船橋発 遮断器を切断した板金工に課される罰金の「お値段」
ノコギリで切断し、運転ダイヤを大幅に混乱させたので
「車の中で、踏切が開くのを待っていた時のことです。向かい側の白い車から長髪の男がノコギリを持って出てきて、遮断機をギコギコと切り始めた。顔色一つ変えず淡々と切っていたので、最初は鉄道会社の人と勘違いしたほどです。男は、わずか3分ほどで遮断機を切断してしまった。その間、駅員さんが笛を鳴らしながら『危険だから(踏切内から)出てください』と叫ぶ声が聞こえました。男は奥さんらしき女性が待つ車に乗ると、何事もなかったかのように踏切を通過していったんです」(犯行を目撃した男性)
4月13日午前7時過ぎ、千葉県船橋市内の京成線船橋競馬場駅近くの踏切で「男がノコギリで遮断機を切断している」と通報があった。船橋署は現場で目撃された車のナンバーから容疑者を特定。同県市川市の自営業、中野勝徳容疑者(53)を器物損壊の疑いで逮捕した。事件当時、近くの谷津駅構内で人身事故があったため、踏切の遮断機は降りたままになっていた。中野容疑者は、「仕事で急いでいるのに、踏切で車が動かなくなり腹が立ってやった」と容疑を認めているという。
中野容疑者はいったいどういう人物なのか。同じ団地の住民が話す。
「板金工事の職人で、息子さんと娘さんが1人ずついます。団地の盆踊り大会で実行委員を務めるかたわら、自分でやぐらを組んだり、子供たちに太鼓の叩き方を教えたりしていました。普段は、あいさつするくらいで、基本的にはほとんど喋らない寡黙な人です。ただ、けっこう短気なところもあり、ちょっとしたことでスグにカッとなる。身の回りの物を壁に投げつけることもありました」
京成電鉄は約2時間後に遮断機を交換し復旧させたが、ダイヤは大幅に混乱。中野容疑者は、どのように責任を取ることになるのか。鉄道トラブルに詳しい篠田恵里香弁護士が解説する。
「刑事事件として器物損壊罪で処理されると思います。故意に行った損壊なので、懲役6ヵ月~12ヵ月、執行猶予3年ぐらいが妥当でしょう。さらに、京成電鉄から遮断機切断による列車の運行停止、遅延等の損害賠償を請求される可能性があります。京成電鉄船橋競馬場駅付近の駅には一日約20万人の利用者がいるというデータから、1万人に影響が出たと仮定。平均運賃を300円とします。そうすると、賠償額は少なくとも約300万円を超えることになるでしょう」
一歩間違えれば、遮断機のない踏切で通行人が電車にはねられていたかもしれない。取り返しのつかない惨事になっていた可能性もあるのだ。


『FRIDAY』2019年5月3日号より
写真:蓮尾真司(踏切、送検)