共感と哀愁で話題に! いま注目の「ブラック企業」漫画が描く世界 | FRIDAYデジタル

共感と哀愁で話題に! いま注目の「ブラック企業」漫画が描く世界

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令和元年を迎え、史上初の10連休が訪れた日本。多くの人が、いままで体験したことのない長期休暇を味わった。休みが永遠に続けばいいと思う人も、休みが終わって良かったと思う人もいることだろう。そんな中、今回はいま話題の「労働」をテーマにした2つの漫画作品をご紹介したい。

漫画の試し読みはこちらから

ブラック企業に勤めるペンギンが毒を吐く

「えっ?なんで営業時間外に電話にでる奴がいるんだ?って」

「暗い話になるよ」

会社で働くかわいらしい主人公の「ペンギン。」が上司やクレーマーとやりとり。理不尽な電話に対応したり、上司からの無茶ぶりに耐えながら、機知に富んだセリフで抵抗する。そんな作品がとりのささみ。著の『テイコウペンギン』(小社刊)だ。昨今の労働問題を風刺するかのような一コマがtwitterに投稿されると、たちまち話題となり、350万を超える「いいね」が押された。そんな作品が1冊にまとまった。

作者のとりのささみ。さんは、20年前に漫画家を志望し上京。当時は人物ものの作品を描いていた。しかし、出版社に作品を持ち込むも、箸にも棒にもかからなかったという。その後、ブラック企業に勤めるが、漫画家になる夢を捨てず、ほぼ毎日、4コマ漫画やイラストをpixivやtwitterに投稿していた。

『テイコウペンギン』が生まれたのは2018年春。鳥獣戯画ブームから、動物を主人公にした作品を思いついたという。とりのささみ。さんはこう語る。

「もし、動物の知能レベルが上がって人間と会話ができるようになり、人間社会に溶け込んだら、どうなるのだろうか? と、書き始めました。人間社会になんとか溶け込んだ動物ですが、体型などの問題もあって、きっと人間社会ではうまく生きていけないのだろうと思ったんです。そうすると、どんなに理不尽なことを言われても、誰かに雇ってもらえなければ、生きていくことも難しくなる。結局は、社会的弱者になってしまうのだろうな、と」

新たな描き下ろしも加わった本では、ブラックな会社を辞めようとする主人公の姿も描かれる。退職願を書くものの、上司とのちょっとしたやりとりをきっかけに、出すのを辞めてしまうのだ。こんな切なくもホッとする話の中に、「辞めたいけど辞めたくない」そんな現実社会が見え隠れしている。

現在も、毎日、18時までに作品をtwitterに作品を投稿することを決めているというとりのささみ。さん。思わずクスっと笑ってしまうセリフは、実体験を取り入れたものではないと話す。

「私は確かにブラック企業に勤めていましたが、この作品にはそこでの経験はあまり入っていません。ネームを考える際には、仕事や労働について調べています。どんなことが起こっているのか、ペンギンになにを言わすと良いか。でも、調べれば、調べるほどつらくなるんです。働かなくていいなら、働かないほうがいいな、と思ってしまいます。作品が本になったことはとても嬉しいのですが、個人的にはこういうコンテンツがウケなくていい社会が来てほしいものです」

「もう帰りたい」という悲鳴を描く

もうひとつの話題作はさわぐちけいすけ著の『僕たちはもう帰りたい』(ライツ社)。職場から帰りたくても帰れない人たちの葛藤を描いたリアリティ溢れる作品だ。著者のさわぐちさんは、ワーキングホリデーを活用し、オーストラリアでツアーガイドをやっていた時に漫画を投稿。この作品が話題になり、2017年に『妻は他人 だから二人はおもしろい』(KADOKAWA)として単行本化された。さまざまな感情が渦巻く夫婦関係だが、極めて冷静で客観的な視点から描く作風が高く評価され、今回、「身近な労働問題」を描くことになったという。さわぐちさんはこう話す。

「職場で発生する問題や多くの人が抱える悩みを、読み解きながら描いた作品です。いち漫画家のわたしが『 働き方の正解』を言えるわけではまったくないので、自分の感情はあえて捨てて、できるだけ客観的な視点でストーリーを描くことで、読者が自分の置かれている状況を可視化できるようにしました。悩みを描くだけでも、誰かの正しさを押し付けるのでもなく、あくまで考えるきっかけを提示したかったんです」

作品では、「おつきあい残業」「優先順位がわからない」など、さまざまな理由から「もう帰りたい人」たちが登場。同じような状況を経験したことがあれば、思わず首を縦に振ってしまうことだろう。最終話では、「もう帰りたい」と言える場所=今よりもいい場所すらも存在しない仕事人間の結末が描かれる。さわぐちさんは働くことについてこう考える。

「働き方には、『正解』がないので難しいですね。作品でも描きましたが、働く理由は人それぞれ。仕事そのものが人生だと考える人もいるし、働くことに楽しさを見出したい人もいます。あるいは、ただ、生活のために、あるいは、趣味などやりたい事に投資するお金のため、という人もいます。ただ、最近、働き方は多様化しています。少なくとも自分にあった働き方が見つかれば、それが一番いいことだと思いますよ」

「私も同じようなことを経験した!」という共感の声から「現実の職場を思い出すから読まなければよかった」というちょっとネガティブな声まで、多数の反響が寄せられている2作品。「働く」をキーワードにピンと来た人は、ぜひ手にとってほしい作品だ。

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(著者紹介)

とりのささみ。

20歳で漫画家を目指して上京。作品をネットに投稿し続け、20年目にして漫画家デビュー。2019年2月から『月刊コミックビーム』(KADOKAWA)でゆるかわ動物たちがシュールなギャクを展開する『N極物語』を連載開始。2019年3月に、単行本『テイコウペンギン』(小社刊)を上梓。twitterに投稿される作品も見逃せない。https://twitter.com/torinosashimi

 

さわぐちけいすけ

病院の事務職、派遣会社などで勤務後、ワーキングホリデーでオーストラリアへ。ケアンズのスーパーで購入したペンタブレットで描いた夫婦のエッセイがネットで話題となり、2017年11月に『妻は他人 だから夫婦は面白い』(KADOKAWA)でデビュー。続編のエッセイをその後2冊発表。2019年3月には『僕たちはもう帰りたい』(ライツ社)を上梓。https://twitter.com/tricolorebicol1

取材・文/油野崇

『テイコウペンギン』『僕たちはもう帰りたい』の順に試し読みができます

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