「東大は甲子園に行くより簡単」異色の名作『ドラゴン桜』誕生秘話

平成の名作漫画を振り返る

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ドラゴン桜は全21巻。電子版なら5冊が1冊にまとまった超合本版もある

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「受験するなら東大」という新常識を産んだ異色の受験漫画

日本の大学で最難関といえば、誰もが東京大学と答えるだろう。勉強ができる天才が行く大学で、一般人には関係ないと思っているの方も多いはずだ。

そんな常識に一石を投じた作品が三田紀房作の『ドラゴン桜』だ。ストーリーは主人公である元ヤンキーの弁護士・桜木建二が、偏差値30の高校生を1年で東大合格へと導くというもの。読んでいくうちに「東大って実はそうだったの?」という新事実が次々と登場し、驚きの連続だ。ものの見方や考え方を変えることで東大受験のイメージがガラリと変わるというプロセスが面白いので、受験に関係がない大人も面白く読める作品だ。

累計発行部数800万部の大ヒット作を立ち上げから担当した編集者・佐渡島庸平さん(現在は株式会社コルク代表取締役会長)は当時をこう思い返す。

「『ドラゴン桜』は講談社に入社して、初めて担当した企画なんです。当初、三田先生は、第二次世界大戦ものの漫画をやりたいと話されていて、今の『アルキメデスの大戦』(ヤングマガジンにて連載中)の原形的な内容で3話ほど描いて頂きました。ところが編集長に見せると、当時の連載中の作品に『ジパング』(かわぐちかいじ作)があるから似たようなテーマはダメだ、とボツになってしまった。すぐに謝りに行きました。

その際、学園もの、受験ものの企画を提案したら、先生から『東大に100人通るような話がやりたいな』と提案があったんです。私は即座に先生の野球漫画『クロカン』を例に出し、『甲子園に行くことに比べたら、東大なんて簡単すぎますよ』って答えました。すると先生は『おまえ、どの口が”東大は簡単だ“って言っているんだ、説明してみろ』と」

大胆な手法で高校の改革に挑む桜木。この100人東大に入れるというアイデアから『ドラゴン桜』は始まった

東大は簡単だ。こう言い切った佐渡島さんは、灘高校を卒業し、東京大学に現役で合格した経緯をもつ編集者である。

「先生に灘高校時代の話をしました。灘では、成績で言うと220人中210番までが東大現役合格のボーダーラインで、みんな東大を目指しています。東大は、解けない問題でも部分点がもらえるから。数学で言えば、文系志願者の場合、4問中1問も完全解けずとも、部分点だけもらって受かっている人がいるくらい。実際に東大合格者は2次試験で6割取れれば受かっています。こんな調子で話をしたら、先生も『おもしろい!』となって」

かくして東大を目指す学園ものの連載がスタート。作品初期には、佐渡島さんが実践してきた勉強法がストーリー内に散りばめられているという。

「私の勉強法の中から、三田先生がおもしろいと感じたものが採用されています。ただ、私にとっては普通すぎる勉強法。だから先生には『当たり前すぎます。こんな話はやめましょう』と言い続けていました。でも、先生から原稿が上がってくると、あんなにつまらないと思っていた勉強法がとってもおもしろく描かれていて、驚きの連続でした」

作品で描かれはじめた目から鱗の東大受験の必勝法。その反響は読者アンケートに現れた。「東大に受かる方法を詳しく知りたい」との声が多数寄せられたのだ。

参考書コーナーに置けたことがブレイクのきっかけ

『ドラゴン桜』がブレイクしたきっかけについて佐渡島さんは次のように振り返る。

「僕はこの作品で、不安を抱える地方の公立高校生に力を与えられないか、と思っていたんです。というのも、私は中学生時代の多くを南アフリカで過ごしていました。そのとき、日本に戻ったら勉強についていけないんじゃないか、といつも不安だったんです。

今と違って、当時はネットも何もないですからね。もし、あの時『ドラゴン桜』があったら不安を抱えず安心して勉強ができただろうな、と。それで全国の書店を回り、参考書コーナーに漫画を置いてもらえるよう交渉を続けました。すると、ある書店でこの作戦が成功し、全国へと波及していったんです」

 

初期の勉強法のアイデアの多くは、佐渡島さんが実際に行なっていたものだ

2005年には、テレビドラマ化されるほどの大人気作品へと成長。佐渡島さんは読者の声に応えるべく、数多くの教育者へ取材を重ね、新たな勉強法を作品へと反映した。この時期には、数学ドリルなどの関連本も多数生んでいく。

「作品をつくる中でわかったのですが、ほとんどの人は数学の問題がわからないのではなく、時間が足りなくて解答できないんです。たとえば、文系の数学の場合、簡単な計算も含めて一回のテストで500回の計算をしなければなりません。そのため、計算が遅いと、解き方を考える時間がなくなってしまうんです。

算数・数学の教育法を考えると、なぜそうなるのかが見えてきます。小学校の頃はひたすら計算を学びます。次に中学生で数学の考え方を学び、高校生で計算と考え方が初めて融合する仕組みです。

ところが、中学生の授業で、先生がテスト用紙を配って『計算をやれ』だと手抜き授業のように見える。だから授業が公式を解くショーのようになり、その間に計算力がガタ落ちしてしまうんです。それで高校生になるとみんな数学が苦手になるんです。本来ならば、中学生の間に計算力を高める問題集があればいいんですけれど、それが市場になかったんです」

作品から派生した参考書や書籍も充実していくなか、ストーリーは東大受験の大詰めへと向かう。誰もが気になる合否結果は、最後まで意見がわかれたという。

「三田先生は、2人が合格する結末を考えていました。でも、私は2人のうち1人を落としたいと言い続けました。やっぱりそれが受験の現実だと思ったからです。最終的には先生が『よしわかった。どちらを落とすかは私が決める』と結末を描かれました」

タイトルを決める際、「東大受験」というわかりやすいフレーズを避けたという。さらに、なんと音の響きで「ドラゴン」が決まり、高校名を龍山高校に決めた。そこに受験要素ということで「桜」を加えた

リアル東大生を輩出した『ドラゴン桜』に次の展開

作品の世界で終わるのではなく、リアルで東大合格を実現してきた『ドラゴン桜』。2018年には新たな展開として『ドラゴン桜2』が始動した。続編を作ることになったいきさつを佐渡島さんはこう話す。

「2020年に教育制度が改変され、センター試験はなくなり、記述式の問題へと変わります。ただ、三田先生が共通一次試験導入時に経験されたのですが、教育制度の変わり目のときに、学生にはほとんど詳しい情報が届かないんです。そこで『ドラゴン桜2』を読んでおけば、すべてわかる、という状態にしておこうと」

『ドラゴン桜2』は前作同様に東大を目指す物語。再び東大合格者0人へと凋落した龍山高校に桜木が戻り、グズでのろま、無気力で根性なしの生徒に檄を飛ばす。

「昔と根本的な勉強法は変わりませんが、『ドラゴン桜2』ではスマホを使うなど、今の時代にあった効率的な手法をストーリーの中に取り込んでいます。最先端の勉強法を調べているのは、愛読書が『ドラゴン桜』だった現役の東大生たち。先生との打ち合わせにも参加しているので、実は『ドラゴン桜2』はファンと一緒に作っている作品なんです」

Youtubeで展開する「ドラゴン桜チャンネル」など、新しいメディアとの連動も話題の『ドラゴン桜2』。受験のテクニックだけでなく、ビジネスのヒントもたくさん詰まっているので、前作も含め、社会人にもぜひ読んでほしい作品だ。最後に佐渡島さんはこう話す。

「作品では、主人公の桜木が『自分をコントロールしろ』とたくさんの檄を飛ばします。私は、本を作るなかで『最低限なしとげたい目標と、理想の目標の二重目標を立てて、継続できる仕組みをつくれ』を実践するようになり、努力を継続できるようになりました。『ドラゴン桜』は私自身を成長させてくれただけでなく、人間としての器をつくるきっかけとなった作品だと思っています」

ドラゴン桜は下のビューワーから1~3巻まで読むことができます。続きが気になる方は、ぜひこちらから

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佐渡島庸平(さどしまようへい)

1979年生まれ。灘高校から東京大学文学部に進学。2002年に卒業後、株式会社講談社に入社。週刊モーニング編集部で『ドラゴン桜』(三田紀房)、『バガボンド』(井上雄彦)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)、『16歳の教科書』など数々のヒット作を担当。2012年に講談社を退社し、クリエーターのエージェント会社・株式会社コルクを創業。多数の作家と契約を結び、編集、著作権管理、作家の育成、ファンコミュニティの形成などを行っている。続編である『ドラゴン桜2』は『モーニング&Dモーニング』で好評連載中。単行本は4/23日に5巻を発売したばかり。https://corkagency.com/

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