テニス部からの助っ人と共に名門高校を撃破 漫画みたいな「物語」

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初戦で札幌山の手高校を破った。選抜大会への出場は3回目で、初めての勝利

臙脂とオレンジのジャージィが、青空と桜が鮮やかな春の埼玉県に清涼感を残していった。徳島県立城東高校ラグビー部のことだ。

「大きな声では言えませんが…」と語るのは、就任2年目を迎える伊達圭太監督だ。このほど熊谷ラグビー場でおこなわれた全国選抜ラグビー大会へ出るにあたり、他部から3名の生徒を招いた。旧3年生の引退に伴い、正規部員だけでは試合ができなくなっていたのだ。

それでもふたを開ければ、参加した予選プールBの3試合で2勝した。選抜大会での徳島県勢の勝利自体が16シーズンぶりだったとあり、城東高校は関係者の注目の的になった。対話重視の指揮官のもと、競技の面白みを見事に体現していた。

「僕の持っているものは少ないですが、この子たちに何か伝えることができたら」

こう語る伊達監督は、チームのOBでもある30歳の体育教師。現役時代は鎌田という姓で、3年前の結婚時に「次男なので『どないでもするよ、苗字なら』と言っていたら、本当に変わりました」とのことだ。

大阪体育大学卒業後は母校の講師、県立阿波西高校の教員兼女子バレー部顧問などを経て昨春から現職に就いた。初年度は大阪・東大阪市花園ラグビー場での全国高校大会で自身の在校時以来4度目となる初戦突破を果たし、その手腕は一部の協会関係者にも評価された。

モットーは「自分で考えろ」「その代わり、困ったことは聞く」。今回、その哲学が垣間見えたのは、クラブの背景について話した時だ。

学校情報ポータルサイト「みんなの高校情報」によれば、城東高校の2018年度の偏差値は「64」。スポーツ一辺倒の中学生にとっては高いハードルだ。1949年創部のラグビー部は「特色選抜」という面接や実技のある入試方法で年に「4名程度」を入学へ導けるが、それでも各地の有望株を誘う私学とは前提条件が異なる。

何より苦労するのは、未経験者の勧誘なのだと伊達監督は言う。

平時は朝7時からの「朝補習」から16時頃までの7限目まで授業が組まれ、部活で人気なのは「吹奏楽部とオーケストラ部と百人一首部」。伊達監督は赴任間もない頃、ラグビーに興味を持ちそうな生徒にアプローチするや「親に相談します」と返される。数日後にもらった答えに、拍子抜けした。

「手を怪我したらテストはどうするんだって、親が…」

あぜんとしながら受け持つクラスへ訴えたのが、「自分で考えろ」の哲学だったという。

「お前ら、親の言いなりか!? 誰の人生だよ!!!」

ラグビー部を選ぶ生徒が少ないからこそ、ラグビー部を選んだ生徒の覚悟には応えたいと伊達監督は誓う。

チームは7限終了後から完全下校の8時までのうち、約2時間半の活動時間をフル活用。ここへ補習が入れば14人での練習すら叶わないが、選手は「人数の多いチームよりも考える機会が増えるのが少人数チームの良さ」と屈しない。

夏休み中も指揮官曰く「朝9時から90分4コマ、補習という名の全員参加の授業」があり、他校がするような2部練習はできない。今度の選抜大会中も、部員たちは学校から出た課題を持参している。

伊達監督は「勉強とラグビーを両立するチームは少ないし、徳島県自体もラグビーは盛んではない。そんななか少人数でやろうとしてくれている子たちをどうにかしたい」と、教え子への思いを明かす。そして、日頃から伝えている「自分で考えろ」「その代わり、困ったことは聞く」の中身をこう明かすのだった。

「自分で考え、自分で行動しろ。俺はほとんど何も言わん。その代わり、困ったことがあれば何でも聞く。進路も、自分で開拓しろ。そのための手立てだったら、俺が何でもしてやる」

思いは、伝わっている。伊達監督の選手時代からチームに携わる稲垣宗員ストレングス&コンディショニングコーチは、最近の部員をこう讃えた。

「選手1人ずつと話せば、1回ずつは『これはアイシングした方がいいですか?』『振動をかけた方がいいですか?』と聞いてくるようになった。最初はやらされているものでも、いつしかそれが習慣になっていくんです。コンディショニングへの意識は、他の私学の子よりも高いかもしれないです。だって、怪我はできないですから」

司令塔のスタンドオフに入る三木海芽主将とタックルが得意なフランカーの伊藤優汰は、地元の徳島スクールで楕円球を追ってきた同級生だ。この2人が一般入試を突破できたおかげで、新3年生の代は特色選抜組を含めて戦力が充実している。特色選抜組で新3年の遠藤岳歩は、肉弾戦で苦しむなかでも飄々とパスをさばくバスケットボール経験者のスクラムハーフ。選抜大会では強豪私大の監督に着目されていた。

遠藤と同じ立場で入部した臼田伊織は、出身中学の野球部を引退後に徳島スクールに入った変わり種だ。稲垣が入学前に見立てた通り入学後に10センチ以上も背が伸び、正右プロップ兼ムードメーカーとして大声を張り上げる。ずっと叫んでいるため、「去年、花園に出た時も、ベンチを見たらドクターの方が『あの子、ずっと喋っとるけど脳震盪ちゃうんかなぁ』と言ってた」とのことだ。

全3試合で先発した助っ人部員は、もっとも遅くに加わったテニス部の齋藤壮馬だ。伊達監督は「熱い気持ちを持っている」と見込んだこの新2年生に、「(相手が)来たら、怪我しない程度に止めてね」と告げていた。ところが試合を重ねれば、その「熱い気持ち」が周りの想像を超えた。

3月30日の初戦では留学生のいる札幌山の手高校に28―22で勝つも、31日には優勝経験のある東福岡高校に12―97で大敗。4月2日の最終戦に向け、齋藤は「自分に何ができるか」を再考した。宿舎へ戻ると、先んじてタブレットを開いて試合映像をチェック。やがて、同級生の部員が齋藤の質問に答える即席ミーティングが始まった。その様子に目を細めたのが、日頃から選手へ「自分で考えろ」と訴える伊達監督だった。

当日、齋藤は周りと連携を取って果敢にタックルする。その結果、慶応高校に、21―15で勝った。

「(伊達監督は)高いレベルを求めますが、その内容を皆が聞き入れやすいようにしてくれています。ミーティングで明るく話し合える雰囲気を作ってくれて、要所、要所はしっかり伝える。よそ者も入りやすかったです」

こう語る齊藤は「自分だけでは決められない」と本入部に向けては慎重。しかし、このクラブとラグビーの良さに気付いたのは確かだ。1学期からは6名の新入生がラグビー部へ来る予定で、さらなる希望者を募りたいと伊達監督は言う。

「今年は1人ひとりがリーダーシップを取れる選手が多い。僕自身も考えさせてもらって、楽しくやっています」

目指すは、冬の全国大会でクラブ史上初の2回戦突破。スポーツ漫画よりも数奇で愉快なストーリーは、始まったばかりだ。

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

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