今季初スタメンへ ドレッドのフッカー堀江が「いい選手」なワケ

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いいラグビー選手って、どんな選手だろう。試合に負けながらもその答えを示したのが、4月26日の堀江翔太だった。身長180センチ、体重104キロ。妻の仕上げたドレッドヘアが目立つ33歳だ。

縁の下の力持ちと言われるフッカーという位置に入りながら、ラン、パス、キックと多彩なスキルを披露できる。何より2015年のワールドカップイングランド大会では、日本代表の副将として防御システムのマイナーチェンジに着手。さながらプレイングコーチといった立ち位置で、歴史的3勝を掴んだ。

昨秋に右足を疲労骨折も、2019年のワールドカップ日本大会に向け徐々に復調している。この夜は東京の秩父宮ラグビー場で、国際リーグ・スーパーラグビーの第11節に出場。日本のサンウルブズの一員として、ニュージーランドのハイランダーズに0―33とされたハーフタイム明けから登場していた。熟練の名匠のように、精巧な仕事を淡々とこなした。ここに、「いい選手とは」の答えが見え隠れした。

本人は柔らかい関西弁で、「あかんわぁって感じは、なかったんじゃないですか。…って、自分では思います」。むやみに自己評価をしたがらないのも、さながら昔気質の職人である。

「それ(自身への評価)がどうだったかを決めるのは、外の(自分以外の)人だと思いますけど」

守りで魅了したのは後半2分。相手のカウンターで自陣22メートルエリア左に入られると、堀江は中央への折り返しのアタックに反応。隣の味方に指示を出す仕草をしながら、鋭い出足で相手走者にクラッシュ。へばりつく。次の攻めが始まる前にはその場を離れ、向こうのパスが渡る右方向へ先回り。まもなく、再び接点に身体を入れる。

この後も身軽だった。今度は、味方防御の背後をするすると走る。逆側の左中間エリアに到達する。味方とともに接点上のボールに腕を絡め、ノット・リリース・ザ・ボール(倒れた選手がボールを手放さない反則)を誘ったのだった。

堀江は他の守備局面でも、前方を見ながら立ち位置を細かく移動させる。接点に首を突っ込むのは必要最小限に止め、その場に長くとどまらない意識も明らか。横幅約70メートルの区画を15人中10~13人程度で埋めるラグビーの防御において、得難き歯車だった。

戦前には「ワークレート(仕事量)を高くやっていきたい」と意気込んでもいた。がむしゃらに頑張るというより、本当に必要なことを休まず繰り返すというイメージだろう。皮膚感覚を明かした。

「前を見て、判断して、動く。自分が行く(立つべき)範囲があるんですけど、そのなかでどこにポジショニングするか。その判断の確度を上げたい。ボールがどこに来て、そのスピードがどれくらいかを判断して動かなあかん」

攻めては球を持ってタックラーに当たる際のボディバランスでも光ったが、それ以上に際立ったのはスイープと呼ばれるプレー。味方ランナーをサポートし、球に絡む敵を引きはがす動作だ。

サンウルブズは後半5分ごろ、ハイランダーズの反則連発に伴い敵陣22メートルライン付近へ侵入。右ラインアウトから左へ展開するなか、ひとつ目の接点から球をもらったのはアウトサイドセンターのジョシュ・ティム。球をさばくスクラムハーフの茂野海人がゴールラインと平行に近いパスを放るなか、右斜め前方へ駆け込みながら防御と衝突。味方の援護もあってすぐに球を出す。

すると今度は、堀江がティムと似た動きをより深い角度から遂行。背後で待っていたロックのトンプソン ルークは首尾よく球をもらい、タックラーを引きずる形で前進する。間もなく堀江がスイープに入り、相手のジャージィを掴んで身動きを封じる。

ここからは、再び茂野がさばいたパスコースへロックのマーク・アボットが鋭く走り込む。防御網を破る。最後はウイングのセミシ・マシレワが左タッチラインの外へ出されたため得点は奪えなかったが、堀江の下働きは2回続けて味方の快走を生んだ。

実は前半のサンウルブズは、スイープが遅れることでノット・リリース・ザ・ボールを連発。せっかくの攻撃権を明け渡すことで、ワンサイドゲームを招いていた。そこで堀江は「スイープは意識した」とする。何より、それ以前の領域にも手を付けた。

もともと定まっていた攻撃中の各選手の立ち位置を再確認し、ランナーが孤立するリスクを最小化したのだ。

時折この人は派手なプレーを繰り出すが、その根っこには確かな戦術眼がある。好スイープが光った一連の攻めにおいても、各選手の意思統一がなされていたのだろう。試合後の堀江の言葉に、この人のラグビーへの造詣の深さをにじませた。

「ちゃんとした僕らのシェイプ(陣形)でやれば、ああ(流れのよかった時のように)できる。前半はそれがどこかで崩れていた。誰かが自分の仕事を間違っていたのか…。後半は、その辺の指示を出しながらやりました。(接点での)枚数を保ちながらボールをキープできるように、と。本当なら(全員が)自分で考えてやることなんですけど、(今日は)指示を出しました」

結局は0―52で屈した。後半の失点のきっかけは終始不安定だったスクラム、味方のエラー、向こうのペナルティーキックからの速攻だった。スクラムはフォワードの選手が8対8で組み合う攻防の起点で、堀江は先頭中央に入ってコントロールする役目を担う。しかしこの夜スクラムで苦しんだわけは、別の領域に潜んでいる。

日本代表とサンウルブズは主要戦術を共有しながら、スクラムではそれぞれ異なるアプローチを採用している。日本代表では2016年秋に就任した長谷川慎スクラムコーチにより、低い姿勢の組み手が一体化した形を実現。ところが今季のサンウルブズはニュージーランド出身のマーティ・ヴィール氏をスクラムコーチに迎えているのだが、堀江曰く「こっち(サンウルブズ)のやっていることの色がまだわからない。もっと僕が勉強せなあかん」とのことだ。チーム内で定めた組み方の徹底がスクラムの成否を分けるとされるなか、根本的な統一見解の策定に苦しんでいる様子だ。

「慎さんのやり方で組めば(感触はいい)。だからどうするか、ですよね。慎さんのやり方で(サンウルブズも)合わせるのか…。それがチームとしていいかどうか…」

いずれにせよ確かだったのは、この夜は堀江の出現後にサンウルブズが引き締まったことだ。5月3日、ブリスベンのサンコープ・スタジアムでレッズとの第12節がある。堀江は全ての現実をひっくるめ、1人の途中合流選手として前を見た。

「自分の仕事をしっかりとやりながら、ラグビーをしていきたいなと。リーダーは、他にもいるんで」

競技の構造と現場の状況を深く理解したうえで、頭脳と肉体をフル稼働させられる。だから堀江は、いいラグビー選手と言われるのだ。

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

  • 写真森田直樹/アフロスポーツ

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