『オトナ帝国』鬼才・原恵一が『ワンダーランド』でまさかの王道?

「クレしん」~森絵都~木下惠介~ 世界クラスのアニメーション監督が最新作『バースデー・ワンダーランド』で挑む王道ファンタジー

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『バースデー・ワンダーランド』4月26日(金)より、全国ロードショー。配給:ワーナー・ブラザース映画  (C)Sachiko Kashiwaba,KODANSHA/2019 Birthday Wonderland Committee.

劇場アニメ『バースデー・ワンダーランド』が4月26日(金)に全国公開。柏葉幸子の児童ファンタジー『地下室からのふしぎな旅』(講談社青い鳥文庫刊)を原作にした長編作品だ。

主人公は女優・松岡茉優さんが声を演じる12歳の女の子アカネ。ちょっぴり自分に自身のないアカネだが、誕生日の前日、叔母の経営する骨董屋の地下から救世主として別世界に連れ込まれてしまう。世界を救うための冒険に巻き込まれ、様々な試練を乗り越えるなかで、後ろ向きがちだったアカネは次第に成長していく。

メルヘンたっぷりで夢のように美しい風景、ワクワクする異世界の動植物、不思議な魔法、そして心暖まる物語。GWに親子で観るのにぴったりの王道アニメである。ただしひとつ王道でないところがある。それは本作の監督が原恵一である、ということだ。

日本を代表する世界クラスのアニメーション監督とは? と聞かれて、どんな名前を思い浮かべるだろうか。スタジオジブリを支えてきた宮崎駿(1941生)と2018年に亡くなった高畑勲(1935生)のふたりの監督がまず挙がるかもしれない。

エッジの効いた日本アニメを世界に広めた『AKIRA』(1988年)の大友克洋(1954生)、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)の押井守(1951生)を挙げる人もいるだろう。あるいはもっと新しい世代から、先頃『未来のミライ』(2018年)で米国アカデミー長編アニメーション賞ノミネートを果たした細田守(1967生)、あるいは『君の名は。』(2016年)の新海誠(1973生)もいる。

しかし、ここで忘れていけないのが原恵一(1959生)だ。原恵一は、世界最高峰とされるアニメーション映画祭のフランス・アヌシー国際アニメーション映画祭で、今回の『バースデー・ワンダーランド』を含めて3度連続ノミネート。すでに前2作『カラフル』(2010年)、『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』(2016年)でアワードに輝いている。国内では文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞、毎日映画コンクールアニメーション映画賞……、主要な賞の受賞は枚挙にいとまがない。原恵一ほど多くのアワードに輝いたアニメーション監督は数少ない。世界が注目する監督とされる理由だ。

しかし原恵一のクリエイティブのコアな部分は、実は掴みどころがない。多くの人に馴染みが深いのは「クレヨンしんちゃん」シリーズだろう。

原恵一は長年テレビシリーズの監督を務めた。そのテレビシリーズは2003年にPTAの「子供に見せたくない番組」ランキング1位に、その後もたびたび選ばれた。一方で1997年の『クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡』から6作連続で劇場版の監督も務めている。

ところが2001年に『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』で大人が観ても面白いと高い評価を勝ち取ると、『嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』(2002年)で文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞する。PTAからの悪評と文化庁からの表彰という両極な評価を同時に受ける。

その後は、現代社会を舞台に環境破壊にも疑問を投げかけるファンタジー『河童のクゥと夏休み』(2007年)、自殺や援助交際、母親の不倫といった深刻なテーマを織り込んだ森絵都の小説を原作にした『カラフル』、映画の巨匠・木下惠介の若き日を描いた実写『はじまりのみち』(2013年 主演:加瀬亮)、葛飾北斎の娘で女浮世絵師だったお栄を主人公に淡々と進む『百日紅』と、その作品テーマも映像表現も自由自在に変化する、まさに鬼才である。

共通する特徴は、たとえばストーリーのクライマックスをあえて描かなかった、一般的な映画のフォーマットを避けること、など。

「~しんちゃん」シリーズや『カラフル』、『百日紅』のような作品を、期待して『バースデー・ワンダーランド』に観ると、きっとはぐらかされる。しかし、いつもどおりでないことに面白さを見つけるはずだ。

いつもと異なるのは、次々に直面する主人公の危機、見せ場たっぷりの映像。原恵一が避けてきたエンターテインメントのフォーマットに忠実なことだろう。一見、それは「クレヨンしんちゃん」の時代への先祖返りしたように感じる。しかし、ちょっとお下劣で、ギャクに溢れた「クレヨンしんちゃん」と、まさかの王道ファンタジーの『バースデー・ワンダーランド』とは路線が異なる。『バースデー・ワンダーランド』は、原恵一の新たな挑戦である。

最大の見どころは、この監督の多彩さだ。まだ持ち札を隠していたのか、という驚き。原監督自体の変化が面白い。

近年劇場アニメにおいて王道ファンタジーは実は難しいジャンルだ。正統派のストーリーより、どこかクセがあるトリッキーな作品が大ヒットする。『バースデー・ワンダーランド』は王道でありながら、あの原恵一が王道に挑む、ということ自体が、実にトリッキーな作品だ。

それだけにストレートな物語の先に、さらに何か織り込まれたものがないのか。原監督を知っていると、そんな深読みまでしてしまう。劇場アニメが粒揃いの2019年だが、『バースデー・ワンダーランド』は、そのなかでも見逃すことのできない1本だ。

『バースデー・ワンダーランド』ジャパンプレミア(3月18日)。主人公アカネの声を演じた松岡茉優は「失った色を取り戻す」という映画のテーマに沿って早着替えに挑戦!
『バースデー・ワンダーランド』ジャパンプレミア(3月18日)。松岡茉優は「失った色を取り戻す」という映画のテーマに沿って早着替えに挑戦し、見事成功!
『バースデー・ワンダーランド』のジャパンプレミア(3月18日)。写真左から原恵一監督、杏、松岡茉優、市村正親、東山奈央

映画『バースデー・ワンダーランド』ギャラリー

『バースデー・ワンダーランド』(C)Sachiko Kashiwaba,KODANSHA/2019 Birthday Wonderland Committee.
ロシア出身で日本在住のイラストレーター:イリヤ・クブシノブがキャラクターとビジュアルをデザイン。独特のワンダーランドがスクリーンに展開する  『バースデー・ワンダーランド』(C)Sachiko Kashiwaba,KODANSHA/2019 Birthday Wonderland Committee.
謎の大錬金術師:ヒポクラテス(市村正親)と弟子の小人:ピポ(東山奈央) 『バースデー・ワンダーランド』(C)Sachiko Kashiwaba,KODANSHA/2019 Birthday Wonderland Committee.
『バースデー・ワンダーランド』(C)Sachiko Kashiwaba,KODANSHA/2019 Birthday Wonderland Committee.
ワンダーランドの荒らし回るゴロツキのザン・グ。声はアイアンマン(ロバート・ダウニー・Jr)や「クレしん」のヒロシ(現在は交代)の藤原啓治  『バースデー・ワンダーランド』(C)Sachiko Kashiwaba,KODANSHA/2019 Birthday Wonderland Committee.
『バースデー・ワンダーランド』(C)Sachiko Kashiwaba,KODANSHA/2019 Birthday Wonderland Committee.
ヒポクラテスの弟子:ピポ(東山奈央)『バースデー・ワンダーランド』(C)Sachiko Kashiwaba,KODANSHA/2019 Birthday Wonderland Committee.
『バースデー・ワンダーランド』(C)Sachiko Kashiwaba,KODANSHA/2019 Birthday Wonderland Committee.
骨董屋を営むアカネの叔母:チィ。演じる杏は、原監督作品は主人公のお栄を演じた『百日紅~Miss HOKUSAI~』以来2作品目  『バースデー・ワンダーランド』(C)Sachiko Kashiwaba,KODANSHA/2019 Birthday Wonderland Committee.
『バースデー・ワンダーランド』(C)Sachiko Kashiwaba,KODANSHA/2019 Birthday Wonderland Committee.
アカネの母:ミドリ(麻生久美子)。原監督作品の出演は3回目  『バースデー・ワンダーランド』(C)Sachiko Kashiwaba,KODANSHA/2019 Birthday Wonderland Committee.
『バースデー・ワンダーランド』(C)Sachiko Kashiwaba,KODANSHA/2019 Birthday Wonderland Committee.
『バースデー・ワンダーランド』(C)Sachiko Kashiwaba,KODANSHA/2019 Birthday Wonderland Committee.
  • 数土直志

    (すどただし)アニメジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

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