東京都生まれ。フリーライターとして講談社、小学館、PHP研究所などの雑誌や書籍を手がける。携わった書籍は『近藤典子の片づく』寸法図鑑』（講談社）、『片付けが生んだ奇跡』（小学館）、『車いすのダンサー』（PHP研究所）など。

中川 いづみ

<h3><span class="strongInContent">風が強いほど発電能力が高くなる風力発電。いちばん風が強いときはいつだろうと考えたら……</span></h3>
<p>平年よりやや少ない見通しだった今年の台風の発生数予想。しかし、８月12日には台風５号が東北地方を直撃。岩手県では８月の降水量の２倍を超える400㎜以上の総雨量を記録した。また、同16日には台風７号が関東地方に接近し、新幹線は名古屋-東京間が終日運休になり、飛行機も多くの便が欠航となった。</p>
<figure id="attachment_387431" aria-describedby="caption-attachment-387431" style="width: 6692px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="97fe9ff1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/08/3976135e18a3a9a2fc02f58f46bb60b5.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-387431" class="wp-caption-text">８月16日、非常に強い勢力で関東地方に接近した台風７号。千葉県銚子市では最大瞬間風速26.7m/sを記録した（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
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<p>各地に甚大な被害をもたらす台風。今、この台風のエネルギーを利用して発電しようという研究が行われている。</p>
<p><span class="strongInContent">「台風の風を利用して発電するなんて、子どもが思いつきそうなアイデアですよね。でも、だれもやろうとしなかったのは、台風のことがよくわからないからです」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p>こう言うのは、台風科学技術研究センターの台風発電開発ラボでラボ長を務める満行泰河（みつゆき・たいが）准教授。</p>
<p>台風科学技術研究センターとは、台風災害リスクやその脅威の低減、そして台風エネルギーの活用を目指し、’21年に横浜国立大学先端科学高等研究院に設立された組織だ。ここでは、台風観測研究ラボ、台風予測研究ラボなどに分かれ、多角的に台風についての研究がされている。</p>
<p><span class="strongInContent">「風を利用した再生可能エネルギーに風力発電があります。風が強いほど発電能力が高くなる。いちばん風が強いときはいつだろうと考えると、台風。ということで台風発電を考えました。2050年のカーボンニュートラルに向けて開発中です」</span></p>
<p>今、日本では風力発電の風車は陸上にあり、これからはさらに風が強い洋上に風車を立てる洋上風力発電が進められている。<span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">「でも、風車は動かない。風の強いところに動いていくようになったら、それがいちばんいいんじゃないかと考えて作ったのが、写真の模型です」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
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<p>ひとつは帆を張って風を受けて進むタイプ。もうひとつは筒状の中にプロペラが入っていて、そこで風を受けて進むタイプ。いずれも進むことでスクリューが回転し、それによって発電するというものだ。</p>
<p>全長200～250ｍのものであれば、年間20個の台風を５日間追走すると想定した場合、１艇あたり年間33億kWhの電力が作れるという。これは一般家庭での年間電力消費量にすると、約７万7000軒分だ。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="台風は謎だらけ……"></div>
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<h3><span class="strongInContent">台風は謎だらけ……</span><span class="strongInContent">台風を知ることから設計は始まる</span></h3>
<p>なんだかシンプル。これなら、すぐ作れそうだ。</p>
<p><span class="strongInContent">「設計が決まれば、作ることは技術的にむずかしくないと思います。けれど、台風を知らなければ、設計を決めることができません」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<figure id="attachment_387432" aria-describedby="caption-attachment-387432" style="width: 4032px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="94d3a2e1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/08/1ec3efd630fe4bf60f33536eb7d1e37b.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-387432" class="wp-caption-text">帆を張って風を受けて進むタイプ（PHOTO：満行泰河准教授提供）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_387433" aria-describedby="caption-attachment-387433" style="width: 4032px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="3d8559b1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/08/5a27535be3725025ab2046fcd3b3c466.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-387433" class="wp-caption-text">こちらは、筒状の中にプロペラが入っていて、そこで風を受けて進むタイプ。「蓄電池も載せなければいけないし、もう少しずんぐりした形になるのではと思っています」と満行准教授（PHOTO：満行泰河准教授提供）</figcaption></figure>
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<p>台風には一つ一つ個性があるという。今回の台風７号のようにゆっくり進むものもあれば、あっという間に通りぬけていくものもある。寿命が短いものもあれば、すぐ消えてしまうものもある。現在、進路や勢力はある程度正確に予想できるようになったが、まだまだわからないことが多いのだとか。</p>
<p><span class="strongInContent">「船をしっかりオペレーションするには、風だけではなく、波の状態も把握しなければなりません。けれど、台風のとき海面下がどういう状況になっているかデータがほとんどないのです」</span></p>
<p>台風発電船が走るのは、台風の暴風域の外側。どこをどう走らせれば、効率よく風を受けられるのかデータが必要だ。だが、中心気圧や勢力はわかっても、台風の一部分がどのような状態になっているかは、ほとんどわかっていないのだとか。</p>
<p><span class="strongInContent">「どのくらいの風がどのように吹くのか、海面はどうなっているのか。それらがわからなければ、どんな船を作ればいいのかわからない。台風を知らなければ設計することができないのです」</span></p>
<p>満行准教授の専門は船のシステム設計。船の専門家からすると、台風が来たら船は逃げるのが当たり前。台風に向かっていくなんて信じられないことだという。縁あって、台風発電開発ラボに参画することになったが、そうでなければ、台風の中で船を走らせ、発電しようなんて考えもしなかったとのこと。</p>
<p>台風が生まれた場所と進路の関係、どこで生まれた台風が寿命が長くなるかなど、今、台風科学技術研究センターでは、台風についてさまざまな研究が行われている。</p>
<p><span class="strongInContent">「ここだからこそ、台風発電船を作ることができる。2050年に社会実装できるよう、あと10年ぐらいで試作船を作りたいと思っています」</span></p>
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<h3><span class="strongInContent">船だから、台風で被災した地域に電気を届けることもできる</span></h3>
<p>オペレーションによって、どこにでも走っていける台風発電船。満行准教授には思い描いている活躍の場がある。それは台風によって被災し、停電になったところに電気を届けること。</p>
<p><span class="strongInContent">「台風発電船のいちばんの特徴は動けるということ。この利点を生かすためには被災地で使ってもらうのがいちばんいいのではないかと思っています」</span></p>
<p>船の蓄電器からケーブルをつなげば、給電することができる。被災したところがなければ、洋上風力発電所などに蓄電しておいてもいい。「環境を利用して生活していかなければいけない時代がもう来ている。その一つのオプションになればいい」と満行准教授は言う。</p>
<p>さらに夢は広がって、</p>
<p><span class="strongInContent">「台風が発生するフィリピン沖まで行って、そこで作った電気を必要な国に供給することもできるのではないかと考えています。国境などは考えず、困っているところに電気を届ける。そうあるべきだと思っています」</span></p>
<figure id="attachment_387434" aria-describedby="caption-attachment-387434" style="width: 3024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="6811e977"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/08/2066bef8fb177dd6ee7aba0e47801bad-rotated.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-387434" class="wp-caption-text">台風発電は世界でも初めての試み。「だれもやっていないことに挑戦するのは面白い」と満行准教授</figcaption></figure>
<p><span class="strongInContent">満行泰河</span>　横浜国立大学総合学術高等研究院・台風科学技術研究センター台風発電開発ラボ長。船舶海洋システム設計工学研究室では船舶の設計やシステムの開発のほか、コンクリート製の浮体式洋上風力発電システムの研究、台風発電船の実現へ向けて研究している。</p>


中川いづみ

今月16日には台風７号が関東地方に接近し、新幹線は名古屋-東京間が終日運休になった。毎年、各地に甚大な被害をもたらす台風。今、この台風のエネルギーを利用して発電しようという研究が行われている。

「子どもが思いつきそうなアイデアですよね」究極の風力発電「台風発電」…台風を待ち望む日が来るのか

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