ヤンキースの真のエースへ マー君の今季はイニング数と組立てが鍵
今季開幕からローテーションに組み込まれている日本人投手は、シアトル・マリナーズの菊池雄星投手、ロサンゼルス・ドジャースの前田健太投手、シカゴ・カブスのダルビッシュ有投手、そしてニューヨーク・ヤンキース田中将大投手の4投手ですね。
日本時間の4月13日現在、菊池投手が4度の先発で勝敗つかず。前田投手とダルビッシュ投手がそれぞれ3度の先発マウンドに向かい、前田投手が2勝1敗で、ダルビッシュ投手が2敗。春先はチーム状態も不安定で、意外なチームがスタンディング(順位表)の上で走っていたりと、なかなか勝ち星に繋がりにくかったりもしますが、まずは怪我なく自分の投球を貫いて欲しいですね。
そういう意味ではヤンキースの田中投手の安定感が光ります。
これまで3回に先発していますが、開幕投手となったホームのオリオールズ戦では5回と2/3イニングで83球を投げ被安打6で自責点が2。しっかり白星をつけました。
2度目の先発となったホーム・タイガース戦では6回と2/3回87球で8安打を打たれながら自責点1。チームは逆転負けを喫してしまったために勝ちはつきませんでしたが、勝ち投手の権利とQS(クオリティ・スタート/6回以上を投げ自責点3以内)を守っています。特筆すべきは、いずれの試合も四死球がなかったことですね。無駄なランナーを出さないことで、ヒットを打たれても「長打でなければいいか」と開き直れるのでメンタル的にも余裕のある投球ができていたのではないでしょうか。
ヒューストンでの3度目の登板では残念ながら2つの四球を出してしまいましたが、それでも78球で6回被安打3の自責点1でしっかりQSを記録しています。
ヤンキースのスターター(先発投手)は今季、手厚いとは言い難い状況です。ドミンゴ・ヘルマンという若いドミニカンが躍動していますが、C.C.サバシアやルイス・セベリーノといったローテーションを担うピッチャーが出遅れています。実質、田中投手が大黒柱という現状ですね。
上記3試合で80球前後の投球となっていますが、これは今、彼に離脱されては困るからです。特にニューヨークなど春先の東地区は寒いので、まずはQSを目標にできなくても5回、という投球で十分です。そのあたりはフロントと現場でしっかり連携して本人とも話をしていると思います。
そして、そのチーム事情と彼の能力の高さは目の肥えたニューヨークのファンは十分、承知しています。例えば次の試合で彼が多少、イメージ通りの投球ができなくても、メジャーではストラグル(struggle)なんていう言葉を使いますが、ファンは「長いシーズンだからたまにはストラグルすることもある。次は頼むぞ」みたいな感じではないでしょうか。なんせメジャーデビューからヤンキース一筋で、5シーズン連続で2ケタ勝利を挙げている右腕ですから「次は抑えるだろう」と、楽観というよりは、信頼が生まれているのは明らかです。
まだ30歳になったばかりですから、投手としてはこれからが一番いい時期です。ファンの信頼に応え、キャリアハイの14勝(2016年)を超え、プレーオフでチームを勝たせるためには、もちろん低めに落ちるボールで三振を取るのはいいのですが、横にズラすような変化でゴロを打たせて取る投球を織り交ぜてもいいかもしれません。
あとはこれまでのシーズンで低めの変化球のイメージが多くのバッターにあると思います。そこを逆手にとって高めのボールを見せるのも一つの手段でしょう。
今後、気温が上がっていくにつれてそのような組み立てを増やして、イニング数を増やしていきたいところです。理想は7回、できるなら8回ですね。エースピッチャーはシーズンで180イニング、できれば190イニング、最高では200イニングを求められます。かつてヤンキースでローテーションを守っていた黒田博樹さんは「しっかりと自分の仕事をするだけ」と語っていましたが、その通りですね。ヤンキースのような強いチームはしっかり自分の投球回をまっとうすれば、勝ち星はついてきます。ヤンキースの真のエースになるために、多いイニングを意識して投げて欲しいと思います。
文:長谷川滋利
1968年8月1日兵庫県加古川市生まれ。東洋大姫路高校で春夏甲子園に出場。立命館大学を経て1991年ドラフト1位でオリックス・ブルーウェーブに入団。初年度から12勝を挙げ、新人賞を獲得した。1997年、金銭トレードでアナハイム・エンゼルス(現在のロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイム)に移籍。2002年シアトル・マリナーズに移り、2006年現役引退