【1話無料】女性作家が描く風俗漫画『はたらくすすむ』の魅力

実父、そして働く全ての女性へ向けて描きました

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風俗をテーマにしたマンガが増えている。赤裸々でリアルな女性たちの日常にハマる読者が続出しているのだ。そんな中で、いま注目を集めるのがヤングマガジンサードで連載中の『はたらくすすむ』である。

妻に先立たれた66歳の主人公が、定年後にピンサロ(ピンクサロン)のボーイとして働くこのマンガの作者は、なんと女性。4月18日に第1巻が発売されたばかりの『はたらくすすむ』の著者・安堂ミキオ氏に、物語誕生のキッカケを訊いた。

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『はたらくすすむ』では、定年を迎えた66歳のオジサンと風俗嬢たちのリアルな日々が描かれている

実は弔いマンガでもあるんです

――安堂さんがとてもかわいらしい女性なのでびっくりしました。

安堂:いえいえ。でも、オジサンが描いているのかと思ったってよく言われます(笑)。

――風俗で働く66歳のオジサンが主人公なんてなかなか異色ですからね。

安堂:もともと、オジサンを主人公にすることは決めていました。実は、このマンガのイントロは私自身の体験が元になっています。一昨年に母が亡くなったんです。そしたら父がものすごく落ち込んでしまって……。それがちょっと意外だったんですよね。娘の私から見た両親は仲が悪かったので。

――ケンカばかりしていたとか?

安堂:ケンカというより、母はかなり気性の荒い人だったので、無口で穏やかな父がいつも一方的に怒りをぶつけられていました。それが頼りなく感じたし、我慢しているようにも見えたから、亡くなって解放される部分もあるんじゃないかと思っていたんです。ところが、何も手に着かないほど深く悲しんでいる。今まで見たことのない父の姿に驚いて、不器用な人なんだなって見方がちょっと変わったんです。

仲が悪く見えても、長く人生をともにしてきた夫婦の絆って強いものなのかもしれないと、母への弔いの意味も込めて父をモデルにした主人公でマンガを描こうと思いました。父は風俗で働いた経験はありませんが、進(主人公)のキャラクターは父の影響を受けています。

妻に先立たれ、落ち込む主人公・進。ここから物語は始まる

――進さんを冷めた目でみる娘の美織ちゃんは、安堂さん自身でもあるんですね。しかし、なんでピンクサロン(ピンサロ)が舞台なんですか?

安堂:進さんと同じで、父もサラリーマンとして定年まで真面目に勤め上げました。そんな堅物オジサンがそういう世界で働いたらものすごいカルチャーショックを受けるはずで、何かおもしろいことが起こりそうだなって思ったんですよ。

それに、ピンサロには男のロマンがあるらしいんですよ。ピンサロが大好きな知り合いがいて、会うといつも体験談を語ってくれるんです。彼が言うには、「風俗は一通り行ったけどピンサロが一番だ」と。30分とか短い時間の中で気持ちを盛り上げてくれる。その時の恍惚感といったらないらしいです。それでいて低料金だし。

――風俗のプロですね。

安堂:はい(笑)。私は実際に行ったことがなかったので、その知り合いに風俗のイロハを教わった感じです。

――マンガでは店内の様子がリアルに描かれていますよね。

安堂:最初は自主制作マンガとしてスタートしたのですが、その時はネットで得た知識だけであとは想像で描いていました。でもそれを「コミティア」という即売会に出したら、けっこうお客さんがきてくれて。その中に『ヤングマガジンサード』の編集さんがいて、「うちで連載しませんか」って声をかけてくださったんです。

すごくうれしかったんですけど、まさか商業誌で連載するなんて考えてもいなかったので、ピンサロのことをちゃんと調べ直しました。オジサンも当初の設定は清掃員だったんですが、それだと話が広がらないのでボーイに変えたりして。

本物のピンサロ店で驚きの連続

――実際にお店には行ったんですか?

安堂:はい、錦糸町のお店に取材に。錦糸町は風俗激戦区らしくてなかなかディープでした。

――マンガについて、取材したお店の人は何か言ってました?

安堂:店長から第一声、「66歳のボーイなんていないから!」って言われました(笑)。

――確かに、夜中までの仕事はオジサンにはハードワークかも(笑)。

安堂:取材時は営業時間外で女の子たちがいなかったんですが、店長はとても親切で料金の仕組みやボーイの仕事を丁寧に教えてくれました。びっくりしたのはお店の狭さ! 受付も接客スペースもドリンクを用意する場所もすべてワンフロアにあるんですね。接客スペースもボックス席が並んでいるだけで、ちょっとこれ隣が丸見えじゃんって……。女性の私としては驚きの連続でした。

お客が来ると一気に戦闘モードに入る風俗嬢たちに進も腰を抜かす

――マンガでは事務所や待機室のシーンも多く描かれています。実際に見て気づいたことはありましたか?

安堂:事務所に5リットルくらいの大きなボトルに入ったイソジンが置いてあったのは衝撃でしたね。歯ブラシとコップの数もハンパないし、本編でも取り上げていますが性病の検査も定期的に行っていて壁に検査の料金表が貼られていました。そこに一番、ピンサロというお仕事の生々しさを感じましたね。

――バックヤードの女の子たちの会話や悩みも物語の重要なポイントだと思うんですが、その辺をどうやって落とし込んでいるんですか?

安堂:ネットに風俗嬢の掲示板がけっこうあるので参考にしています。接客のし過ぎでアゴが痛くなる、とか……。でも、きっとそんな特別なことを話しているわけではないと思うんですよね。彼女たちも普通の女の子だから、仕事のちょっとした愚痴とか、私がふだん女友達と話す会話と変わらないだろうと思って描いています。

それと、私はあまり知り過ぎてしまうとその枠から出られなくなってしまうんです。だから想像の余地を残しておきたい。第1話でミントタブレットが床に散らばって星空のように見えるシーンが出てくるんですが、実際にはあんなことは起こらないかもしれません。これはタブレットで口をすっきりさせてから接客するという話をヒントに創ったエピソードです。

女の子たちは数時間の間に何人もの相手をします。もしかしたら口をゆすぐヒマもないかもしれなくて、タブレットを口にほおばって乗り切っている。だから、これも立派な仕事の一つで、必死で働いている人たちのひたむきさを無数のタブレットで表現したんです。

風俗嬢たちが頬張るタブレットが床に散らばった様子をみた進。ピンサロという仕事への見方が変わった

――安堂さんの世界観が現れたシーンですね。そういえば、舞台となっているピンサロ店の名前も「世界観」ですが。

安堂:深い意味はないんです。風俗店の名前っておもしろいほうがいいなって考えていた時に、たまたまミュージシャンの尾崎世界観さんを見て「世界観を名前にする発想がすごい」とインスピレーションを刺激されて付けました。

――すごいところから取りましたね(笑)。安堂さんはどのような読者に読んでもらいたいですか?

安堂:弔いマンガとしてスタートしたので、最初は読者層を意識していなかったんです。でも、コミティアに出した時にけっこう年齢の高い、それこそ進さんのような方々が多く来てくれて、聞けば「僕にも娘がいてね」なんて言うんです。

――娘や女の子たちを案じ、寄り添おうとする進さんに自分を重ねているのかもしれませんね。

安堂:風俗業に対する偏見って少なからずあると思うんです。私もまったくなかったといったら嘘になります。でも、マンガを描いていくうちに、働く女の子もお客さんもすごく普通の人たちなんじゃないかって思いました。

この作品に限らず、私は芯のある強い女の子を描くことを大切にしています。風俗で働く理由は人それぞれだろうし、辛いこともたくさんあると思うんですが、その中でみんな前向きに生きている。そのことが、偏見を持っていた真面目なオジサンの心の変化を通して、読者に伝えられたらいいなって思っています。

――ちなみに、お父さんにこのマンガのことは話したんですか?

安堂:いやいや、話してないです。読んだら自分のことを描いているってわかるじゃないですか。だから、何を描いているのか聞かれても言葉を濁していました。でも、会うたびにしつこく聞いてきたのに、ある時からパタッと聞かなくなったんですよね……。

――それ、絶対に読んでますよ(笑)。今回、第1巻が発売されましたが、今後も連載は続きます。どんなことを描いていきたいですか?

安堂:お客さんや店長など男性側のことも描いていきたいですね。大きな軸としては進さんと娘の関係、そして亡くなった奥さんのこと。過去の後悔を解消するのは難しいけど、そこをどうやって乗り越えていくのか。ぜひ、ピンサロで働くオジサンの葛藤と奮闘を楽しんでください。

 

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はたらくすすむ第1話

  • 取材・文中川明紀

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