1976年生まれ。月刊誌編集長、週刊誌記者などを経てフリーに。書に『売春島 「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』、『ルポ新宿歌舞伎町路上売春』がある。コミック『売春島1981』の原作も

高木 瑞穂

マスコミが伝えない“事件のその後”を追いかけてきた<a href="https://www.youtube.com/@user-cy7be4if6v">YouTubeチャンネル『日影のこえ』</a>。今年６月に刊行された『<a href="https://amzn.to/3Y1uWVj">事件の涙　犯罪加害者・被害者遺族の声なき声を拾い集めて</a>』（鉄人社）では、千葉小３女児殺人事件、八王子中２女子いじめ自殺事件、目黒５歳女児虐待死事件、大阪姉妹殺人事件など、９つの重大事件を深掘りしている。登録者８万を超えたYouTubeチャンネルについて、ノンフィクションライターの高木瑞穂氏が明かす。
「『日影のこえ』の取材は新発見の連続です。裏を返せば、発生当時の報道がいかに誤報にあふれているかということを実感させられます。取材が大変だったのは前述のように青葉（被告）の件ですが、いちばん驚いたのは山地（悠紀夫）死刑囚が起こした大阪姉妹殺人事件です。なんと被害者姉妹の顔写真すら間違えたまま10年以上語り続けられていたのです」
<figure id="attachment_382678" aria-describedby="caption-attachment-382678" style="width: 2278px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="874e4bc1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/07/6d5fe01a6634003615b54879f73d2d34.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-382678" class="wp-caption-text">YouTubeチャンネル『日影のこえ』より</figcaption></figure>
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大阪姉妹殺人事件は&#8217;05年11月17日に起きた。大阪市浪速区のマンションの一室で、飲食店員の姉（当時27）と同居の妹（当時19）が胸や腕を刃物で切られたり、刺されたりしているのが発見された。
『日影のこえ』では’21年、姉妹と家族のように接していた女性に取材。すると同事件を取り上げるYouTubeチャンネルなどで妹の顔写真として掲載されているものが、姉の写真になっていたことが判明した。原因は事件当初、マスコミ各社が写真を誤認したことだった。そして悲しみの淵にいる遺族や関係者は、抗議するほどの余裕を持ち合わせていなかった。
「事件をエンタメ化しYouTubeなどにあげられることで、遺族がどれだけ傷ついているかも知りました。報道のはしくれとして、やるなら慎重にならなければと、自戒を込めて思いました」
事件を面白おかしく扱うYouTubeチャンネルと、『日影のこえ』には大きな違いがある。それは事件の当事者がかかわっている点だ。
<figure id="attachment_382682" aria-describedby="caption-attachment-382682" style="width: 1065px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="0cc1d6c8"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/07/172176338a16682aad9f7d5bcf108d40-1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-382682" class="wp-caption-text">高木瑞穂氏と『日影のこえ』取材班の新刊は好評発売中！</figcaption></figure>
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<div data-friday-nextpage-lead="闇バイト、詐欺、売春"></div>
動画のナレーションを務めているTゾウ（宇津木泰蔵）さんは’15年８月26日、恋人を殺人事件で亡くした過去を持っている。マスコミの取材が殺到、犯人の疑いまでかけられ、疲弊する日々を送った。この宇津木さんへのインタビューが、『日影のこえ』誕生のきっかけにもなっている。
「宇津木さんがいつも言うのは、『（加害者の）背景には同情するし、防ぐこともできた事件かもしれない』『でもそんな事は遺族には関係ない』など遺族をおもんぱかる言葉です。また『犯人を英雄視しないでください』とも。当事者だからこその、説得力がある至言だと思います」
『日影のこえ』を続ける意味について、高木氏はこう語る。
「事件当時は話すことができなくても、裁判も終わると思いを語りたいという人は非常に多い。裁判で納得のいかない判決が出た場合にはなおさらだと思います。遺族の納得のいく判決が出ることのほうが圧倒的に少ないのです。ただ、そうした声を受け止める既存メディアはありません。みんな遺族会や支援会などで話しています。
事件の終わりは裁判ではなく、遺族などの再生のはずです。そういう意味でも宇津木さんと毎年、亡くなった恋人との命日に酒を飲んでいて、この人はもう一度舞台に立たなければいけないと思っていました。だからこそ、もう一度話す場を作りたいと考えたんです」
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そして埋もれていく事件の取材を重ねるなかで、高木氏自身も現代社会の闇と向き合っている。
「無敵の人に括られる人が断続的に事件をおこしているのは事実だと思います。そして凶悪事件ではなくても、それがいろんな形で表面化しているのも事実だと思います。
『男性は闇バイトや凶行に、非力な女性は詐欺や売春に』という持論があります。これまでの取材から得た経験では、出自や育った環境、障害、精神科医による薬の過剰投与などが事件の土壌にありました。女性でみるとわかりやすく、街娼になったり頂き行為（詐欺）をしたり。無敵の人が起こした凶悪事件も、売春やホストに依存するのも、すべてやり場のない何かを自らにぶつけた自傷行為なのです。
なかには自殺や凶悪事件に至る場合もありますが、そうして数字としてカウントされるまで表面化するのは一部で、街のいたるところにその芽はあります。取材を重ねそれが見えてきたいま、振り返れば京アニ放火事件にしても、それが萌芽し、人知れずあらぬ方向へと育ってしまった事件にすぎないのではないか、とも思っています」
事件について語りたい人がいる限り、『日影のこえ』は続いていく。
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事件の“その後”を取材するYouTubeチャンネル『日影のこえ』。京都アニメーション放火事件、千葉小3女児殺人事件、八王子中2女子いじめ自殺事件などの知られざる真実を探ることで見えてきたものとは？

マスコミが“殺された姉妹”の写真を間違え…事件の“その後”を取材してわかった「衝撃の事実」

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