「ゴミ清掃員が本業」芸人・マシンガンズ滝沢に共感が集まる理由 | FRIDAYデジタル

「ゴミ清掃員が本業」芸人・マシンガンズ滝沢に共感が集まる理由

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売れないお笑い芸人が生活苦の果てに就職。その仕事は、収集車で街を回ってゴミを回収するゴミ清掃員だったーー。

日々、大量のゴミと対峙する現場で見聞きしたエピソードをSNSで発信するお笑い芸人「マシンガンズ」の滝沢秀一氏。誰もが知っていそうで実は知らなかったゴミ分別のトリビア、ゴミにまつわる悲喜こもごもの人情話などが「面白い!」「役に立つ」「感動した」と評判を呼び、ついには昨年、エッセイ集『このゴミは回収できません』を出版。現在は、SNSとウェブサイトで夫婦共作のエッセイマンガ『ゴミ清掃員の日常』を連載中だ。

漫画『ゴミ清掃員の日常』1〜3話を試し読み!

苦節20年、42歳にしてテレビやラジオ、イベントへのオファーも激増。芸人として、またゴミのスペシャリストとしてスポットを浴びる日々の心境を尋ねた。

ゴミ清掃が本業。お笑いは『草野球』

現場帰りのその表情は、実にスカッとしていた。「現場」とは、本業のゴミ収集のこと。本業? そう、お笑い芸人・滝沢秀一氏は、今やれっきとした清掃会社の社員なのである。

「そうですね。まあ、言ってみればもはやお笑いのほうは草野球みたいな感じです。『草お笑い』っていうのかな。ハハハ」

何とも力が抜けている。自身のツイッター上で「ごみ清掃員あるある」と題したつぶやきがバズって以降、本の出版、メディアやイベントへのオファーが相次ぐなど環境は一変。しかし、これらは「まったく狙ってなかった」ことなのだという。

「アルバイトでゴミ清掃をやっていたときは、バラエティー番組なんかで特技のひとつとしてゴミについてしゃべれたらいいな、というくらいの気持ちだったんです。これで世に出たいとかはまったく思ってなくて。

たまたまそのつぶやきのひとつを、有吉(弘行)さんがリツイートしてくれて……

本にすることももちろん考えていなかったんですが、出版社の方からDM(ダイレクトメッセージ)で、『出版の予定、ありますか?』みたいな感じで連絡が来たんです。今っぽいですよね、そういうの」

ライブにもさぞや人の入りが増えたのでは……と尋ねると、滝沢氏、笑って首を横に振った。

「いやー、それがぜんぜん。ゴミ清掃の話はまったく受けないですね。たぶん、お笑いのライブに来る人って、芸人に夢を託すようなところがあるんだと思うんです。それが『ゴミ清掃員やってます』『正式に働いてます』ってなると、夢も希望もないというか……。本の発売日にも、Amazonではすぐに売り切れたんですが、僕がライブ会場で手売りしたらぜんぜん売れませんでした(笑)。お笑いファンって、冷静ですよね」

関心を持ってもらえるのがうれしい

エッセイ本に続いてネット上でのコミック配信を開始。滝沢氏がストーリーを、妻である滝沢友紀さんが絵を手がけた『ゴミ清掃員の日常』は、現在話までがリリースされている。

ゴミ集積所のきれいな街は治安がいいこと、使い捨てカイロは中身が鉄粉なので「燃えないゴミ」であること、清掃員を傷つける危険のある焼き鳥などの長い串は、できれば箱に入れて出してほしいこと、等々。知っていそうで知らなかったゴミにまつわる知識が詰まったストーリーは、ときに万単位の「いいね」やリツイートを呼ぶ。

「清掃員として働いていたらわりと当たり前のことでも、やっぱり意外と知られてないことってあるんですよね。それにしても、お笑いでは、まずこんなに人に注目されることがないので、日々、驚いてます」

トリビアだけではない。不法投棄者との攻防戦、ときにモンスター化する市民との丁々発止、そして、ゴミ収集を生涯の生業にして若くして世を去った同僚の逸話など、滝沢のまなざしはゴミを捨てる人、街や世の中へも向けられる。ほんわかとした作風の中に、人間や社会への洞察が光ると評判だ。

「小説を書いたりもしているので、物語を考えるのは苦じゃないですね。20数年、ネタ作りもやってきたし、仕事で疲れてても書けます。でも、発信をするようになっていちばんよかったなと思うのは、『ゴミ出し、気をつけるようになったよ』と言ってくださる方が多いこと。もともと、回収をやりながら『こんなふうに分別してくれたらな』『こんな出し方はありがたい』と思っていたので。

あと、ゴミ清掃の車を見ると『滝沢が乗ってるんじゃないか?』と思って見てくれているだとか。気にかけてもらっているのは、やっぱりうれしい。これまでなかなかスポットが当たることがない業界だったので、会社の人たちも応援してくれています」

「一途」をやめたら、楽になった

コメントも、業界のスポークスマン然としている滝沢氏。しかし、もともとはお笑いでの立身出世を望んで芸人の世界に入った身。ゴミ清掃を本業にするに至るまでには、それ相応の懊悩もあった。

「もちろん、あるにはありましたよね。でも、僕の場合は、本当に生活に困っていたので……。就職して定収入を得られるようになってからは、どちらかというと『これでお笑いを続けられる。ラッキー!』という気持ちでした。本当だったら妻子を養うためにお笑いを辞めなきゃいけなかったのに、ゴミ清掃で稼げているから続けられているわけで」

食うや食わずで、家族を泣かせてでも道を極めるのが芸人たるものーーそれが美学とされた時代もあった。しかし目の前にいる滝沢氏は、もっとしなやかだ。

「もちろん、ひとつの職業をずっとやり遂げるのがいいことだと僕も教えられてきたし、芸人としてもそれが正しいと思ってきた。でも、そうじゃない生き方もあるんだよということで共感してくれる方は、やっぱりいますね」

個人的にも、「以前よりもお笑いを楽しめるようになった」と滝沢氏。かつて毒舌で鳴らした芸風からも、余分な肩の力が抜けた。

「もちろん、『この一言に賭けよう!』みたいな、切羽詰まった中でやったほうがいい場合もあるかもしれないけど、そんなプレッシャーの中で面白いことを言わないといけないっていうのは、やっぱ僕には向いてないんですよ。

今は『面白くなくてもしゃべっちゃえ!』という感じで、周りからも性格が明るくなったと言われてます。ライブで滑っても『いいや、明日、ゴミ収集に行けば』と思うし、逆にゴミ清掃のほうで嫌なことがあったら『これ、ライブでしゃべろうかな』と思いますね。

芸人仲間にも『俺もどっか、就職しようかな』と言い出しているヤツ、いますよ。『ゴミ清掃だったらいつでも相談に乗れるよ』って言ってるんですけど。フフフ」

GW、「平成ゴミ」は大量発生するのか?

3年以内に売れるように頑張れ。でないとお笑い芸人の顔じゃなくなるーー。これは、滝沢氏が実際に先輩清掃員に言われた言葉。だが、滝沢氏は清々しい表情で6年間、清掃員とお笑いを両立させている。自身がこの境地にたどり着けたのは、「年齢的なことも大きいと思う」と言う。

「何か夢があってゴミ清掃をしている同僚の若い子たちも、3年くらいやっていると、確かに、夢に対してがむしゃらな感じがなくなってくるんですよ。生活ができちゃうんで。でも、僕なんかは年齢的にぜんぜん問題ないし、むしろ兼業のほうが面白いんじゃないかと。

42まで頑張ってきて、今からネタで大ブレイク! っていうのももはや考えにくいし、これで売れなきゃ……と思うと苦しくなるじゃないですか。もちろん、夢を見てた頃はそれはそれで楽しかったですが、好きなことを仕事にするのは大変で、そのためにはやりたくないこともやらなきゃいけない。今なんて、お笑いのほうでやりたくない仕事が来ても、僕、断りますもん(笑)。楽になりましたねー。

もちろん、若手には最初からこっちを目指すことは勧めませんけど、こういうのもひとつの生き方なんじゃないのかな? と」

ひとりの大人として、家庭人として、夢と現実の折り合いをつけた滝沢氏。まもなく始まるゴールデンウィーク中も、「普通に仕事、あると思います」とのこと(もちろん本業)。そういえば、今年のゴールデンウィークといえば、10連休という長さが話題。こうした長期休暇中に出がちなゴミというのは、あるのだろうか?

「連休中に片付けをする人も多いので、明けのゴミは多いでしょうね。注意していただきたいのは、食品。僕がゴミ清掃をやってていちばん気になっているのが、実はフードロスの問題なんです。長い連休のあとには必ず、しなびた大根や丸のままのキャベツなんかが出たりする。たぶん、旅行に行く前に食べ切れなかったんでしょうね。だから、出かける前にはぜひ冷蔵庫の中のものをチェックして、ちゃんと食べていってほしいです。単純に、もったいないので。

フードロスっていうと、皆さん、コンビニで大量に捨てられるお弁当とか恵方巻きなんかをイメージされると思いますけど、実は45パーセントは家庭ゴミ。だから、皆さんが減らせば確実に減るんです」

ゴミ清掃員という「本業」を得たことで、家族を守りつつ好きなお笑いを続けられることを素直に喜ぶ滝沢氏。「ゴミには人間の中身がそのまま出る」ことを、軽やかかつ痛切に描く彼の漫画に共感が集まる理由が見えた気がする。

 

滝沢秀一 1976年東京生まれ。東京成徳大学人文学部卒業。98年に西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。2012年、ゴミ収集会社に就職。18年9月に『このゴミは収集できません』(白夜書房)を刊行。小説の執筆も手がけ、『かごめかごめ』(双葉社)を上梓している。

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『ゴミ清掃員の日常』1〜3話試し読み

  • 取材・文大谷道子撮影田中祐介

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