好調『なつぞら』のヒロイン広瀬すずも困らせる「あの存在」
NHK連続テレビ小説、いわゆる“朝ドラ”だが、4月1日にスタートした『なつぞら』が近年まれにみる盛り上がりを見せている。
初回の視聴率は22.8%で、前作『まんぷく』の23.8%には及ばなかったが、’10年前期(『ゲゲゲの女房』)に放送開始時間が8時15分から8時に変わって以来、2番目の数字をたたき出した。
朝ドラ100作目という記念すべき作品ということで、NHKの力の入れ具合も半端ではなく、強い意気込みが伝わってくる。
今回のドラマには歴代のヒロインたちが次々と出演することが明らかになっている。現時点では、ヒロインの養母を演じる松島菜々子(第54作『ひまわり』)、小林綾子(第31作『おしん』)、北林早苗(第1作『娘と私』)、そして岩崎ひろみ(第55作『ふたりっ子』)がすでに出演している。
今後は山口智子(第41作『純ちゃんの応援歌』)や比嘉愛未(第76作『どんど晴れ』)、貫地谷しほり(第77作『ちりとてちん』)などの出演が予定されているようで、昔からの朝ドラファンにとっては見逃せない作品となっている。そんなサプライズだけでなく、オープニングにアニメーションを用いるなど、これまでの朝ドラには見られなかった斬新さや『スピッツ』が歌う軽快な主題歌が若い視聴者を引き付けているのかもしれない。
実は『なつぞら』好調の要因は斬新さだけではなく、朝ドラの原則をしっかり踏まえていることにある。
朝ドラがスタートしたのは今から半世紀以上も前の’61年のこと。’74年4月1日からから放送された第14作『鳩子の海』までは放送期間は1年だった。
翌年、大竹しのぶがヒロインを演じた第15作『水色の時』から原則、放送期間は前期と後期に分かれるようになり、それ以来、制作もNHK東京とNHK大阪が分かれて担当するようになった。
朝ドラにはいくつか特徴がある。
「男性を主役にすると当たりにくく、また、朝ドラを見ている人たちは圧倒的に女性が多いので、共感できるようにと、女性を主人公にしたほうが好まれるんです」
と語るのは、元朝ドラ制作スタッフ。
だから、コンセプトは“女性への応援歌”。これまで放送された朝ドラの多くは、家族との絆や、功成り名遂げるまでの過程など女性の生き方を描いている。いわゆる女性の一代記となっている。
ニュータイプの朝ドラと言われた第88作『あまちゃん』や第98作『半分、青い。』でさえ、例外ではなかった。
ヒロインが苦労に苦労を重ね、困難を乗り越えていくという大筋は『なつぞら』でも踏襲されている。戦中から戦後にわたって描かれるのも定番だ。
朝ドラといえば、注目されるのがヒロインの幼少期を演じる“子役”の存在。
『なつぞら』でも粟野咲莉の名演技が話題となっているが、子役がクローズアップされるようになったのは今に始まったことではない。
年間を通しての平均視聴率平52.6%、最高視聴率62.9%というビデオリサーチの統計史上、テレビドラマの最高視聴率記録をたたきだした『おしん』。同作品でヒロインの少女期を演じた 小林綾子の名演技は今でも語り継がれている。ほかにも『純情きらり』の美山加恋、『ゲゲゲの女房』の菊地和澄、『おひさま』の八木優希、『あさが来た』の鈴木梨央はその後も女優として活躍している。次作の『スカーレット』でヒロインを演じる戸田恵梨香も子役で『オードリー』に出演していた。
幼い子どもが逆境にめげず、たくましく生きていく姿に、視聴者は涙しながらドラマに引き込まれていく。名子役も朝ドラの王道なのだ。
しかし、名子役の出演が予想外の騒動を引き起こしたことがあった。
第14作『鳩子の海』の主演は藤田三保子であったが、子ども時代を演じた斎藤こず恵があまりにも愛らしかったため、藤田にバトンタッチした途端、局に抗議の電話が殺到したという。視聴者はずっと斎藤を見ていたかったのと、いくら大人になったからといっても、藤田と斎藤のギャップが大きかったからだろう。
同作品では、斎藤の出演が1か月半に及んでいたのだが、それ以降、子役の出演は第1週のみになったという。子役の人気が出すぎて、本来の主演女優の人気に支障が出てはいけないということだ。
しかし、最近は状況が変わってきて、子役が1週間以上にわたって出演することもあり、出番が終了しても回想シーンなどでたびたび目にすることが多くなった。
昔に戻ったとも言えるが、それはヒロインの選出方法が変わったことにも起因している。
朝ドラといえば、かつては無名の新人がヒロインに抜擢されていた。
「NHKのプロデューサーがやってきて、オーディションを受けさせるため新人を4,5人選んでいくんです。各劇団を回って卒業公演を見たりして出演者を探していました」(劇団関係者)
ところが最近は、無名の新人ではなく、すでに人気が出ている女優を抜擢するケースが増えた。だから、たとえ子役に感情移入したとしても本来のヒロインに対する期待は大きく、バトンタッチしても視聴者ががっかりすることはなくなったということだ。
『なつぞら』では、成長したヒロインの広瀬すずを初回から登場させ、その後も時代を交差させながら出演シーンを増やすなど、ファンの期待を煽る工夫がなされている。
原則を守りながら新しいテイストを加えた『なつぞら』は、新元号の年にふさわしい“最強”の朝ドラになるかもしれない。
- 文:佐々木博之
芸能ジャーナリスト
宮城県仙台市出身。31歳の時にFRIDAYの取材記者になる。FRIDAY時代には数々のスクープを報じ、その後も週刊誌を中心に活躍。最近は、コメンテーターとしてもテレビやラジオに出演中