クルマ漫画の金字塔『頭文字D』が表現した臨場感とリアリティ

平成の名作漫画を振り返る

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

1995〜2013年にかけて『ヤングマガジン』で連載されたしげの秀一作の『頭文字D』(イニシャルディー)。通称「AE86(ハチロク)」と呼ばれる車を操る主人公・藤原拓海が、「我こそが峠最速」と自負する車乗りたちと速さを競い、バトルを繰り広げる物語だ。豪快なドリフトシーンやリアリティ溢れるデッドヒートは多くの読者の心をつかみ、クルマ漫画の金字塔となった。今回は、平成を代表する名作漫画『頭文字D』の魅力に迫った。

エコカーブームのいまだからこそ読みたいクルマの魅力溢れる作品

フィクションだけど非現実ではない『頭文字D』の魅力

主人公の乗る車「AE86」は、1983〜1987年にトヨタ自動車で作られた1.6Lのエンジンを積む後輪駆動の小型スポーツクーペ。正式な車名は「スプリンタートレノ」。グレードは最上級の「GT-APEX」だ。車検証に書かれた車両型式番号の「AE86」から別名の「ハチロク」、黒白のツートンカラーから「パンダトレノ」と呼ばれることもある。

作品が描かれはじめた頃、実はすでに一昔前の車となっていた「ハチロク」。設計も古く、パワーも劣り、時代遅れな車である。しかし、主人公の藤原拓海は、実家「藤原とうふ店」の豆腐配達を手伝い培ったドライビングテクニックで、意のままに車を操り、新しい設計で馬力もある車たちを次々と倒していく。

主人公が豆腐を運びながら腕を磨いた場所(作中には秋名山として登場)と噂される群馬県・榛名山の麓にある「レーシングカフェ ディーズガレージ」。ここでは、『頭文字D』の魅力に触れることができる。経営者の岡田誠さんは、「ハチロク」の魅力を次のように話す。

「今、素の状態の『ハチロク』を運転してみると、古い時代の車で頼りないです。でも、車が軽く感じられ、自分でコントロールしていることがよくわかります。乗っている人の腕が試される車、ドライバーを成長させる車と評されますが、その通りだな、と。主人公の藤原拓海は、バトルする峠の下り坂『ダウンヒル』で、簡単には負けません。いかなる強敵が来ても勝つ、という世界は、個人的にとても気持ち良く読める設定です。

でも、不思議なもので、現実離れは起こしていないんです。私は免許を取ってから、作品にも出てくるマツダのスポーツカー『RX-7』を乗り継ぎ、峠道も走ってきました。車をよく知る人が作品を見ても、ダウンヒルの『ハチロク』なら、あの結末が現実的にあり得ると思えるんです。あくまでもフィクションなのですが、非現実ではない。そこがおもしろいんです」

ディーズガレージには、作中に登場するカラーリングのハチロクが展示されている

世界も注目する『イニD』時代のクルマ

ストーリーに出てくる挑戦者たちが乗る車は、主に1980年代〜2000年代前半頃までに生産されたスポーツカーだ。マツダ「RX-7」、日産「スカイライン GT-R」、日産「シルビア」、ホンダ「シビック TYPE-R」、三菱「ランサーエボリューション」などなど、数え切れないほどのスポーツカーが登場。関東近郊の峠で夜な夜なバトルを繰り広げる。そんな時代のスポーツカーをレンタカーとして貸し出している「おもしろレンタカー」の斉藤隆文さんは、作品を駆け抜けた車たちについてこう話す。

「実は最近、訪日外国人がこの時代の車を借りに来ることが増えているんです。ガラパゴス化し、過当競争のなかで生まれたあの時代の車は、世界では類を見ないほどバリエーション豊かだったんだな、と、あらためて思いますね。日本の自動車メーカー各社が、他にはつくれない尖ったモデルを出そうと競争した結果です。

たとえば、日産『スカイラインGT-R』。積まれていたエンジンは、レースに出ることを前提とし、600馬力まで出せるよう開発されていたもの。それをデチューンして自主規制枠の280馬力におさえていました。だから、少しエンジンに手を入れると刺激的な世界が待っていたんです。逆に言えば、過激すぎて危ない、なんて車もね。

今は、時代や安全や環境の問題、あるいはグローバル化などいろいろな要素が車に求められるので、簡単に新しい車は作れないでしょう。でも、あの時代はバンバン作られた。だから、強烈な個性、強烈な乗り味のある車が多く、今でも色褪せないんだと思います」

『頭文字D』に教わった何事にも挑む姿勢

単なる移動手段で、人が乗れれば何でもいいように思われがちな車。しかし、作品を読んでいくうちに、登場する車が放つ強い個性や魅力、運転することの楽しさ、車を所有する喜びに気がつき、今までの車の見方が変わる人もいるだろう。

峠でのバトルを通じて主人公・藤原拓海が成長していくストーリーでもある

連載期間18年、全718話にわたる激しい峠バトルが描かれた車マンガの大作『頭文字D』。前出の岡田さんは、この作品が読者の心を掴む理由をこう話す。

「最大の魅力は作品を通して描かれる藤原拓海の絶対にあきらめない姿勢です。私は会社を経営していて、常々、感じますが、自分の可能性を否定してしまったら、前に進めません。せいぜい現実的に見える程度の所までしか行けません。このお店をつくったときもそうですが、『絶対無理だ』と思うことでも、まず挑まなければ、予想もしなかった展開が起きるわけがありません。藤原拓海の『ハチロク』が絶対に勝てるはずもない車たちに果敢に挑んで撃破してきたようにね。私はそんな挑む姿勢を『頭文字D』から教わったように思います」

『頭文字D』の遺伝子はいま、ヤングマガジンに連載されている『MFゴースト』に引き継がれている。しげの先生が描くのは、ふたたび公道を舞台とした車同士の戦い。ぜひこちら(コミックデイズにて1話無料公開中)からご覧ください。

『頭文字D』1巻の購入はこちら

『MFゴースト』1巻の購入はこちら

 

取材協力

「レーシングカフェ ディーズガレージ」

ツーリングで集える場所をと2016年にオープン。『頭文字D』の世界観を表現したカフェで、店内には、主人公・藤原拓海モデルの「AE86」、登場人物・高橋啓介モデルの「RX-7(FD)」も展示される。2019年5月18日には、オーナーの岡田誠さんが愛してやまないマツダのロータリーエンジンを詰んだ車が集結するイベント「榛名セブンデイ2019」を開催。http://dzgarage.com/

「おもしろレンタカー」

大学生時代には自動車部に所属し、ジムカーナに打ち込んでいた斉藤隆文さんがはじめたスポーツカー専門のレンタカー。藤原拓海の「AE86」や日産「スカイラインGT-R」、ホンダ「S2000」などを借りて運転すれば、『頭文字D』時代の雰囲気を感じ取ることができる。https://www.omoren.com/

  • 取材・文油野崇

Photo Gallary4

share icon記事をシェアする

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事