サンウルブズとウルフパック 2つのチームで挑む代表強化の方向性 | FRIDAYデジタル

サンウルブズとウルフパック 2つのチームで挑む代表強化の方向性

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ウルフパックのメンバーとして試合に挑む稲垣啓太は「自分たちのやるべきことをしっかりやる」と語る
ウルフパックのメンバーとして試合に挑む稲垣啓太は「自分たちのやるべきことをしっかりやる」と語る

ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ率いるラグビー日本代表は、いま、約60名いる主要な候補選手を、サンウルブズとウルフパックというふたつのチームに振り分けて強化している。ワールドカップ日本大会の開幕を今年9月に控え、6月には35~40名程度にメンバーを絞り込む見込みだ。各自は置かれた立場を受け入れながら、プレーの質向上に努めている。

選手の大半は、2018年12月時点の序列をもとにラグビーワールドカップトレーニングスコッド(RWCTS)、もしくはナショナル・デベロップメント・スコッド(NDS)と定義付けられてもいる。一方でサンウルブズ組とウルフパック組との間に「どちらにいれば選考に有利か」といった傾向はなさそう。両軍間での人的交流は、ジョセフの意向のもと突発的に発生している。

NDSのナンバーエイトに登録された松橋周平は、1月からサンウルブズに加わり、3月下旬にはウルフパックのツアーへ帯同。4月下旬には再びサンウルブズへ入り、5月中旬からはまたもやウルフパックへ移動した。心境をこう明かす。

「まぁ、(指示があればそちらへ)行きます、みたいな感じです。(指示の)意図は気になりますけど、気にしてもしょうがない。(決定者の)評価は変えられないし、変えられるのは自分自身のグラウンドでのパフォーマンスだけ。そこに、集中します」

改めて各チームについて説明したい。まずサンウルブズは、国際リーグのスーパーラグビーを舞台に戦う日本のチーム。今季は日本代表アタックコーチのトニー・ブラウンがヘッドコーチを務める。

日本代表入りの資格を持たない外国人を軸に上位進出を目指すなか、RWCTSやNDSのメンバーも相次ぎ加わった。1月のプレシーズンキャンプからシーズン序盤は、前年度の国際試合への出場数の少ないメンバーがずらり。4月下旬にはスタンドオフの田村優ら代表の主力候補が、もともとサンウルブズにいたRWCTS組もしくはNDS組と入れ替わって合流した。

かたやウルフパックは、2月上旬からのRWCTSキャンプへの参加者が中心となった特別編成チーム。ジョセフの指揮のもと、3月中旬からスーパーラグビークラブの控え組などと対外試合を実施している。「ボール・イン・プレー(球が動く時間)を増やしたアンストラクチャー(セットプレーを介さない)のラグビーをするなか、1人ひとりの役割を機能させる。自分たちの形のレベルアップに繋げる試合をしようと話しています」とは、サンウルブズからウルフパックに移ったスタンドオフの松田力也の弁である。

ジョセフは4月中旬、故障療養中であるフランカーのリーチ マイケル、プロップの具智元の名を挙げて言った。

「リーチ、具も、怪我をしていなければいま頃サンウルブズでプレーしています。ふたつのチームを回すことで、多くの選手に高いレベルのラグビーを経験させられる。(この方式に)デメリットは感じていません」

サンウルブズとウルフパックの関係性をひもとくのは、ウルフパックでフランカーを務める布巻峻介だ。

「いまは(自分は)ウルフパックのことしか考えていませんし、サンウルブズの選手もサンウルブズのことだけを考えていると思います。ただ、(それぞれの試合に)応援に来ていますし、繋がっているところはある。そこまで難しさについては考えていないです。する準備は(どちらに行っても)変わらないので」

両軍の基本戦術はほぼ同じだが、スクラムの形やいくつかのサインプレーで違いがある様子。サンウルブズはここまで2勝9敗で、特に新しいコーチの教えるスクラムでは試行錯誤が続く。

ここまで3勝1敗のウルフパックでは、防御が課題となっている。4月27日、東京・秩父宮ラグビー場でウェスタン・フォースに51―38と勝利も、後半は攻守逆転後の防御網が乱れて連続失点した。数的優位を作られるなか、鋭く前に出て、結局その背後を突かれた。

昨年まで所属していたジョン・ブラムツリーディフェンスコーチは、現在、ハリケーンズのヘッドコーチをしているため日本にコミットしていない。しかし、責任の所在を他者に求めようとしないのが最近の選手の傾向だ。前回のワールドカップを経験し、今年は練習生の立場からウルフパックへ昇格した立川理道は、「ジェイミー、堀川(隆延アシスタントコーチ)さんがしっかりとレビューしてくれているので、その辺の問題はないと思います」と話す。ウェスタン・フォース戦で途中出場後、あくまで自身の反省点として次のように語った。

「相手も僕たちのディフェンスシステムを理解し、アタックの仕方を変えてきた。それに対応できずにトライを取られた部分もある。そこはしっかりレビューしたいです」

2015年のイングランド大会では、エディー・ジョーンズ前ヘッドコーチの緻密な準備が奏功して歴史的3勝を挙げる。以後は統括する日本ラグビー協会が代表強化を「協会主導で」と宣言も、ふたを開ければ2016年秋就任のジョセフが試行錯誤を繰り返すこととなり、いま、「選手層を厚くしなければいけない」と目下の計画を遂行している状況だ。

サンウルブズとウルフパックは5月12日、オーストラリアはキャンベラのGIOスタジアムでそれぞれブランビーズ、ブランビーズBと対戦。ウルフパックからサンウルブズに入ったばかりのフッカー堀江翔太は、「まず、サンウルブズがこれまでやって来たことにしっかり合わせなければならない」と話す。

また、ブランビーズBと対戦するウルフパックの左プロップ稲垣啓太は、「ウルフパックもより強度の高いゲームがしたいのでは?」との問いにこう答える。

「僕らは試合の相手は選べない。上の判断を信じ、自分たちのやるべきことをしっかりやる。オーストラリアでもしっかりと結果を出し、もっとディテールにもこだわっていきたいですね」

ワールドカップ成功という大目標を見据えながら、目の前のゲームというタスクと真摯に向き合う。船頭の意思決定に注目されたい。

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

  • 写真西村尚己/アフロスポーツ

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