読み継がれる漫画『寄生獣』 なぜ生まれ何のために生きる?

平成の名作漫画を振り返る

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普遍的テーマに解を描いた名作

『寄生獣』は1989年から95年に月刊アフタヌーンで連載していた岩明均の漫画だ。2014年には染谷将太主演で実写映画化され、同年にTVアニメ『寄生獣 セイの格率』も放送。コミックは多言語展開され海外でも支持を集めている。

単行本は現在までに国内累計発行部数1500万部で、紛れもなく漫画の歴史に輝く名作。元号を新たにし、オリンピックに向けて進んでいく今こそもう一度読んでおきたい伝説的漫画だ。

〔ものがたり〕ある日、静かに飛来してきた謎の生物。音もなく人体に侵入し脳を奪い、体を乗っ取る。彼らは人間社会に紛れ、人を喰い生きていた。

高校生の泉新一の体の乗っ取りに失敗し、彼の右手に宿ることになった寄生生物(パラサイト)。奇妙な共生生活を始めることに。それは人間とパラサイトとの戦いの始まりでもあった──。

新一は右手のパラサイトを「ミギー」と名付ける。ミギーは新一と行動を共にするうち人間の感情や行動原理を少しずつ理解し、自分の命を守るために、結果としてパラサイトではなく人間側につくことになるのが関係の肝だ。パラサイトは社会のあらゆる場所に潜み、やがて新一の両親にもパラサイトの影が忍び寄り、ついには母親が殺されパラサイトと化してしまう。

それだけではない。学校に新一を狙ってパラサイトが入り込み大量殺人も発生、さらに多くの人々を巻き込み物語は大きくうねる。

パラサイトは人間を一方的に蹂躙しているかに見えるが、案外そうでもない。パラサイトでありながら教師として振る舞う田宮良子は「我々はか弱い。それのみでは生きていけない細胞体だ」と話す。

その種に宿り生きながら同時に食いつくそうとし、そのくせ単体では生きていけない。これは人間と地球の関係にもあてはまる。

なぜ生まれてきたのか?

何のため生きているのか?

死とはどんなものだろうか?

問いは何度も投げかけられ、登場するキャラクター達は各々その答えを見出していく。新一をはじめとするパラサイトと共生する人間、人間に寄生したパラサイト、パラサイトに共鳴する人間、殺しを楽しむ人間。

普遍的な問いと答えを新一の少年から青年に成長するはざまの物語に巧みに組み込んだことで、読み手の胸にぼんやりと抱かれていた普遍的な疑問に明快かつ複雑の回答を突きつけていく。ここに衝撃を受けた人の多さが名作と呼ばれる理由だ。

少年から青年へ、血みどろの中で光る新一の青春と成長

新一は、心優しくどちらかといえば気弱なところがある平凡な少年だ。だがミギーとの出会いによって、冷徹で合理的なパラサイトの思考に近くなり自身の変化に戸惑う。

パラサイトに体を乗っ取られた母との対峙は少年・新一の最初の転換点だ。心臓を貫かれたことで瀕死に陥り、ミギーの尽力で死の淵から蘇るが、待っていたのは大切な人を失い、さらにその上をいく絶望的状況だった。この絶望が少年を成長させ、青年・新一へと変貌を遂げる。

少年から青年へ。少年と青年は、地続きだが実は別の生き物だ。子供だった少年は、思考も身体能力も大人である青年になった。魂が肉体に宿るのだとしたら、魂が乗りこなす肉体は少年のそれとは全く異なる。パラサイトの存在が、少年・新一を死の淵に追いやり、青年・新一に生まれ変わらせたのだ。

ここからようやく、平凡な高校生・新一を脱皮した青年の物語が始まる。

作中では人間が殺され内臓や血が飛び散るグロテスクなシーンも多い。怒り泣きながら竦みながら、それでも新一の17歳の日々はこの上ない青春の輝きを放って見えるのだ。

青春の物語としての『寄生獣』がカタルシスを伴うものでなければ、どんなに普遍性を盛り込んでもきっと読者の心を掴まなかった。

作者の岩明は、物語のラストまで構成を練ってから描いたという。最後の最後に「人間とは何か」の問いを投げかける演出。最初の1コマから最後の1コマまで洗練された漫画だ。

  • 川俣綾加

    (かわまたあやか)福岡県出身のライター。漫画、アニメの取材記事や解説などを媒体を問わず執筆中。著書に『ビジュアルとキャッチで魅せる POPの見本帳』『ねこのおしごと』のほか写真集『小雪怒ってなどいない!』(岡田モフリシャス名義)。

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