現代に蘇った「縄文タトゥー」の神秘的な文様

「クレイジージャーニー」出演のケロッピー前田が取り組む『縄文族 JOMON TRIBE』とは

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「縄文人はタトゥーを入れていた」と根強く言われる理由

「男子無大小 皆黥面文身」

中国の歴史書に初めて日本が登場する『魏志倭人伝』に、上の一節がある。書き下すと「男子は大小無く、皆、黥面文身す」。ここに書かれている「鯨面」とは顔面のタトゥー、「文身」は身体のタトゥーを意味する。時代区分の上では弥生時代に当たる3世紀、全身にタトゥーを入れる風習がこの国には存在した。これこそ「縄文人はタトゥーを入れていた」と考える研究者たちの強い論拠になっている。

「少なくとも弥生時代にタトゥーの風習が日本に存在し、中国人から驚嘆の目で見られていた、ということでしょう。このグループは、まだ一定の勢力を持っていた縄文人集団だったと考えることもできますし、弥生系の集団が日本に進出する中で、縄文の風習を取り入れたと考えることもできる。彼らが一体どんなタトゥーを入れていたのか、現代人の身体に彫り込むことで縄文人の世界観に迫ろうというのが僕らの取り組みです」(ケロッピー前田氏)

縄文タトゥー/縄文族 JOMON TRIBE

こう語るのは、『クレイジージャーニー』(TBS)の出演などで知られる身体改造ジャーナリスト・ケロッピー前田氏。そのケロッピー氏とタトゥーアーティストの大島托氏によるアート・プロジェクト「縄文族 JOMON TRIBE」は、2015年に発足した。

活動内容は、大島氏がデザインを決め現代人の身体に彫り、ケロッピー氏が撮影して写真作品に仕上げ、展覧会で発表するというもの。この活動の源泉にあるのは「現代人の身体に縄文タトゥーを復興する」という明確なコンセプトだ。さらに2人は縄文遺跡や遺物をリサーチすることで、そのコンセプトに磨きをかけてきた。

2016年、阿佐ヶ谷「TAV GALLERY」での初めての展覧会を経て、2017年にはドイツ・フランクフルトの美術大学「HfG」で展覧会を開催、同時期に国際美術展ドクメンタが行われたカッセル市内でもサテライト展示を行った。

縄文人がどんなタトゥーを入れていたか、今までのアカデミックな研究だけでは、その実体は確かめようもなかった。だが、具体的なアート作品に落とし込んだことで、その野心的な試みだけなく、作品としても高いデザイン性が評価され、海外メディアで大きな反響を呼んだ。

縄文タトゥー/縄文族 JOMON TRIBE

僕らが歴史の空白を埋めなきゃ

タトゥー専門誌『TATTOO BURST(タトゥー・バースト)』(コアマガジン、2013年休刊)で、ライター活動をしていたケロッピー氏が、最終号で取材したのが大島氏。それがこのプロジェクトの発端となった。

(大島)托さんは、『ブラックワーク』と呼ばれる黒一色のタトゥーのスペシャリスト。原始的なタトゥーの技法や文様に強い関心を持っていて、最後まで首狩りの風習が残っていた『ナガ族』など、プリミティブな生活を続ける世界中の部族に会いにいって、文様を研究、自分の作品に昇華させるという活動をしています。言ってみれば文化人類学的なアプローチを取る方なんです。

その托さんから、海外のタトゥー研究家に『お前の国には縄文時代からタトゥーがあるのに、なぜそれを研究しないんだ』とよく言われる、という話を伺いましてね。海外を中心にタトゥーのルーツを追いかけてきた僕もハッとさせられました。

托さんを取材した後の2015年、フランス・パリのケ・ブランリ美術館で過去最大規模のタトゥーの展覧会が開催されました。タトゥーを通じて、人類史を総覧するという野心的な展覧会です。日本は江戸時代に始まる伝統刺青の文化があり、浮世絵を含め、膨大な資料が展示されていたのですが、縄文時代については『タトゥーがあった』ということだけ書かれていて、具体的な資料に乏しい。『僕らがその空白を埋めなきゃ』と、帰国直後に托さんに声をかけ『縄文族 JOMON TRIBE』を立ち上げました」(ケロッピー前田氏)

縄文タトゥー/縄文族 JOMON TRIBE
縄文タトゥー/縄文族 JOMON TRIBE

縄文タトゥーの文様は「再生」を象徴している

『縄文人はタトゥーを入れていたのか』という話はアカデミックの世界でも、以前より議論されてきた。1969年に考古学者の高山純氏が著した、そのものズバリのタイトル『縄文人の入墨―古代の習俗を探る』では、土偶の文様はタトゥーを表現しているのではないか、と書かれていた。

「北海道のリサーチでお会いした元北海道考古学会会長の大島直行先生は、縄文土器に見られる特有の文様は『蛇(へび)』だと主張されています。脱皮を繰り返す蛇は、『再生』を象徴する動物。『再生』というキーワードで縄文人の世界観を読み解く大島先生の考え方は、僕らの活動の理論的な支柱になっています」(ケロッピー前田氏)

縄文タトゥー/縄文族 JOMON TRIBE
縄文タトゥー/縄文族 JOMON TRIBE

『縄文族 JOMON TRIBE』のタトゥーは、高山氏が主張したように、単に土偶の文様を模したものではない。

「デザインに関しても、北海道の縄文遺跡にリサーチに行った経験が役立っています。言ってしまえば、国宝クラスの土偶や土器は東京の博物館で見ることができる。でも、そういったものをモチーフに縄文タトゥーを再現したとしても、縄文人の気持ちや世界観に到達できないと考えたんです。そこで現地に出向き、当時の縄文人たちが使っていたであろう道具などに触れたことで、独特の曲線デザインが通底していることを実感できた。大島先生の主張する縄文人の再生のシンボル、そういうエッセンスは托さんのデザインにも大いに反映されています」(ケロッピー前田氏)

縄文タトゥー/縄文族 JOMON TRIBE

そんなに古い時代からタトゥー技術があったのだろうかと疑う人もいるかもしれないが、黒インクは火を使用する際に生じた燃えかす(炭)から、針は金属がなくても、動物の骨から作ることも可能だ。

2016年、阿佐ヶ谷「TAV GALLERY」で開催された初めての展覧会では、プロジェクトに賛同するモデル20人(うち女性が4名)の身体に彫り込んだ『縄文タトゥー』が披露された。

2016年、阿佐ヶ谷「TAV GALLERY」での初展覧会「縄文族 JOMON TRIBE」
2017年、ドイツ・フランクフルトの美術大学「HfG」での展覧会にて。ケロッピー前田氏(右から二人目)と大島托氏(右端)。

『自分は何者か』を示すのがタトゥー

冒頭で紹介したように、自ら身体改造ジャーナリストと称するケロッピー氏の活動は多岐に渡る。「ピアス」や皮膚内にシリコン素材などを埋め込む「インプラント」、頭蓋骨に穴を開ける「トレパネーション」に至るまで、あらゆる身体改造を追い続けている。そんなケロッピー氏にとって、「タトゥー」とはどんな意味を持つのだろうか。

「すごく極端な言い方になりますが、『動物と人間の違いは何か』ということに対して、僕は『身体を改造するのが人間』だと考えています。たとえば、部族社会において、タトゥーなどの痛みが伴う行為は、子供から大人になる通過儀礼だったりするわけです。つまり、タトゥーとは『自分は何者か』というアイデンティティに関わる風習だったのです。取材対象が何であれ、身体改造というカルチャーを通して、人間を見つめるという部分は共通。僕の中では何の矛盾もありません」(ケロッピー前田氏)

現在、日本でも自分の体内にマイクロチップを埋め込む身体改造をしている人が少なからずいて、電子決済ができるようになればさらに普及は進むと見られている。ケロッピー氏によると、これはメディア史において大きなパラダイムシフトを意味する。スマホという外部メディアを持ち歩く時代が終わり、身体がメディアとなる時代が到来するというのだ。

「人類は移動を繰り返して、アフリカから世界中に拡散していきました。移動する際、重い荷物は持っていけませんよね。だけど、自分たちにとって、大切なものや考え方は持っていきたい。表記言語を持たなかった人は、身体に自分たちの文様を彫り込んで移動していったのではないかと思うんです。つまり、メディアとして身体が機能することが求められたといえる。縄文タトゥーはそのカルチャーを呼び覚ます試みでもあるのです」(ケロッピー前田氏)

このアート・プロジェクト発足以来、展覧会やイベントで『自分も縄文タトゥーを入れてほしい』と名乗りを挙げるモデル志願者も多いという。そんな「新たな作品」を引っさげ、今年11月には阿佐ヶ谷の「TAV GALLERY」で『縄文族 JOMON TRIBE2』の展覧会を予定している。現代人の身体に彫り込まれた、縄文ワールドを自分の目で確かめてはいかがだろうか。

 

縄文タトゥー/縄文族 JOMON TRIBE
縄文タトゥー/縄文族 JOMON TRIBE
縄文タトゥー/縄文族 JOMON TRIBE
縄文タトゥー/縄文族 JOMON TRIBE
  • 取材・文今川芳郎

Photo Gallary13

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