実名ルポ「膵がんステージⅣ」からの免疫療法 | FRIDAYデジタル

実名ルポ「膵がんステージⅣ」からの免疫療法

がん闘病者がすべてを明かし「オーダーメイドがんワクチン」の効果を情報公開

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治療が終わり、武田力医師に治療の相談をする下村宏さん(写真左)。現時点で腫瘍マーカーの上昇は止まっているという
治療が終わり、武田力医師に治療の相談をする下村宏さん(写真左)。現時点で腫瘍マーカーの上昇は止まっているという

「忘れもしない、あれは3年前の2月。私は69歳になる自分の誕生日に膵がんやと診断がついたんです。先生も『えらい日になったなぁ』て言うてましたわ。その時はすぐに手術をして、術後8ヵ月間は経口の抗がん剤を飲んでいた。そやけど、約1年で肺への転移が見つかって。ホンマうっとうしいね。でも今年はネオアンチゲンという新しいオーダメイドがんワクチンを受けられる希望をもろたから、ええコトありそうやろ? がん治療については隠さなアカン治療やないし、名前も写真もそのままでかまへん。ネオアンチゲン、うまいこと効いてくれって心ん中で唱えとんねん」

そう語るのは、大阪府在住のがん患者・下村宏さん(72=上写真左)だ。ロマンスグレーの髪も若々しく、関西人らしいユーモアを交えて体験談を明るく語る下村さんからは、とても深刻ながんに罹患している印象は受けない。だが、彼は紛れもなくステージⅣの膵がん患者なのだ。冷静に自身の病状を見つめる下村さんの言葉からは、前向きながんの闘病生活が生々しく浮かび上がってくる。

「肺に転移の疑いが出た時は、8㎜と腫瘍の影が小さかった。新たな肺がんかもしれんし、『結節』という炎症かもしれん。判断がつかなかったので、3ヵ月間は様子をみることになったんです。でも、その月末に受けた精密検査で新たに4㎜のがんが2つ見つかった。観察期間の3ヵ月が経つ頃には、すべての腫瘍がさらに大きくなっていた。結局、再発やったんです。ガックリきましたよ。でも、落ち込んでいる場合やない。今の自分はどんな治療が受けられるのか、徹底的に調べた。食事の仕方も含めて、効果が期待できることは全部やるぞと心に決めたんです。何より、がんは情報戦。今でも患者会やがんのシンポジウムには積極的に参加してます。治療も、精神的な支えも、一本の矢より二本の矢、二本より三本の矢や、と思って」(下村さん)

下村さんは両肺への転移が分かった直後に、2種類の抗がん剤治療を開始。それと同時に、以前から試してみたかったという従来の免疫療法(樹状細胞ワクチン)と電磁波温熱療法(ハイパーサーミア、以下「温熱療法」)を受けられる医療機関を探し始めた。当初、下村さんは免疫治療と温熱療法について、別々の治療先を検討していた。だが、「大阪がん免疫化学療法クリニック」(大阪市北区、武田力院長)で両方同時に受けられることが分かり、同医院での治療をスタートさせた。その結果、1~2ヵ月後には腫瘍は縮小、消滅の効果が表れた。しかし――。8ヵ月が過ぎる頃からがんの増大が再び活発になり、腫瘍マーカーは毎月測るたびに上昇し始めたのだ。

「抗がん剤がずっと効くもんやないということは、独学では知っていたんです。製薬会社のホームページを見ると、がんの縮小効果が望める平均期間は6.38ヵ月という調査データもありますから。私の場合は、8ヵ月あたりからマーカーが上昇した。ホンマに調査データの通りやなって。従来の免疫治療も、私にはあまり効果がなかった。ただ、去年の春以降から、日本国内でもまったく新しい免疫療法『オーダーメイドがんワクチン』が臨床の場で行われるようになっていたんです。武田先生のクリニックでも、それが受けられるようになっていた。それで、腫瘍マーカーが上がり始めた昨年11月から、『オーダーメイドがんワクチン』を始められるよう、武田先生に相談したんです」(前出・下村さん)

なぜ、がんが消えるのか

実は、筆者が下村さんに会ったのは、まさにこの「オーダーメイドがんワクチン」の準備が整い、投与にこぎつけた初日のことだった。下村さんは、その治療効果を高めるために、身体の深部を温める温熱療法に入った直後だったのだ(2枚目写真)。武田医師はこう語る。

「温熱療法は、’90年からがん患者を対象に保険適用になっている治療法。もともと放射線治療の効果を高めるために作られた治療装置で、温熱療法単独ではがんに対して高い効果は望めません。ただ、’00年以降は、放射線だけでなく、抗がん剤や免疫治療も、投与前に温熱をかけると治療効果を高めることが国内外で証明されるようになった。私自身も臨床の現場で使うようになって、その効果に驚きました。これまで私が大阪大学で研究してきた樹状細胞ワクチンという免疫治療では、一時的に腫瘍が縮小、消滅することはあっても、すべてのがんが消えることは稀だった。それが、温熱療法をしてから樹状細胞ワクチンを投与すると、すべてのがんが消えたケースが次々と出てきたんです」

そのため、武田医師のクリニックでは、多くの患者が免疫療法に入る前に、この温熱療法を受けている。温熱療法の治療時間は約40分。血液がんと悪性脳腫瘍以外ならばどんながんでも受けることができる。患者はがんのある患部を上下(または左右)からサンドイッチ状にパッドではさみ、横になっているだけでいい。抗がん剤治療の前に温熱療法を行うと、がんのある場所に抗がん剤が多く集まる効果があるという。

「たとえば、下村さんのように左右の肺に腫瘍がある人やったら、パッドの当たっている部分の中で、がんのある箇所に抗がん剤が多く集まる。一方で、がんのないところには抗がん剤が届きにくくなる。抗がん剤の副作用は、正常な細胞が障害を受けることで起きる。つまり、抗がん剤の投与前に温熱療法を受けると、がんへの治療効果が上がり、さらに副作用は減る可能性があるということなんです」(前出・武田医師)

実際、下村さんは再発後、21回の抗がん剤治療を受けてきた。だが、温熱療法との併用が功を奏しているのか、8ヵ月目に骨髄抑制(白血球の減少)が起きた以外は強い副作用は出ていないという。

新治療で見え始めた希望

この日、下村さんは約40分の温熱療法を終えると、診察室へと移動。左頸部のリンパ節にオーダーメイドがんワクチン注射の投与を受けた(4枚目写真)。

「下村さんは昨年11月にオーダーメイドがんワクチンの治療を決めましたが、実際の投与までは3ヵ月(現在は約1ヵ月半に短縮可能)の時間が必要でした。それは、下村さん自身のがん細胞の遺伝子変異を調べるのに2ヵ月、そしてワクチンの合成に1ヵ月がかかるから。それぞれの患者さんにもよりますが、一度の成分採血で作ることのできるワクチンは注射4~6回分。下村さんは、それまで受けていた免疫療法で培養していた2回分が残っていたので、4月までに計6回、このオーダーメイドがんワクチンの治療を受ける予定です」(前出・武田医師)

まだ初回投与後からわずか2週間だが、直近の血液検査で明るい兆しが現れたという声が下村さんから届いた。

 「実は、3月に入って受けた採血の結果、腫瘍マーカーの上昇が止まっていることが分かったんです。昨年11月からずっと倍々で増加していたので、こんなことは初めてやった。私は色々な治療を並行してやっている分、何が効いたんかというのはすぐに断定できない。でも、患者からしたら結果さえ出てくれれば万々歳なわけやから。もうしばらく新しいオーダーメイドがんワクチンの治療を続けて、4月に予定されているCT検査を待ちたいと思います。まだまだ、諦めるつもりはありませんよ」(前出・下村さん)

武田医師によると、「この『オーダーメイドがんワクチン』は副作用もほぼないので、繰り返し治療することができる」という。今後、研究が進めば、治療の選択肢がなくなったがん患者にとって新たな希望の光となり、より多くの命を救うことが期待されている。

電磁波温熱療法を受けている下村さん。がんの種類によってパッドの大きさや当てる位置、角度、患者の姿勢も調整できる
電磁波温熱療法を受けている下村さん。がんの種類によってパッドの大きさや当てる位置、角度、患者の姿勢も調整できる
この日は今後もオーダーメイドがんワクチンを受けるために、血液から治療に必要なリンパ球を取り出す「成分採血」も行った
この日は今後もオーダーメイドがんワクチンを受けるために、血液から治療に必要なリンパ球を取り出す「成分採血」も行った
ワクチン注射を受ける下村さん。エコーを使いモニター画面で左頸部のリンパ節を確認しながらゆっくりと注射される
ワクチン注射を受ける下村さん。エコーを使いモニター画面で左頸部のリンパ節を確認しながらゆっくりと注射される
  • 取材・構成青木直美(医療ジャーナリスト)撮影浜村菜月

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