者・七色いんこが、老若男女どんな役でも立ちどころに変装して声色まで真似て、完璧に舞台を遂行する話である。開幕前日のオーダーでも、彼は天才的記憶力で、たった一晩で台詞をマスターする。驚くべきはその演技力。一瞬で観客を魅了し、一流の演出家をもうならせる。

ところが――

そんな七色いんこの正体は怪盗。彼が代役を務める真意は、舞台の幕間を利用して、お金持ちの観客が身に着ける宝飾品を盗み出すことにあった――。

ふと、そんな手塚作品を思い出したのは、件の新井浩文やピエール瀧の一連の逮捕を受けて、このところ2人の「代役」の話題が、メディアを賑わせているからである。

芸能界はシビアだ。皆、表向きは2人の俳優としての功績を評価しつつも、現実問題、放送中のドラマや公開される映画などにはビジネスライクな対応を取らざるを得ない。

実際、新井被告については、発売予定のドラマ『今日から俺は!』(日本テレビ)のブルーレイ&DVDで、既にやべきょうすけサンを代役に再撮が完了。ピエール瀧容疑者もまた、出演中のドラマ『いだてん』や映画『居眠り磐音』で代役を立てることが決まっている。今年11月に公開される映画『アナと雪の女王2』の日本語版では、ハマり役とされたオラフの声優も交代となる。

――とはいえ、2人の犯した罪はさておき、代役というシステム自体は悪い話じゃない。作品が封印されたり、お蔵入りするよりは、ずっといい。他の共演者やスタッフ、関係者のためにも、時間や予算が許せば代役で再撮し、予定通り公開・放送・販売されるのが作品を生かすためにも一番いい。

それに――代役を機にチャンスを掴む俳優だっている。

例えば、何らかの理由で予定されていた有名俳優が降板し、スケジュールの都合から比較的知名度の低い役者が抜擢されるケースがある。多々ある。そういった場合、彼や彼女にとっては一世一代のチャンス。実際、それを機にブレイクした役者の例も少なくない。

例えば、1993年のドラマ『高校教師』(TBS)のヒロイン繭役は当初、観月ありさサンにオファーされたが、野島伸司サンの書く過激な脚本の世界観に合わないと辞退。代わって起用されたのが桜井幸子サンだった。同ドラマで彼女は小悪魔と儚さを併せ持つ危うげな女子高生を好演。一躍、連ドラのスター女優となった。

2004年のドラマ『世界の中心で、愛をさけぶ』(TBS)でも、ヒロイン亜紀は当初、石原さとみサンに白羽の矢が立ったが、スケジュールの多忙などを理由に断念。代わって、同じホリプロから当時グラビアアイドルだった綾瀬はるかサンが抜擢されたという(これは本当に抜擢だった)。同ドラマで彼女は役作りで7kgも減量したり、白血病治療の副作用でスキンヘッドにしたりと、女優魂を開花。一躍トップ女優の仲間入りを果たしたのは承知の通りである。

男性俳優もその手の話は珍しくない。有名どころでは、1979年の『3年B組金八先生』(TBS)がそう。当初はミュージシャンの岸田智史(現・岸田 敏志)サンに金八役が打診されるも、その直前に出演したドラマ『愛と喝采と』(TBS)の主題歌「きみの朝」がヒットしたことから歌手活動が忙しくなり、同じ事務所の武田鉄矢サンにバトンタッチ。その後、同ドラマは武田サンのライフワークとなり、彼が作詞した主題歌「贈る言葉」も大ヒット。次のクールで岸田サンは『1年B組新八先生』の主役に就くが、一度傾いた歴史の流れは戻りようがなかった。

あの織田裕二サンも、出世作となったドラマ『東京ラブストーリー』(フジテレビ)は代役だったと言われる。一説には、当初カンチ役には、同じ柴門ふみ原作・坂元裕二脚本のドラマ『同・級・生』(フジテレビ)で主演を務めた緒形直人サンが当てられたが、諸般の事情から辞退。当時売り出し中の織田サンに役が巡ってきた。そして同ドラマを機に、90年代の連ドラ時代が幕開け、彼自身も一躍トップ俳優に躍り出るのである。

バラエティにも、その手の話はある。明石家さんまサンの出世作となった『オレたちひょうきん族』がそうだ。当初、ビートたけしサン扮する「タケちゃんマン」の敵役のブラックデビルを演じたのは、高田純次サンだった。それが2話目の収録で純次サンがおたふく風邪で病欠。代わってスケジュールが空いていたさんまサンが代役で起用されたところ、見事に覚醒。その後、順次サンに戻されることなく、さんまサンが歴代の敵役を演じ続け、今日のお笑い怪獣が誕生したのである。

さて、ハリウッドに目を向けると――やはり、同様の話はある。

マイケル・J・フォックスだ。僕ら日本人には、彼は映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でブレイクした感があるが、当初クランクイン時に主人公のマーティを演じていたのは、映画『ザ・フライ2 二世誕生』でハエ男を演じたエリック・ストルツだった。しかし、ドク役のクリストファー・ロイドとの掛け合いがうまくいかず、撮影6週目に降板。代わって、当時テレビドラマ『ファミリー・タイズ』で人気を博したマイケルにお鉢が回り、「ドラマのスケジュールを優先するなら」という条件で承諾。かくして人気テレビ俳優は、ハリウッドを代表するスター俳優となったのである。

ハリウッド女優にもその手の話はある。大ヒット映画『プリティ・ウーマン』のジュリア・ロバーツがそうだ。一説には、当初ビビアン役には80年代の青春映画のNo. 1ヒロインのモリー・リングウォルドが当てられるも、コールガール役に難色を示して降板。代わって、新人のジュリアが抜擢され、映画さながらリチャード・ギアに導かれるように、無名のヒロインからトップ女優へと駆け上がったのである。

最後に、これぞ代役の極みと言われる例を紹介しよう。

時に、1979年7月第3週の土曜日。渋谷のパルコ西武劇場では、関根恵子(現・高橋惠子)サン主演の舞台劇『ドラキュラ』の初日を迎えていた。しかし――午後のリハーサル時間になっても主役が現れない。なんと関根サンは舞台に恐怖を覚え、前日に恋人と日本を離れてタイに失踪していた。やむなく初日は休演となるが、関係者で協議した結果、舞台は代役で乗り切ることを決定する。そして、その日の夜8時、一人の無名の若手女優が呼ばれる。市毛良枝サンだった。彼女はその場で台本を渡され、徹夜で暗記。翌日曜日の午前11時からリハーサルに臨んだ。そして、午後2時――1日遅れの初日の幕が上がる。前夜に市毛サンが呼ばれてから、わずか16時間後のことだった。

舞台劇『ドラキュラ』は大成功だった。カーテンコールでは、満場の客席から喝采を浴びる市毛サンの姿があったという。彼女が「お嫁さんにしたい女優」と呼ばれ、誰もが知る人気スターになるのは、それから間もなくである。

  • 草場滋(くさば・しげる)

    メディアプランナー。「指南役」代表。1998年「フジテレビ・バラエティプランナー大賞」グランプリ。現在、日経エンタテインメント!に「テレビ証券」、日経MJに「CM裏表」ほか連載多数。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。代表作に、テレビ番組「逃走中」(フジテレビ)の企画原案、映画「バブルへGO!」(馬場康夫監督)の原作協力など。主な著書に、『テレビは余命7年』(大和書房)、『「朝ドラ」一人勝ちの法則』(光文社)、『情報は集めるな!」(マガジンハウス)、『「考え方」の考え方』(大和書房)、『キミがこの本を買ったワケ』(扶桑社)、『タイムウォーカー~時間旅行代理店』(ダイヤモンド社)、『幻の1940年計画』(アスペクト)、『買う5秒前』(宣伝会議)、『絶滅企業に学べ!』(大和書房)などがある

  • PHOTOアフロ、Rodrigo Reyes Marin/アフロ

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