<figure id="attachment_366726" aria-describedby="caption-attachment-366726" style="width: 3012px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="659e97fa"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/04/17cea9d13f6a4b1456bc264574ff6f80.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-366726" class="wp-caption-text">センバツで初優勝した健大高崎。部員数が贅沢な強豪がある一方、高校野球の多くの学校が部員数減に悩まされている</figcaption></figure>
<p>３月20日に韓国・ソウルで、大谷翔平が所属するドジャースが開幕戦を迎えた。チケットは争奪戦となり、日本のテレビでも連日その模様が放送され、注目度の高さを感じさせた。</p>
<p>また、健大高崎の優勝で幕を閉じた春のセンバツ高校野球も、当初は悪天候や季節外れの冷え込みの影響で客足が鈍かったが、日曜日に開催された決勝は、地元の人気校である報徳学園の存在もあり、３万4200人と、まずまずの客入りを見せた。</p>
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<p>こういった現状を見ると、まだまだ日本国内において、「野球」というスポーツの影響力、存在の大きさを実感させられる。だが、こと競技人口に関しては、非常に厳しい現状がある。</p>
<p>例えば、１、２年生の２学年で戦う秋の公式戦では、多くの部員を抱える強豪校を除く多くのチームでは、ベンチ入り人数の上限に満たないこともめずらしくない。そして、この選手数減の苦境は、かつての強豪とて無関係ではない。</p>
<p><span class="strongInContent">「今は春の新入生が10人も入ってきたら、もうびっくりするんじゃないですか」</span></p>
<p>こう語るのは、教員や事務職員ではなく、一般企業に勤務しながら母校である山口県立岩国高校を率いて30年超になる、河口雅雄（60）だ。</p>
<p>岩国は山口県下で有数の進学校でありながら、春７、夏５度の甲子園出場を誇る名門。直近では、’14年に春夏連続出場を果たしている。</p>
<p>それから10年。山口を代表する名門県立校も、地方を中心に加速する少子化、それに伴う部員数減の荒波に揉まれている。２人の途中退部があったとはいえ、‘23年夏のチームの３年生はわずか１人だった。</p>
<p><span class="strongInContent">「２年の冬に２人が辞めて、１人は『勉強に集中したいから』という理由。もう１人は、’22年の秋が終わった時点で人数が９人を下回って、『来年１年生たちが入ってくるかわからない状況で、モチベーションが保てない』と。２人抜けて、‘23年の４月に１年生が入ってくるまでは、６人でやっていましたね」</span>と河口。</p>
<p>甲子園にコンスタントに出場していた時代も「３学年で60人いたことは、ほとんどなくて、甲子園に出たときもしょっちゅう出場校の中で最低部員数だった」と言うが、にわかに信じがたい数字である。</p>
<p>「10年ひと昔」という言い回しはあるものの、たった10年前に春夏連続で甲子園に立ったチームが、部員確保に四苦八苦する現実がある。また、そこには「子どもの数に対して、学校数が多い」現実もあると語る。</p>
<p><span class="strongInContent">「今、岩国市内には、うちを含めて６校があります。そのうち２校は今連合チームなので、チーム数で言えば５。例えば、市内に野球をやっている中学生が50人いたとして、それぞれに進むと１校に10人。でも、全員が全員高校で野球をするわけではないので、もっと減りますよね」</span></p>
<p>さらに進学校ゆえの選手確保の難しさもある。</p>
<p><span class="strongInContent">「今は（入学希望者が募集定員を下回る）“定員割れ”をすることもありますが、岩国高校の場合落ちます。『入って大変だから』だと思うんですけど。今から２年前かな、『僕は岩国高校に入って絶対野球やりたいです！』と『僕は絶対やりません』という２人の中学生がいて、絶対やらない子が通って、絶対やりたかった子が落ちたっていう（苦笑）。そういうこともありました。その子は定員割れで別の公立校に二次募集で入りました。年によっても違いますけど、ある程度成績がないとだめなんですね」</span></p>
<p>また、その土地柄で根強くはびこる考え方もマイナスに作用しているという。</p>
<p><span class="strongInContent">「山口に限らず、田舎と言われるところは全部そうだと思うんですけど、『公立に落ちて私学に行く』のを、結構後ろめたく感じられる家庭が少なくない。私学が悪いわけでは全然ないし、都会であれば私学の進学クラスに入るのも普通だと思うんですけど。岩国を受けて落ちたらいけないから、受験の段階で、他の公立に切り替えるケースも多いです」</span></p>
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<div data-friday-nextpage-lead="甲子園を遮二無二めざすのは”コスパ”が悪い？"></div>
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<figure id="attachment_366697" aria-describedby="caption-attachment-366697" style="width: 1000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="60cee46c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/04/bb0528342d977dc4f69ea6e55e82f7df.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-366697" class="wp-caption-text">岩国高校の監督室には、甲子園出場の記念品の皿が並ぶ</figcaption></figure>
<p>初代総理大臣の伊藤博文をはじめ、全国最多８人の総理大臣を輩出している“お国柄”だろうか。河口の説明の通り、山口県民はしばしば“保守的“といわれる。だが、近年は情報化が進み、以前よりも県外の強豪校への憧れを抱く選手も増え、県内の強豪中学硬式チームから、大阪桐蔭、浦和学院などの県外の強豪私立に進むケースも増えるという逆境も押し寄せる。</p>
<p>それでも、全盛期には及ばずとも「野球をやっていて、勉強もできる」中学生たちは入学してくる。しかし、かつてと気質の違いを感じる場面も増えた。</p>
<p><span class="strongInContent">「この春、３年に進級する代のときかな。地元の中学校から野球経験者が５人くらい入学したんですよ。でも、野球部に入ったのは１人。あと４人は別の運動部に入っています。『なんでやらんのよ、一緒にやろうよ』と言うと、『野球は中学で燃え尽きました』って返ってきた。</span></p>
<p><span class="strongInContent">子どもたちの言うことだから全部を信じてはいけないんだけど、同級生同士の会話だと、『いけるか、いけないかわからない甲子園を目指すために、しんどい練習を頑張るのは難しい』って言っていたみたいなんですね」</span></p>
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<p>今の彼らにとって、出場が確約されていない甲子園を遮二無二目指すのは、“コスパ”や“タイパ”が悪いことなのかもしれない。それでも、河口は語気を強める。</p>
<p><span class="strongInContent">「僕は今いる部員たちに『努力の見返りを求めるな』って伝えているんです。昭和チックかもしれませんけど。対価がなくても頑張れるのって、高校生ぐらいの年までだぞとも思うので。たしかに勉強と野球の両立は難しいし、中学生に話を聞いてもらっても、必ずと言っていいほど、『両立できますか？』と聞かれる。</span></p>
<p><span class="strongInContent">僕は笑われるかもわからんけど、本気で甲子園を狙っているんです。だから練習は厳しいし、両立は間違いなく難しいとはっきり言う。勉強との両立が簡単にできますよ、それで甲子園も狙いましょうって、そんなに虫の良い話はない。でも、隙間時間を上手に活用して、両立する部員もいる。だから、やってほしいなって思うんですよね」</span></p>
<p>逆境でも熱を失わない河口に吹く逆風は、まだまだある。長らく山口には、岩国だけでなく、春夏19回の甲子園出場を誇る宇部商や、’63年のセンバツを制している下関商ら公立の有力校がひしめき、“公立王国”と呼ばれてきた。</p>
<p>だが、近年の大会成績に目を向けると、春こそ昨年に光が出場したものの、夏の出場権は’16年から高川学園、宇部鴻城、下関国際の私立３校が分け合う。県から３校が出場できる昨秋の中国大会では、この“私立３強”が初めてそろい踏みで出場した。この現状も河口の闘志を駆り立てる。</p>
<p><span class="strongInContent">「僕は、春５回、夏５回甲子園に出させてもらって、『語呂合わせでゴーゴーでキリが良くてええじゃん』みたいにも言われるんです。でも、自分の中じゃ収まってなくて。僕が指導者となって最初の頃、最大の壁だったのが宇部商の玉国さん（光男、現在は宇部ボーイズ監督）でした。</span></p>
<p><span class="strongInContent">玉国さんが高校野球の監督を終わられた今、その壁が私学に変わってるんですよ。３校以外にも早鞆や柳井学園も力がある。今、目の前にある壁を壊す。その思いがなくなったらもう（監督を）やめるときかなと思っています」</span></p>
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<div data-friday-nextpage-lead="「まだローンがあるから、やめねえよ」"></div>
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<figure id="attachment_366695" aria-describedby="caption-attachment-366695" style="width: 1000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="41bd036d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/04/32d738385fc8e1a601a20ae0d7f8d7b1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-366695" class="wp-caption-text">冬場のランニング風景。人数は多くないが、甲子園を目指すグラウンドには活気があったのは救いだ</figcaption></figure>
<p>’15年には自費で寮を建設。あくまで生活圏も同じ地区ではあるが、隣県の広島からも選手を受け入れ、チームを作り上げている。「まだローンがあるから、やめねえよ」とうそぶきつつ、河口が続ける。</p>
<p><span class="strongInContent">「僕が監督になったとき、岩国高校は20年甲子園に出てなかったんです。でも、OBからしたら半世紀ぐらい出ていないような感覚だった。今、最後の出場から10年ですけど、同じようにかなり時間が経った気がしています。</span></p>
<p><span class="strongInContent">ずっと、『岩国高校野球部の歴史に新たな１ページを刻みたい』という思いの繰り返しで監督をやってきて、また甲子園に出て、新しい歴史を作りたいと思います。現実問題、戦力は厳しい。120キロそこそこしか出ない投手しかいない年もある。でも、僕は長年選手たちに『環境を言い訳にするな』と言って来てるんです。なら、監督の自分が選手層を言い訳にすることなんてしたくないし、最初から負けると思って試合に臨んだって、得られるものなんかない。それに、プロや社会人と違って、まだ何とかそれでも勝負できる道が探せるのが高校野球だと思うんでね」</span></p>
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<p>昨夏は２回戦で、センバツ出場の光を撃破。待球策を駆使して、直球の最速が１４０キロを超える注目投手を攻略した、わざありの勝利だった。久々に県８強まで食い込み、準々決勝では、宇部鴻城にサヨナラ負けしたが、後の甲子園出場校相手に９回までリードを奪い、土俵際まで追い詰めた。</p>
<p>河口は<span class="strongInContent">「夏の戦いを見て、岩国でもチャンスがあると思ってくれた中学生も多い」</span>と実感を込める。</p>
<p>部員不足の苦難を乗り越え、再び甲子園に返り咲いたら――。それは間違いなく、野球部史に残る復活劇になる。</p>
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<figure id="attachment_366707" aria-describedby="caption-attachment-366707" style="width: 1000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c52f8fa2"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/04/9d8787ccf412106ed8fba523e38b29b8.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-366707" class="wp-caption-text">この夏、監督として自身11度目の甲子園出場を目指す河口監督</figcaption></figure>


1991年、島根県生まれ。大学卒業後、出版業とは無関係の会社員生活を約2年半送った後、’17年10月からライターとして活動を開始。現在は、居住地である島根県の高校野球を中心とした中国地方のアマチュア野球を中心に取材。著書に『貫道 甲子園優勝を目指す下関国際高校野球部・坂原秀尚監督とナインの奮闘』、構成担当に『アフリカから世界へ、そして甲子園へ 規格外の高校野球監督が目指す、世界普及への歩み』（いずれも東京ニュース通信社）がある

井上幸太

時事通信（１枚目）、井上幸太（２～４枚）

センバツ高校野球は健大高崎の初優勝で幕を閉じた。観衆は3万人以上を集め、野球人気健在を感じさせるが、実際は野球人口は大きく減っている。春、夏10度以上甲子園に出た高校でも今は部員集めに苦労するという

「今は新入生が10人入ったらびっくり」…甲子園12度出場の強豪高校も直面する「野球部員減の荒波」

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