激ヤバで面白い『ブラック・クランズマン』はトランプへの挑戦状!
ブラックパワーの集大成&究極のバディー・ムービー(相棒映画)がもたらすホンモノの感動
満足度96%(3/19/2019時点)。
これはアメリカで活躍する映画批評家の批評を集め数値化させたサイト「ロッテン・トマト」での『ブラック・クランズマン』への評価だ。ちなみに今年の第91回アカデミー賞で本作と競い作品賞を受賞した『グリーンブック』は78%。
『ブラック・クランズマン』は、70年代にコロラド・スプリングス(コロラド州中西部の都市)で初の黒人刑事となったロン・ストールワース(ジョン・デヴィッド・ワシントン)が、白人至上主義団体クー・クラックス・クラン(以下KKK)の会員募集の広告を見て、電話で接触しているうちに気に入られ、仲間の白人刑事フリップ・ジマーマン(アダム・ドライバー)の手を借りて、まさかのKKKへ侵入捜査開始! というバディ(相棒)ムービー、でもある。
なんと言っても一番の驚きが、ほぼ実話(多少脚色されている)ということ。KKKの標的は有色人種やユダヤ人であり、一番標的にされていたのが黒人である。バレたら速攻でロンやフィリップは殺される…….。そんな緊張感を煽りつつ、ロン・ストールワース自身が書いた原作(回想録)を映画化したのが、ブラックムービー界の巨匠、名匠、そしてご意見番のスパイク・リー(1957年3月20日生まれ)だ。
80年代から一線で活躍し、「正しいことをしよう」と謳った『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989年)や、「あらゆる手段を使っても」と叫んだ『マルコムX』(1992年)など、映画を通じて熱く主張を繰り返してきた男である。
「元祖毒舌王」とも言えるスパイク・リーは、映画界でも物怖じすることなく意見を言い続ける。『ドゥ・ザ・ライト・シング』がアカデミー賞に選ばれず、白人老女と黒人運転手の交流を描いた『ドライビング MISS デイジー』が作品賞に選ばれた時には、
「『ドライビング“クソ” MISS デイジー』が選ばれるなんて、傷つく!」
と口悪くののしった。
なので、スパイクの敵は多い。それでも彼の姿勢はブレることはなく、作品を通して信念を貫いた結果、アダム・ドライバーやトファー・グレイスという実力派を味方につけ、本作で組むことができた。
主役である黒人刑事の相棒となり、自身のアイデンティティでも苦しむというフィリップを演じたアダム・ドライバーはアカデミー賞助演男優賞にノミネートされた。そのドライバーが「スパイクの映画撮影が、こんなにファミリー的だと思わなかった」と話した通り、スパイクには気心しれた仲間がいつも現場にいる。
例えば、主役のジョン・デヴィッド・ワシントンは、『マルコムX』の主役デンゼル・ワシントンの息子(!)で、自身もわずか8歳の時に『マルコムX』で映画デビューした根っからのスパイク組の人である。
そして、スパイクが信念を貫いたのを見て育ったのが、『ゲット・アウト』(2017年)がホラー作品ながらアカデミー賞4部門(作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞)にノミネートされ、脚本賞を受賞したジョーダン・ピール監督だ。奴隷時代から言葉や発言を弾圧され続け、100年近くも南部で続いたジム・クロウ法によって差別は合法とされた黒人にとって、スパイクのように物怖じせずに自分の意見を言う人間は英雄に見え、スパイクが映画を通して何かを変えようとしていることが誇りだったのだ。
『ブラック・クランズマン』の原作の映画化権を手に入れたピールは自分で監督するのではなくプロデューサーに回り、尊敬するスパイク・リーに監督を依頼した。そして、スパイクは、今までの苦労が実を結び、満足度96%という、この作品で念願のアカデミー賞脚色賞を手にした。
その時の受賞スピーチは、2020年アメリカ大統領選を控え、
「愛かヘイトか……(2020年アメリカ大統領選では)正しいことをしよう」
と呼びかけた。
それを聞いたドナルド・トランプがなぜか激怒し、トランプの常套手段であるTwitterで「私は黒人のために一番尽くした大統領だ」と反撃した。
それから察するに、トランプは『ブラック・クランズマン』を観ていない。もしトランプがこの映画を観ていたら、もっと激昂し、一晩中Twitterでスパイクへの攻撃を繰り返していただろう。
なぜなら、本作は70年代を描きながらも、ヘイトスピーチがなくならない今を描く普遍的な作品であり、「大統領ならば正しいことをしろ!」というトランプへの挑戦状なのだから。
そしてラストは、確実に観客の心をえぐり、人によっては涙し、そして深く考えさせられることになる。
「愛かヘイトか?」、そして人として「正しいこと」とは何かを。
映画『ブラック・クランズマン』 ギャラリー
- 文:杏レラト