平成が生んだ5人のアニメ監督たち 平成アニメ20選~監督編~ | FRIDAYデジタル

平成が生んだ5人のアニメ監督たち 平成アニメ20選~監督編~

平成ベストアニメ20③〔クリエーター的ベスト5〕 アニメ・ジャーナリスト数土直志が厳選!

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平成を代表するアニメ監督は誰だろうか?

スタジオジブリの宮崎駿、高畑勲の両監督、ガンダムの富野由悠季、エヴァンゲリオンの庵野秀明といった名前を挙げる人も多いだろう。数々の大ヒット作を生み出した監督たちだ。
ただ、こうした大監督の活躍は昭和から平成にまたがっている。それに平成に傑作アニメを世に送りだした担い手は、まだまだ多い。
ここでは平成の時代が生みだした監督にこだわって、その代表作を5作品ピックアップしてみたい。「社会現象編」「ビジネスモデル編」と来た「平成アニメ20選」の第3回は、平成が生みだした5人の監督と作品だ。※次回は第4回(最終回):技術編。

〔社会現象編〕「セーラームーン」「エヴァンゲリオン」「千と千尋の神隠し」「時をかける少女」「涼宮ハルヒの憂鬱」 を読む

〔ビジネスモデル編〕「ジャイアントロボ」「NARUTO」「ハチミツとクローバー」「空の境界」「DEVILMAN crybaby」 を読む

『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』 (平成11年) 
[幾原邦彦]

平成が生み出した最大の異端のアニメ監督は、幾原邦彦(いくはら くにひこ)でないだろうか。その名前は知らなくとも『美少女戦士セーラームーン』のシリーズディレクターの一人と言えば分かりやすいかもしれない。しかし幾原邦彦の代表作は、『セーラームーン』というよりも平成9年からTV放送を開始した『少女革命ウテナ』だろう。
鳳学園に転校してきた男装の少女・ウテナは、「世界を革命する力」を手に入れるための「薔薇の花嫁」こと姫宮アンシーを争奪する争いに巻き込まれていく……。
同じ少女漫画の雰囲気を残しながらも、その作風は全く異なる。映像はスタイリッシュで、ストーリーはシンボルや隠喩に満ち、一体何が起きているのか分からない展開。作品に満ち溢れた謎の多くは最後まで解かれることはない。
平成11年の劇場版『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』では、そうした特徴はさらに進む。真っ直ぐなストーリーの進行は捨てられ、非合理性で埋め尽くされる。まるでアニメのアバンギャルドだ。これによって本作は歴史に残る傑作として記憶されることになった。

幾原は本作発表後、12年の長期にわたりアニメの監督業からは遠ざかる。復帰第1作は平成23年の『輪るピングドラム』、さらに平成27年の『ユリ熊嵐』、平成31年4月からは令和をブリッジするかたちで『さらざんまい』の監督をする。
いずれも『少女革命ウテナ』と同様、一般的な合理性は破棄され、解かれない謎で満ち溢れる。令和の時代でも幾原は異端であり続ける。

『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』 (平成13年)[原恵一]

(c)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2001『映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』DVD発売中/発売元:シンエイ動画/販売元:バンダイナムコアーツ
(c)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2001『映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』DVD発売中/発売元:シンエイ動画/販売元:バンダイナムコアーツ

平成13年の『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』は、公開当時大きな話題を呼んだ。子どもと一緒に劇場を訪れた親のほうが号泣したからだ。高度成長期へのオマージュに満ちた展開が、「クレヨンしんちゃん」の枠組みを打ち破った。
『モーレツ!オトナ帝国の逆襲』は監督した原恵一(はら けいいち)の出世作であり、転換点ともなった。「アニメを作るのに子どもも大人も関係ない」、原恵一はそう説明する。
翌平成14年に続いた『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』は、文化庁メディア芸術祭の大賞を受賞。それまでPTAの子どもにみせたくない番組1位だった「クレヨンしんちゃん」の見方をひっくり返す。

原恵一はその後『河童のクゥと夏休み』『カラフル』『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』、それに実写映画の『はじまりのみち』まで、作品のテーマや表現方法も自在に変化する。そして国内外で次々に大きな映画賞に輝き、日本を代表するアニメ監督となっていく。
平成の終りが迫る4月26日には最新作で王道ファンタジーの『バースデー・ワンダーランド』が公開された。原恵一の変化自在は、令和でも続きそうだ。

『千年女優』 (平成14年) [今 敏]

(C)2001 千年女優製作委員会
(C)2001 千年女優製作委員会
(C)2001 千年女優製作委員会
(C)2001 千年女優製作委員会

平成10年の『パーフェクトブルー』で監督デビュー、そして平成22年に病で倒れ世を去るまで、平成を全力疾走した名監督が今敏(こん さとし)である。
アニメ監督としての活動期間は12年、発表作品も長編映画は『パーフェクトブルー』から『千年女優』『東京ゴッドファーザーズ』『パプリカ』まで4本、TVシリーズは『妄想代理人』のみと数少ない。
しかしそのわずかな作品が監督亡き後も、世界のクリエイターに影響を与え続ける。いまでも賞賛する声は止まず、世界中のメディアが歴史に残る映画、アニメーションにその作品を挙げる。

代表作を選ぶのは困難だ。いずれも見事な完成度、どの作品もベストとする推す人がいる。しかしここでは、今敏の得意とした「過去と未来」、「現実と虚構」を境目なくつなぐ映像と演出を存分に発揮した平成14年の『千年女優』を挙げたい。伝説の大女優・藤原千代子を追ううちに、時代を超え、映画のなかに入り込む87分に及ぶ華麗な走馬灯だ。

亡くなる直前まで制作を続けながら未完成に終わった『夢みる機械』も含めて、もし存命なら世界を代表する映画監督になったことは間違いない。今敏の死は最も悔やまれる平成の出来事でもあった。

『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』 (平成14年)
[神山健治]

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会
(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会

近未来を舞台に犯罪者に立ち向かう捜査チーム。そうしたアニメをしばしば見かける。それらの作品は多かれ少なかれ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(S.A.C.)の影響を受けている。本作の監督を務めた神山健治(かみやま けんじ)は、アニメのスタイルのひとつを作り上げた。
平成14年からスタートした『攻殻機動隊 S.A.C.』は、士郎正宗のヒット作であるサイバーパンクSFマンガ『攻殻機動隊』をアニメ化している。科学技術が発達した近未来、内務省直属の組織である公安9課の活躍を描く。

平成7年には押井守が監督する劇場『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』も制作されたが、神山健治の違いは、原作の持ち味に「劇場型犯罪」「高齢化社会」といったリアルな社会問題や日常描写を積み重ねたことだ。『攻殻機動隊 S.A.C.』は神山の代表作となり、同時にアニメ界の注目の監督とした。
こうした特徴は平成21年の『東のエデン』のAIや、平成29年『ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜』では自動運転車などにも引継がれている。神山健治の持ち味「アニメにいかに現実を取り入れるか」。その出発点が、『攻殻機動隊 S.A.C.』である。

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Blu-ray Disc BOX:SPECIAL EDITION 特装限定版 発売・販売元:バンダイナムコアーツ (C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会
攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Blu-ray Disc BOX:SPECIAL EDITION 特装限定版 発売・販売元:バンダイナムコアーツ (C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会

『APPLESEED』 (平成16年)[荒牧伸志]

ぱっと見には実写映画。しかし実際には映像の全てはアニメーションである。平成16年にCGとモーションキャプチャーを駆使したSFアニメ『APPLESEED』が世に登場した。平成後半どんどんメジャーになるCGアニメの先駆作だ。
技術的な見どころも多いが、もうひとつ注目すべきはエンタテイナーに徹する監督の荒牧伸志(あらまき しんじ)だ。荒牧伸志のキャリアは長く、そして多彩だ。メカニックデザインとして昭和のキャリアをスタートさせ、『機甲創世記モスピーダ』『メガゾーン23』などの代表作がある。

劇場映画は『APPLESEED』がデビュー作、以降『EX MACHINA』『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』『キャプテンハーロック -SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK-』などCGにこだわった作品を多く手がける。
『機動戦士ガンダム』の富野由悠季が、映画祭のアワードなどから縁遠いのと同様に荒牧伸志もそうした場とは無縁だ。それは作品もファンが求めるものに忠実で、派手なアクションに、ワクワクするメカニック、未来空間と商業サイドのサービスが盛りだくさんなためでもある。
一方で海外での評価が極めて高い監督でもある。平成の最後、31年4月にNETFLIXで配信がスタートした神山健治との共同監督『ULTRAMAN』は、そうした成果の延長線上にある。

平成にこだわってセレクトした5人の監督。みなさんがこの人! と思われたクリエーターはいただろうか? あるいは「この監督ならこちらの作品」、「この作品を作ったこの監督こそ凄い」、と感じた人もあるかもしれない。
本稿をきっかけに、あなただけの平成アニメセレクトを考えてみるのも楽しいかもしれない。

〔社会現象編〕「セーラームーン」「エヴァンゲリオン」「千と千尋の神隠し」「時をかける少女」「涼宮ハルヒの憂鬱」 を読む

〔ビジネスモデル編〕「ジャイアントロボ」「NARUTO」「ハチミツとクローバー」「空の境界」「DEVILMAN crybaby」 を読む

  • 数土直志

    (すどただし)アニメジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

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