薬物依存症・再発13回! 実話『ビューティフル・ボーイ』の深淵

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自慢の息子、大切なのビューティフル・ボーイが薬物中毒の泥沼に堕ちて行く…。父親には、なす術がない。 『ビューティフル・ボーイ』(C)2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC. François Duhamel

「くれよ 吸うから」と、息子が吸っていたドラッグを、父親も吸い始める。

「ドラッグ経験は豊富?」と尋ねる息子。

「まあ… 一応やったよ。それなりに経験はした」と答える父。――ある雰囲気を感じ取った息子は「教訓話 するつもり?」と牽制する。

「心配しすぎ みんな やってる」 「気をつけろ」 「ただのハッパさ 軽く楽しむだけ」……。

ドラッグ中毒の深みにハマってゆく最愛の息子を救うため、何とか説得のきっかけをつかもうと父親は必死だが、会話はかみ合わず、想いは届かない……。

映画『ビューティフル・ボーイ』が描くアメリカ社会の現実は過酷だ。街にはドラッグが溢れかえり、呆れるほど簡単に手に入る。冒頭の会話ではないが、まるで“通過儀礼”か、“たしなみ”のようにドラッグを経験する。劇中、「薬物過剰摂取は50歳以下の米国人の死因 第1位」と衝撃的な字幕が出る。

原作は父親:デヴィッド・シェフが書いた『Beautiful Boy』。そして息子:ニック・シェフが書いた回顧録『Tweak』と『We All Fall Down』。そう、この映画は実話なのだ! とある家族の痛ましい経験を、父と息子それぞれの視点と想いを交錯させながら脚本化している。

成績優秀なニックは受験した6つの大学全てに合格する。両親(離婚はしているものの)には愛され、父の再婚相手や、その間に生まれた2人の妹弟との関係も良好だった。そんな好青年が、なぜドラッグのワナに堕ちてしまったのか? ニックは「ありとあらゆるドラッグ」に手を出し、更生と再発を繰り返す。恐るべきドロ沼状態だ。その間、父親はもちろん家族全員が絶望と焦りに振り回されながらも、ギリギリの絆を繋いで、何とかニックに手を差し伸べようと試みる。

父は画家のカレンと再婚。弟ジャスパー、妹デイジーも生まれ、ニックはその中で一見、幸せに暮らしていたのだが。  『ビューティフル・ボーイ』(C)2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC. François Duhamel

映画は意外なほど美しい映像で描かれる。もちろんテーマはこの上もなく深刻だから、息子のドラッグ経験を記したおぞましいノートを発見した父親が、ページをめくり読み進むシーンなどは、まるでホラー映画だ。ところが、デリケートな撮影・照明が「端正な映像美」を創り出していて、ニックの善良でナイーブな内面や、家族たちの「何とかこれを契機に更生してほしい」という、もはや祈りのような気持ちを観客に伝えている。

題名は、ジョン・レノンの曲「Beautiful Boy」から取られた。父:デヴィッド・シェフは音楽ライターとして、アメリカの数々の著名雑誌に寄稿しており、ジョン・レノンの生前最後となったロング・インタビューも手掛けている。そんな縁と音楽を通じて交流していた父と息子の関係をモチーフに、劇中、様々なジャンルの楽曲が25曲も使われて物語の展開に寄り添う。

父:デヴィッドを演じるのはスティーヴ・カレル(1962年生まれ)。日本での知名度は高くないが、『フォックスキャッチャー』(14年)でアカデミー主演男優賞にノミネート、『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(15年)でゴールデン・グローブ主演男優賞にノミネート。アニメ映画『怪盗グルー~』シリーズで主役のグルー(声)を演じたかと思えば、『バイス』(4月5日公開)では、嫌味たっぷりに実在のラムズフェルド国防長官役を務めている。コメディーもので人気を獲得し、いまやカメレオンのように多彩な役をこなす演技派となっている。

そして息子のニック・シェフを演じるのは、ハリウッド注目の若手俳優、ティモシー・シャラメ(1995年生まれ)。『君の名前で僕を呼んで』(17年)の演技が旋風を巻き起こし、1939年以来最も若いアカデミー主演男優賞候補となった。早くも日本の女性ファンを獲得していて、傑作SF小説の再映画化『デューン 砂の惑星』に主演するなど、多くの出演作が待機している売れっ子だ。

「どうしてもこの役がやりたかった」というシャラメ。オーディションを経てニック役をつかみ、本作を「非常にエモーショナルで、感情をむき出しにしたような映画だ」と表現している。

映画の結末とは別に、ニック・シェフの近況をお伝えすると、なんと彼は脚本家として活躍中だ。参加したドラマ『13の理由』(Netflix)は賛否渦巻く大反響を呼び、シーズン3も予定されている(ちなみに同作はヒットドラマ『3年A組 今から皆さんは人質です』(19年1月~3月)に影響を与えたとも言われる)。

日本に目を転じると、「平成29年における組織犯罪の情勢」(警察庁)による「薬物事犯全体及び大麻事犯の検挙人員の推移」は過去最多の3008件に達した。また「人口10万人あたりの大麻事犯検挙人員の推移」を見ると検挙者の約半数が30歳未満で、若年層が増加傾向にある。人口10万人に対して約10人ではあるが、この5年間では、ほぼ倍増ペースだという。

映画で描かれる状況は、程度の差こそあれ日本のどこかでも起きている。そして今まさに、ピエール瀧被告が麻薬取締法違反の罪で起訴され、薬物依存症に注目が集まった。

ニック・シェフは薬物依存症が13回も再発し、そのために7つの医療センターを訪れたという。その8年間に及ぶ軌跡を考えると、依存症を「道徳上の過ち:犯罪」というシンプルな枠組みで捉えるだけでは問題は解決しない、と感じる。

ひとつの家族が陥った薬物中毒の泥沼。それを過度に劇的にせずに、繊細に描いた『ビューティフル・ボーイ』(4月12日公開)は、私たちに様々な問いかけをしてくる作品だ。

音楽ライター(ニューヨークタイムズ、ワイヤード、ローリングストーン、プレイボーイ、エスクァイアなどに寄稿)で父親のデヴィッド・シェフ。演じたスティーヴ・カレルは『40歳の童貞男』(05年)で映画初主演。『リトル・ミス・サンシャイン』(06年)、『ラブ・アゲイン』(11年)、『バトル・オブ・セクシーズ』(17年)、『30年後の同窓会』(17年)など出演作多数。  『ビューティフル・ボーイ』(C)2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC. François Duhamel
息子のニック・シェフは回顧録でベストセラー作家となる。作家、脚本家としても活躍。演じたティモシー・シャラメは1995年ニューヨーク州生まれ。父はフランス人で、母と姉が女優。  『ビューティフル・ボーイ』(C)2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC. François Duhamel
映画『ビューティフル・ボーイ』より (C)2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC. François Duhamel
映画『ビューティフル・ボーイ』より (C)2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC. François Duhamel
映画『ビューティフル・ボーイ』より (C)2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC. François Duhamel
映画『ビューティフル・ボーイ』より (C)2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC. François Duhamel
映画『ビューティフル・ボーイ』より (C)2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC. François Duhamel
映画『ビューティフル・ボーイ』より (C)2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC. François Duhamel
フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン監督。1977年ベルギー生まれ。『オーバー・ザ・ブルースカイ』(12年)が高い評価を受けアカデミー外国語映画賞にノミネートされた(14年)。監督にとって『ビューティフル・ボーイ』は初の英語&ハリウッド進出作品。   (C)2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC.
『ビューティフル・ボーイ』4月12日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国公開/配給:ファントム・フィルム/提供:ファントム・フィルム、カルチュア・パブリッシャーズ、朝日新聞社/(C)2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC.

Photo Gallary12

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