登場人物全員裏切り者 最恐漫画『ギルティ』にハマる女性心理とは | FRIDAYデジタル

登場人物全員裏切り者 最恐漫画『ギルティ』にハマる女性心理とは

著者・丘上あい先生インタビュー

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不倫、裏切り、疑惑、策略、怨念——あらゆる負のオーラが渦巻く愛憎を描いた漫画『ギルティ〜鳴かぬ蛍が身を焦がす〜』をご存知だろうか?

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何しろ、登場人物全員が「裏切り者」。夫は妻の友人と不倫。彼女は何食わぬ顔で妻と交流を続け、妻の職場や人間関係に踏み込んでいく。友人、親子、あらゆる関係が裏返り……。スピーディーに展開するダークなジェットコースター・ロマンス。翻弄されっぱなしの読者からは、回を重ねるごとに「エグいのに目が離せない!」と歓喜(?)の声が高まっている。

爽と一真、何不自由ない、幸せな夫婦だったはずのふたりが……

誰が正義か? 愛することの「罪」とは? 最新4巻、そしてその先の気になる展開も含め、作者・丘上あい氏に訊いた。

人それぞれの「正義」を描く

主人公・荻野爽(さやか)は女性ファッション誌の編集者。35歳、そろそろ子供を持ちたいものの、優しくてイケメンの夫・一真からは「子供はほしくない」と告白され戸惑う。行きつけのバーで気のおけない友人に愚痴をこぼす中、親身になってくれる年下の女性・瑠衣の挙動に、ふと不穏なものを感じる爽。女の勘は当たっていた。瑠衣は、爽の夫と知りながら、一真と不倫関係にあったのだーー。

エグい! と思ったあなた、これはほんの“序の口”である。瑠衣はその魔手を爽の職場にも伸ばし、同僚、親友が次々と爽に対して抱いていた暗い思いを露わにし、彼女を絶望のスパイラルに叩き落としていく……ああ、怖すぎる!

「ですよねぇ」と苦笑するのは、作者・丘上あい氏。これまで、少年少女を主人公にした作品や保育園を舞台にした物語など、どちらかというとほのぼのとした作風で支持を集めてきた作家だ。

「私自身、あんまり人から嫌われたくない人間なので、とことん悪い人間というのを描いてこなかったんですね。それが作家としての弱点かなぁとも思っていて……。そんなときに、当時の編集長から『ドロドロのやつ、読んでみたいな』と言われて、今かも! と」

裏切りに次ぐ裏切り。冷酷なセリフと氷のような表情。キャラクターに自身を憑依させて描くタイプであるがゆえに、執筆は困難を極め、「毎回、のたうち回りながら描いている」という。

爽を欺き、一真をたらしこむ“最凶の女”瑠衣。最新4巻では、彼女の驚くべき 過去が明らかに

「本当、辛いです(笑)。でも、作品を描いていて思うのは、『誰も傷つけない表現物ってないんじゃないのか?』ということ。たとえば私がハッピーな恋愛ものを描いたとしても、失恋したての読者にとっては辛いかもしれないじゃないですか。一見、非の打ちどころのない爽の言動だって、誰かを傷つけている可能性があるわけで」

さらに、日頃から芸能人の不倫報道などを目にして、「皆、どうしてそんなに人の色恋沙汰が気になるんだろう?」と疑問に感じていたことも、物語の糸口のひとつになった。

「『お騒がせ俳優』とか言いますけど、いやいや騒いでいるのはメディアのほうでしょ! と。それでいて、不倫をした人の事情や心情が明らかになると、報道する角度が180度変わったりして……。正義って、本当に人それぞれなんだなぁと。『ギルティ』の根底には、そんなことを描いてみたいという思いがありますね」

裏テーマは「母親」

『ギルティ』を読んでいて気づくのは、登場人物たちがそれぞれ、生まれや成長の過程で、親や家族との関係に傷ついていること。とくに母親との関係にそれが顕著で、爽は夫に捨てられた恨みから娘を縛る母を抱え、一真は自尊心の低い依存的な母との関係を乗り越えられていない。丘上氏も「『ギルティ』の裏テーマは『母親』なんです」と語る。

「以前に保育園が舞台の作品を描いていたときに、いろんなタイプのお母さんを登場させたんです。そのとき、人格形成のベースになっているのは家族との関わり方であり、とくに、母親が多いなぁと。その上で、人は初めて外とのつながりを持てるわけだから。じゃあ、もしそんな問題を抱えた者同士が夫婦になったとしたら、相手を受け容れて愛情を築いていけるのかな? と。私も息子を持つ母親ですから、過度に心配する気持ちから子どもを支配したくなったりする、そういう心の動きには敏感になっているのかもしれません」

そもそも、自分の人間関係のルーツとは? 心の奥底と向き合う執筆の日々は、作者にも自身を振り返らせた。

「実は私自身も、母に対して素直になれない時期があったんです。うちでは母の言葉にはすごく影響力があって、それを否定したり対立したり、つまりは喧嘩をすることができなかったんですね」

人に嫌われたくないーー丘上氏が最初に語った、そのひと言が蘇る。

「でも、当時のことを思い出しながら、母に対する思いを爽の言葉に乗せて描いたりする中で、『ああ、私ってこんなふうだったんだ』と気づかされたり。10年以上訊けなかった母への疑問を、今、自然に母に尋ねることができたりもして、そのことに驚いています」

一片の疑いもなく幸せだと思ってきた夫との生活が瓦解していく過程を、かつて母親からかけられた不幸の暗示と重ねる爽

悪びれずに不倫を重ねる夫・一真には、当初、読者からの非難が殺到。しかし3巻で、一真とその母との関係が描かれると、彼の評価は一変したという。

「友達からも『一真のクズ、死ね!』と言われていましたが、あのエピソードを描いた後には、『これじゃ嫌いになれない……』と。ツイッターなどでも『憎めない』『むしろ好きかも』といった言葉がちらほら出てくるようになりましたね。だからといって不倫をしていいわけじゃないけれど、行動には必ず理由がある。何も知らないで断罪するのが、いちばん怖いことなんだろうなと思います」

幸せになるまで、愛を求め続ける

人の暗部、深部への洞察を深めながら、物語は続く。夫の不倫と瑠衣の悪意に懊悩する爽の前には、長年、再会を心の奥底で待ち望んでいた元彼・秋山が登場し、喜びとともに、さらに心が掻き乱される。

そして、発売されたばかりの最新4巻では、暗い思いを抱えて爽に接触するもう一人の人物が。さらには「えぇぇぇぇ?」と思わず声を上げてしまいそうになる大事件が起こり、ラストには、目を疑うような真実が露わに……と、これからも心穏やかには読ませてもらえそうにない。

「フフフ。爽と一真を中心に、瑠衣と、爽に近づくある男。この4人の絡みには注目ですね。先行する電子配信では、瑠衣の過去をはじめ、さらにいろいろな事実が明らかになっています。それにまだ、心の奥底を描いていない人物もいるので……。

今回、執筆に苦しんでいる理由のひとつには、私自身が“描きながら考えている”ことがあります。いつもは大まかな流れを決めて取りかかるんですが、ある作家さんがテレビで『自分があらかじめ決めて描いている内容は、読者も予測できる』とおっしゃっていたのを聞いて、そうか、じゃあ今回はわからないまま描き出してみようと。で、あとで辻褄を合わせるのが大変だったりもしているんですけど(笑)」

ドロドロに次ぐドロドロ。しかし、一回一回の読後感は案外、清々しい。それは、爽をはじめとした主人公たちが、傷つき、翻弄されながらも全力で愛を求めているから。誰もが傷つかないよう、空気を読んで立ち振る舞う昨今、珍しいほどむき出しな心が、逆に愛おしい。

「求めること、自分の欲求を満たすこと……その中でいちばん大きいものは、やっぱり愛情なのかな? と思います。それが、それぞれの幸せにつながるんだろうなと。まだ行き先を決めかねているキャラクターもいますが、最終的には皆がちゃんと、落ち着くべきところに落ち着いてほしいなという思いはありますね。何かしら、幸せな方向に……これは本当に、自分にとっても冒険ですけど」

恐ろしさを盛り上げるのが、キャラクターたちが時折見せる“最凶のキメ顔 ”。「電子書籍のバナー広告に使われることも多いので、“バナー映え”はやっ ぱり意識しますね」と丘上氏

最後に、この最恐の愛憎劇、映像化するとしたら?

「もしあるとしたら、ネット配信とかで、思い切りやっていただきたいですね。あんまり描いたことのない濡れ場も多い作品なので(笑)。国外に輸出して、向こうでエグくやってもらって、で、日本に逆輸入するとか……。そんなことができるのかどうかわかりませんが、作者としてはいくらでも! という気持ちです」

丘上あい 東京都出身。2001年、『THEデザート』掲載の『ハニー‼︎』でデビュー。作品に『やさしい子供のつくりかた』『きーちゃん先生の事情』『赤ちゃんのホスト』『バンビとドール』『ネコろび八起き』などがある

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『ギルティ~鳴かぬ蛍が身を焦がす~』 第1巻1~5話

  • 取材・文大谷道子

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