現役慶應大生の尾﨑野乃香・レスリング女子68㎏級代表が語る「オリンピックは人生を変えるチャンス」 | FRIDAYデジタル

現役慶應大生の尾﨑野乃香・レスリング女子68㎏級代表が語る「オリンピックは人生を変えるチャンス」

プレーオフの果てに悲願の切符を掴むまでの挫折と苦難

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン
帝京高校時代はJOCエリートアカデミーに所属し、卒業後は慶應義塾大学環境情報学部へ進学。生粋のエリートだ
帝京高校時代はJOCエリートアカデミーに所属し、卒業後は慶應義塾大学環境情報学部へ進学。生粋のエリートだ

東京五輪に続く2連覇に挑む須﨑優衣(すさきゆい)(25)、そして吉田沙保里(41)の連勝記録を更新する133連勝を記録している第2の″霊長類最強女子″こと藤波朱理(あかり)(20)。そんな二人と共に、パリの大舞台で金メダルが有力視されている女子レスリング選手が、68㎏級の現役慶應大生、尾﨑野乃香(21)だ。

「オリンピックは人生を変えるチャンス。絶対に金メダルを逃(のが)したくないです」

パリの切符を手にするまで、彼女は挫折と苦難を乗り越えてきた。もともと62㎏級の世界女王だったが、’22年末の全日本選手権、’23年6月の全日本選抜選手権と国内で連敗し、代表争いから脱落。そこから五輪に採用されていない65㎏級に階級を上げ、世界選手権に出場した。

「オリンピックの道が途絶えたことで、生きる活力がなくなりました。レスリングもつまらないし、生活も楽しくない。ただ、65㎏級で世界選手権を目指すことになって、『オリンピックでは開催されない階級でも、世界王者になることは誇らしいことだよ』と母は言ってくれた。″オリンピックがすべてじゃない″と思えたことで、前向きになれました」

再び世界選手権を制したあと、さらに68㎏級に転向。今年1月に行われた代表決定を懸けたプレーオフを制し、パリへの切符を手に入れた。レスリングには減量苦がつきものだが、彼女の場合は反対に増量苦があった。

「62㎏級の頃から、ほとんど減量しなくていい選手だったんです。そんな身体でいきなり体重を増やそうと思っても、一気に増えるわけじゃないし……。代表を決めたプレーオフも、68㎏にぜんぜん足りてない状態でした。根気よくご飯を食べて、トレーニングをしっかり頑張って、ようやく69㎏ぐらいになりました」

2階級も上となると、対戦相手のパワーは増し、自身の持ち味であるスピード感も失われる可能性がある。戦い方は大きく変わるのではないだろうか。

「スピードはむしろ速くなっているかもしれません。足やお尻に筋肉がついたので、タックルの威力が増している気がします。体幹も強くなったので、ディフェンス面も強化されていると思います」

慶應大の環境情報学部に通う彼女は髪を後ろでくくり、競技中の摩擦によってギョウザのようにつぶれた耳を隠すことなく、インタビュー場所に現れた。

「恥ずかしいものでもないし、外国に行くと『かっこいいね』と言われることもあります。努力の証(あかし)ですし、レスリング選手らしい身体をしていることを恥ずかしがる必要なんてないと思います」

五輪本番は8月5日と6日――。

「やるべきことは決まっている。トレーニングで身体を追い込んで、映像を見て相手のことも研究して、濃い時間を過ごしたい。私は将来、誰かの原動力になるような影響力のある女性になりたいんです。そのために、何度も五輪に出場して、金メダルでレスリング人生を終えたい」

慶應の創立者である福澤諭吉の銅像の前で、彼女は凛々しく金メダルを誓った。

’03年、東京都生まれ。身長166㎝。今年1月、育英大学の石井亜海(21)とのプレーオフを制し五輪出場権を獲得
’03年、東京都生まれ。身長166㎝。今年1月、育英大学の石井亜海(21)とのプレーオフを制し五輪出場権を獲得

『FRIDAY』2024年7月26日・8月2日合併号より

  • 取材・文柳川悠二(ノンフィクションライター)
  • PHOTO保高幸子

柳川 悠二

ノンフィクションライター

1976年、宮崎県生まれ。高校野球やオリンピックなど幅広く取材。著書に第23回小学館ノンフィクション大賞を受賞した『永遠のPL学園』(小学館文庫)など

Photo Gallery2

FRIDAYの最新情報をGET!

関連記事

    Photo Selection

    あなたへのおすすめ記事を写真から