消費税アップ前 「住宅」の駆け込み購入で得する人、損する人
諸費税率アップまで、あと5ヵ月。前回、2014年の増税時には住宅、車、家電などの駆け込み需要があったが、今回もやはり家やマンションは消費税率が上がる前に買ったほうがいいのだろうか。また、増税後の対策として予定されている軽減税措置は、増税率2%をカバーできるほどのインパクトはあるのか? ファイナンシャルプランナーの大石泉氏に聞いてみた。
9月末までに“引き渡し”が終われば、消費税は8%
10月1日から10%になる消費税率。住宅はどのタイミングで10%の消費税がかかるようになるのだろうか。
「9月末までに“引き渡し”が終われば消費税は8%です」(大石泉さん 以下同)
“引き渡し”とは、住宅が出来上がり、鍵を購入者へ渡し、所有も利用も購入者が自由にできる状態のこと。
「所有権が名実ともに移転すると考えられているタイミングです。引き渡し後、いつ引っ越しするかは、関係ありません」
現在すでに完成しているマンションや建売住宅は、9月末までに売買契約を済ませ、引き渡しが完了すれば、当然消費税は8%になる。
気をつけたいのは、建築途中のマンションや住宅だ。
「広告等で『9月中旬入居可』と表示がある物件も、天候等予期せぬ事態で工期が延び、“引き渡し”が10月になると消費税率が10%になります。入居予定日が増税前ギリギリの物件の契約には注意が必要。できれば余裕をもって選びたいものです」
リフォームの場合も消費税率アップの条件は同じだ。短期間の工期で済むと思われる簡単なリフォームでも、増税前の駆け込み需要による人手や、資材不足が予測されているので気をつけたい。
「土地」や「中古住宅・中古マンション」は10月以降も“非課税”
そもそも「土地」は非課税なので、新築の建売住宅や新築マンションで増税の影響を受けるのは建物部分の価格。販売価格のうち、建物価格がいくらなのかは、業者に聞けば教えてくれるので、増税後の購入も視野に入れて考えるためにも確認しておこう。
「中古住宅・中古マンションの取引では、“売り主が個人(※1)”で、“不動産会社に仲介”を頼んで売ることが大半です。消費税は課税対象者にかかるため、個人が売り主であれば、消費税は建物、土地代ともに非課税となります。
ただ、リフォーム工事を済ませ販売している中古住宅やマンションは、業者が一度物件を買い取っている場合が多いので要注意です。“売り主が業者”であれば、建物部分に消費税が課税されます」
最初から中古住宅・中古マンションに絞って物件を狙う場合は、消費増税をあまり意識しなくてもいいことになる。
注意したい点は、仲介手数料は消費税の課税対象になるということ。仲介手数料の計算方法を下記にまとめたので、参考にしたい。

場合によっては、10月以降のほうがメリットあり!? 増税後の「減税措置」とは?
次に、増税後に不動産を購入した場合の「軽減税措置」をみてみよう。現在、増税負担の軽減対策として予定されているのは下記の3つだ。
①「住宅ローン減税」の延長
「住宅ローン減税」とは、住宅取得のために金融機関等で組んだ住宅ローンが、諸条件【表1-1】を満たすと、毎年末の残高(新築等は最大4000万円、中古住宅等は最大2000万円)の1%が所得税の額から(控除しきれない場合は住民税から)控除されるもの。この減税策が3年間延長される【表1-2】。
②すまい給付金
2021年12月まで実施される制度。収入額の目安が775万円以下で一定要件満たす人【表2】が、最大50万円の給付を受け取れる制度(現行の、「収入額の目安が510万円以下で、最大30万円の給付」からの変更)。
③次世代住宅ポイント制度
増税後に耐震性や断熱性など、一定の性能を有する住宅の新築やリフォームに対して、さまざまな商品等と交換できるポイントを発行する制度。

増税後のほうが“お得”になる制度もある
消費税率引き上げ後に「住宅取得等資金贈与の特例」の非課税枠の拡大がすでに決定している。住宅取得等資金であれば、両親や祖父母からの資金贈与に贈与税がかからない非課税枠が、省エネ住宅等の購入で最大1200万円から、最大3000万円までに変更された(契約締結期限が2020年3月までなど、各種要件がある)。
「試算するときは、必ず“自分の数字”考えることをおすすめします。所得のある配偶者がいる場合は、共有名義での購入も検討してもいいでしょう。それぞれが住宅ローンを借り入れたほうが有利な場合があります」
消費税のことばかり考えると、失敗することも
「不動産は“個別性が高い”ため、消費税というファクターは最優先ではありません。まずは、“購入する必要性”を検証してみてください。今すぐに必要ならば、時期を優先。住みたいエリアが決まっているならば、まずはエリアで探すことです。
同時に、予算計画(家計収支からの予算計画)は進めておきたい。増税に対しては、様々な対応がなされていますが、住宅ローンを利用して購入する場合の最大の敵は“借り過ぎ”です。『いくらまでなら大丈夫』という我が家の“予算の器”がわかれば物件選択もスムーズに進むでしょう。
おおよその候補・条件が絞られてから、『消費税の前か後かどちらがよいか』を考えるべきです」
「増税」と聞くと浮足立って、つい「金利も低いから、消費税増税前に」などと考えがちだが、まず優先すべきは“今の自分の条件”と“将来の自分の条件”だ。
「不動産の“買い時”は、“住みたい場所に住みたい住宅”があって、“資金計画が成り立つ”タイミングだと私は考えています。需要なのは『消費税』ではなく、10年、20年、30年と、自分の人生を長期視点でとらえたプランニングです。それから、今購入したほうがよいのか、3年後が良いのか、考えて欲しいものです。
『誰にでも共通して有利なテッパンプランは存在しない』という前提に立つことが需要ですね」
※1_“売り主が個人”であっても、不動産賃貸で利益を上げる個人事業主で、賃貸しつつ家賃収入を得ていた中古マンションを購入する場合は、消費税がかかる。
大石泉 株式会社リクルートに約15年勤務ののち、個人のファイナンシャルプランニングの必要性を感じて2000年に独立。個人の豊かな暮らしと夢の実現を「住まい・キャリア・マネー」の3つの柱でサポートする。株式会社NIE.Eカレッジ代表取締役、一般社団法人夢の実現サポーター理事。近著に「入社前から先取り! 日経新聞の読み方・活かし方」(すばる舎)
取材・文:中川いづみ写真:アフロ