世帯年収1500万 ともにIT勤務理系夫婦のモノを買わない生活
世帯年収1400万円以上 新富裕層「パワーカップル」の衣食住レポート1
約56%の金融資産が 60 歳以上の高年齢層によって保有されていると言われる日本。若年層は働けど働けど生活が豊かにならないと不満の声が上がる中、株高などを追い風に「パワーカップル」と呼ばれる若い世代の“新富裕層”が台頭してきている。
「パワーカップル」とは、夫婦の年収がそれぞれ700万円以上、世帯年収1400万円を超えるカップルのこと。日本全体の平均年収が400万円台前半であることを考えると、二馬力とはいえ、かなりの高額所得者であることには変わりない。
そこで、高額消費の担い手と目されている本物の「パワーカップル」を取材。その実態をお届けする。
ともにIT企業に勤める新婚カップルの場合
最初に話を聞いたのは、夫婦それぞれがIT系企業に務めるパワーカップル。自宅はベッドタウンとして近年人気上昇中の神奈川県・川崎市エリアにある賃貸マンションで、駅から徒歩10分ほどのところにある(文中に登場する名前はすべて仮名)。
夫・智則(31):ベンチャー系IT企業勤務 年収800万円
妻・麻里(29):金融系IT企業勤務 年収700万円
交際のきっかけ:大学のゼミの先輩・後輩
住居:2LDKの賃貸マンション 家賃12万円
智則 「僕はベンチャー系IT企業で、AIに関する研究を行っています。データサイエンティストという職種で、データ分析やコンサルティングがメインの仕事になります」
麻里 「私は金融系IT企業で、システム開発などを行っています」
まさに今をときめく理系カップル。結婚して1年の“新婚さん”だが、8年の交際期間を経ているためか、どこか落ち着いた雰囲気の二人。周囲から「老夫婦みたい」と言われるカップルは、結婚式も非常に堅実なものだった。
智則 「二人でよく遊びに行っていた思い出の地、鎌倉の神社で式を上げて、家族で会食しました。かかった費用は100~110万円くらい。神社なので豪華な装花もないですし、会食も神社に併設された施設の中で行いました」
なかなか渋い……。奥様の希望はというと?
麻里 「白無垢を着たい、以上(笑)。でも花嫁行列で人目に晒されることは避けたくて。なるべく目立たない神社を選びました。結婚指輪もつけないから買っていません」
では新婚旅行にお金を使ったとか?
智則 「うーん、4泊5日でゆっくり過ごしました、青森で」
まさかの国内! 「令和」に元号が変わったにも関わらず、昭和の香りが……。では婚約指輪が高かったとか?
智則 「彼女はアクセサリーをあまり着けないので、最初は贈らない予定だったんです。でもゼミの後輩から、それはありえないと怒られて。それで急遽買いに行きました。万が一、僕に何かがあっても、これを売れば足しにはなるだろうし」
麻里 「なので普段は置きっぱなしです。あ、ちょっとホコリが……(笑)」
再び昭和な発言。もはや一周回って、それがイマドキなのかも知れない。とにかく派手好みでない二人は、家の中も非常にシンプルだ。
智則 「リビングは12畳あるんですが、完全に持て余していますよね(笑)」
麻里 「私がインテリアにこだわりがないので、居心地が良ければいいかなって。結婚式でもらった物や義理の母からもらったタペストリーを飾って……それくらいですかね」
ではなぜ2LDKを選んだ?
智則 「僕たち、別々に寝ているんですよ。一人一部屋持っていて。真夏は部屋にエアコンがないので、リビングにマットレスを敷いて寝ているんですが、それ以外は別々に寝ています」
麻里 「起きる時間も寝る時間もバラバラなので、そのほうがストレスないなって。彼は洋服、私は文具が好きなので、それぞれの収納場所も確保できますしね」
新婚なのにすでに家庭内別居状態だが、理系カップルらしい理に適った生活スタイルなので、お互いのストレス数値は低め。無理しないことが夫婦円満の秘訣なのかも知れない。
老後のことを考えて、貯金と投資はしっかりと
次に聞きたいのは、やはりお金のこと。どちらがどれだけ出して、どのように管理しているのだろうか。
智則 「家賃の12万円は僕が払って、生活費の10万円は麻里が払っています。それぞれがその金額を共有口座に入れる感じですね。僕がベンチャー企業に転職してから退職金制度がなくなってしまったし、さすがに貯金も始めないといけないと思って。僕が毎月12万円投資、15万円貯蓄、麻里が5万7000円投資、10万円貯蓄と割り振っています」
投資はNISAや投資信託をやっているそうで、何もわからなかった二人は本で勉強したそう。さすが理系夫婦、真面目だ。
そして残りの小遣いは、それぞれが干渉しないスタイル。
智則 「先ほどの額を引くと、僕が7万円で麻里が6万円ぐらい残るんですが、それがすべてお小遣い。使い方は自由です」
麻里 「私は絵を描くのが趣味なので、そのレッスン代と道具代、あと本と漫画が好きなので、それにほとんど使っていると思います」
智則 「僕はゲーム代かな。この間、貯蓄したお金で大きなディスプレイを買いました。そんなこんなでまだ100万円くらいしか貯まっていないんですが(苦笑)」
麻里 「私も同じくらい。でも会社の財形は新卒の頃からずっとやっているので、それなりに貯まっていると思います。ただ、どれくらい貯まったかは知らないんですよ、興味なくて」
収入が増えても生活水準を上げないのが大切
そんな二人に「パワーカップル」と言われることについて聞いてみた。
麻里 「正直、そんな実感はまるでないかも」
智則 「一応気をつけているのは、年収が上がっても生活水準を上げないこと。だから生活が変わってないといえば、変わっていないんですよ。その分、たくさん使うのではなく、たくさん貯めるようにしています。それに僕たちの生活スタイルだと、使うところがあまりないんです」
麻里 「国内外問わず旅行に行かないですし、大きな買い物もあまりすることないので。洋服もユニクロでトップス4パターン、ボトムス4パターン買って、古くなったら同じものを買って取り替えるパターン。それで十分です」
智則 「麻里は本当にお金を使うのが嫌いなんですよ。何なら投資もやりたくないくらい(笑)。とはいえ節税対策のためにもふるさと納税などでそれなりに使っていかないといけないので、それを研究しているところです」
いずれお子さんが生まれたときは?
麻里 「私の会社は育休・産休制度が充実しているので、それをしっかり使おうと思っています。学校は全部公立でいいかな。私が中高大一貫校だったので、入ったが最後、勉強しなくなるのは身をもって実感しているので(笑)」
智則 「いろいろ試させて、良いことも悪いことも見た上で好きなほうに決めてほしいですね。僕が和太鼓をやっていたので、音楽系の習い事はさせたいです」
二人はマンション購入も検討中で、貯金はそのためのものだそう。堅実な彼らのことだから、着実に貯金を増やし、身の丈に合ったマンションを手に入れる日も近そうだ。
智則 「友人からはよく、奥さんがお金にうるさいとか、逆に興味がなさすぎなどという話を聞きますが、麻里とは金銭感覚が似ているのが良いところ。家で過ごすのが好きなところも同じなのでありがたいですね」
今日日珍しいほど堅実な二人。最後になぜそうなったかを聞いてみた。
智則 「両親がとてもお金にきっちりした人なので、その影響は大きいと思います。『お金を稼ぐのは大変なことである』と教えられてきましたから」
麻里 「私は“2時間ドラマ”ですかね。大抵お金が原因でもめて、事件に発展しているじゃないですか。それでお金の大切さを学びました」
取材後、智則さんが記者とともに家を出たので見送りかと思いきや、「ちょっとタバコを吸いに。家で吸うと彼女が嫌がるかと思って」と苦笑い。自宅裏にある銭湯の喫煙所で煙をくゆらす彼の姿に、またまた昭和を感じたのだった……。
世の中が思い描く「パワーカップル」のイメージを気持ちが良いほど裏切ってくれたこのカップルの生き方、どう感じただろう? 次回は世帯年収2500万円の港区在住商社マンカップルが登場。彼らの金銭事情もお楽しみに。
- 取材・文:周防美佳
- 撮影:田中祐介