100作目の朝ドラ『なつぞら』が100%面白い理由 | FRIDAYデジタル

100作目の朝ドラ『なつぞら』が100%面白い理由

指南役のエンタメのミカタ 第18回

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映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』の舞台挨拶を終え、慌ただしく移動する広瀬すず
映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』の舞台挨拶を終え、慌ただしく移動する広瀬すず

世の中の脚本家は2種類に分けられる。信用できる脚本家と、そうじゃない脚本家である。

大森寿美男サンは前者だ。彼がNHK連続テレビ小説(朝ドラ)の記念すべき100作目の脚本を担当すると聞いて、僕が「あぁ、それなら大丈夫」と安堵したのはそういうことである。

朝ドラについて、僕は一昨年、『「朝ドラ」一人勝ちの法則』 (光文社新書)なる本を上梓したので、同シリーズについては、少しばかり愛と知識はある方だと自負している。拙著の中で、近年の朝ドラ(2010年の『ゲゲゲの女房』以降)の視聴率が好調な理由を「戦争が物語を作る」と「朝ドラ7つの大罪」という2つワードを用いて解説した。

まず、「戦争が物語を作る」とは、読んで字のごとく“戦争”という個々の人間の努力では抗えない時代の荒波に翻弄されることにより、物語が生まれるという意味合いである。

これは朝ドラに限らず、古今東西名作と呼ばれる物語は大抵そう。例えば恋愛劇なら、戦争によって男は戦地に赴き、男女の仲は一時的に裂かれる。果たして2人は生きて再会できるのか――と、そこに物語が生まれる。戦争そのものを描かなくても、戦後、貴族が没落したり、反対に無一文から闇市でひと稼ぎして大富豪になったり――と、様々な人間模様が描ける。それは戦争に限らず、震災などの“国家的大事件”の場合も同様である。

ちなみに、『ゲゲゲの女房』以降で戦争もしくは、それに匹敵する国家的大事件が描かれた朝ドラは19作品中、実に15作品にのぼる。いずれも高視聴率だ。

『なつぞら』は記念すべき朝ドラ通算100作目(NHKホームページより)
『なつぞら』は記念すべき朝ドラ通算100作目(NHKホームページより)

もう1つのワード「朝ドラ7つの大罪」とは、一見ネガティブに聞こえる7つの要因が、朝ドラという特殊な環境下では、むしろ人気や視聴率にプラスに働くという意味合いだ。いわゆるヒットの法則である。

7つとは――①能天気なオープニング、②無駄に前向き、③ぽっと出のヒロイン、④ノスタルジー狂、⑤夫殺し、⑥故郷を捨てる、⑦大阪に丸投げ――である。もちろん、「夫殺し」と言っても、ヒロイン自身が夫を殺めるわけじゃない(それじゃ2時間ドラマになってしまう)。そうではなく、物語の途中で夫、もしくはヒロインにとって大切な人と死別すること。それに「故郷を捨てる」も、要はヒロインが上京して夢を掴むという意味合いである。ヒットする朝ドラは大抵、この中の4項目以上が当てはまる。

「戦争が物語を作る」「朝ドラ7つの大罪」――いずれも、かつて朝ドラが国民的ドラマと呼ばれ、高視聴率を記録した“昭和”の時代に培われたノウハウである。しかし、平成に入ると、それらは次第に忘れられ、朝ドラは長きに渡る冬の時代を過ごす。『ゲゲゲの女房』以降の復活は、要はかつての昭和の朝ドラをリスペクトして、そのノウハウを復活させたからである。

そこで、『なつぞら』である。

ヒロイン奥原なつは戦争孤児。父親の戦友である剛男に引き取られ、北海道・十勝の柴田家に移り住む。既にこの時点で「戦争が物語を作る」はクリアしている。

更に「朝ドラ7つの大罪」だが――①能天気なオープニング、②無駄に前向き、④ノスタルジー狂、⑥故郷を捨てる――の4つは当てはまりそうだ。朝ドラ初の全編アニメーションのオープニングは明るいタッチで、スピッツの主題歌「優しいあの子」も軽快だし、ヒロインは広瀬すずを起用している時点で、もはやポジティブなキャラは約束されたようなもの。時代背景は昭和20~30年代とノスタルジー色が全開で、ドラマの中盤以降は舞台を東京に移し、“漫画映画”作りに奮闘するヒロインが描かれる。

――いかがだろう。見事に『なつぞら』は、朝ドラがヒットする条件を満たしている。加えて、話は冒頭に戻るが――脚本は大森寿美男サンである。朝ドラを書くのは、2003年の『てるてる家族』以来、2作目。前作は朝ドラ冬の時代で、視聴率こそ恵まれなかったものの、ミュージカル調の明るい作風は評論家筋の評価が高く、お茶の間のコアなファンも多かった。ヒロインを演じた石原さとみサンを一躍スターに押し上げた作品でもある。

他にも――大河ドラマ『風林火山』や『クライマーズハイ』、『TAROの塔』、『64(ロクヨン)』など、大森サンは主にNHKで書かれるドラマに秀作が多い。

さて、『なつぞら』は、序盤は北海道・十勝を舞台に酪農一家やその周辺の人々が描かれ、中盤以降は舞台を東京に移し、まだ産声を上げたばかりの日本のアニメーション業界が描かれる。同業界が選ばれたのは、今年、2019年が漫画の神様・手塚治虫の没後30年であり、アニメの歴史を変えた『機動戦士ガンダム』の放映40周年に当たるアニメのメモリアル・イヤーだからと――僕は勝手に解釈している。

このFRIDAY DIGIDALでも記事になっているが、広瀬すずサン演じるヒロイン奥原なつのモデルは、日本のアニメ黎明期を支えた女性アニメーターの草分け、故・奥山玲子さんだと言われる。映画『パンダコパンダ』や『アルプスの少女ハイジ』を手掛けたアニメーター小田部羊一サンの御夫人でもある。

そう、奥原なつが就職する東洋動画のモデルは東映動画であり、なつが手掛けるアニメーション映画『白蛇姫』も当然、日本初のカラーアニメーション映画『白蛇伝』が元ネタである。ちなみに、その『白蛇伝』に感銘を受け、後に東映動画に入社するのが、高畑勲・宮崎駿の両氏である。

また、なつのモデルの奥山玲子さんはその後、映画『西遊記』も手掛けるが、その作品こそ漫画の神様・手塚治虫が原作であり、彼がアニメーションに目覚めた作品であり、それをキッカケに生まれたのが虫プロである。今のところ、『なつぞら』に手塚治虫をモデルにしたキャストはいないが、恐らく放映途中で、サプライズの追加キャスト発表が行われると僕は予想している。そうじゃなければ、漫画の神様の没後30年にこのドラマをやる意味がない。

そう、そんなアニメ黎明期の息吹を――先人たちに敬意を表しつつ、臨場感たっぷりに描くのが同ドラマの役割であり、アニメのメモリアル・イヤーに相応しい作品だと思う。当時のアニメスタジオの様子を再現した美術は、貴重な歴史的資料にもなるだろう。

もっとも、今でこそ僕らは普通に「アニメ」と呼んでいるが、その言葉が普及するのは昭和50年代以降。それまでは“まんが映画”や“テレビまんが”と称していた。その辺りのディテールを大森サンがどう描くかにも注目したい。

朝ドラ100作目の『なつぞら』には、かつて朝ドラのヒロインを務めた“レジェンド”たちも多数出演する。『ひまわり』の松嶋菜々子サンを始め、『純ちゃんの応援歌』の山口智子サン、『おしん』の小林綾子サン、『どんど晴れ』の比嘉愛未サン、『ちりとてちん』の貫地谷しほりサン――それに、記念すべき朝ドラ第1作『娘と私』でヒロインを演じた北林早苗サンもサプライズ出演する。

僕は、優れたエンタテインメントとは、温故知新だと思っている。先人たちの偉業をリスペクトしつつ、それを現代風にアップデートする作業が、真のクリエイティブだと信じている。その意味で、記念すべき朝ドラ100作目において、昭和の朝ドラのノウハウを受け継ぎ、かつてのレジェンドたちを登場させる心意気こそ、『なつぞら』の真骨頂である。これが面白くないはずはない。

もう一度言う。僕は大森寿美男サンを信じている。

  • 草場滋(くさば・しげる)

    メディアプランナー。「指南役」代表。1998年「フジテレビ・バラエティプランナー大賞」グランプリ。現在、日経エンタテインメント!に「テレビ証券」、日経MJに「CM裏表」ほか連載多数。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。代表作に、テレビ番組「逃走中」(フジテレビ)の企画原案、映画「バブルへGO!」(馬場康夫監督)の原作協力など。主な著書に、『テレビは余命7年』(大和書房)、『「朝ドラ」一人勝ちの法則』(光文社)、『情報は集めるな!」(マガジンハウス)、『「考え方」の考え方』(大和書房)、『キミがこの本を買ったワケ』(扶桑社)、『タイムウォーカー~時間旅行代理店』(ダイヤモンド社)、『幻の1940年計画』(アスペクト)、『買う5秒前』(宣伝会議)、『絶滅企業に学べ!』(大和書房)などがある

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