『愛がなんだ』を観て恋愛を語る人が続出!話題映画にハマる理由

72館から200館に拡大へ! 「片思いの終着点」に迷う女性たちの共感力が爆発してヒット街道へ!!

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン
『愛がなんだ』出演:岸井ゆきの、成田凌 (c)2019映画「愛がなんだ」製作委員会

『愛がなんだ』(原作:角田光代 監督:今泉力哉)という映画がヒットしている。4月19日の公開から映画館は連日満員が続出。恋愛真っ只中の女子たちから、かつて苦しい恋愛を経験した人まで、映画を観たそれぞれが感想を誰かに話したくて仕方なくなり、SNSのコメントには「自分の恋愛を観ているようで痛い、苦しい」「傷口に塩を塗りに行く行為と知りながら、また観に行くのを止められない」といった強烈な共感(や動揺?)の言葉が飛び交っている。

上映館数は72館からスタートし現在89館で上映中。今週末(5月17日・18日)にはさらに増加する。今後も、のべ130館での上映が確定しており、200館までは拡がる見通し。興行収入は約2.2億円(5月14日時点)となり、さらなる大ヒットの気配が濃厚だ。『愛がなんだ』が、ここまでウケているのはどうしてか? プロデューサーの成 宏基(ソン カンギ)氏と前原美野里氏に、企画の成り立ちからヒットの分析まで尋ねた。

〔ものがたり〕28歳のOLテルコ(岸井ゆきの)は結婚式の二次会で出会ったマモル(成田凌)に恋をする。都合良くマモルに呼び出されればどんな状況でも駆けつけ、気がつけばうやむやのまま身体を重ねる関係に。マモルにのめり込むテルコを友人の葉子(深川麻衣)は非難するも、彼女自身は年下のナカハラ(若葉竜也)をいいように扱っている。しかしある日、マモルから好きな人ができたとスミレ(江口のりこ)を紹介され、テルコの恋は行き場を失っていき……。それぞれがこじれた想いを抱えた恋愛群像劇。どの恋も出口が見えず、さまよう気持ちが描かれてゆく……。

ーーそもそも角田光代さんの同名原作小説を映画化しようとしたきっかけは?

成プロデューサー(以下成P):「10年ほど前に前原プロデューサーが同僚と共に“この本が面白いから読んでくれ”と言ってきたんです。でも、僕は最初、主人公のテルコに共感できなかったんです。女性が好きな人と一緒にいたいがために、テルコのようにある種の執念のように想ったり、行動するというのは新鮮というか、少し恐怖でした(笑)。でも、前原Pたちはテルコのことを“分かる!”と、ものすごい共感していて、ここまで熱く彼女たちが語るのにはきっと何かがあるのだろうと思ったのがきっかけです」

前原プロデューサー(以下、前原P):「好きな人と結ばれなくても、友達としてでもいいから側にいたい、というのは誰しも一度は考えたことがあると思う。そんな自分の中にある相手への執着心とか、好きだから何でもしちゃう、みたいな情けない部分をテルコは堂々と出しているけど、普通はなかなかそういうことを表に出せないですよね。自分も含めて、そういう想いを秘めている人たちにきっとこの作品は刺さるだろうと思っていました」

ーーSNSでは作品へのコメントがものすごい数で日々アップされ、こうした口コミが映画館へも観客を導いているようですね。

前原P:「“私の友達でこんな人いるんだけどさ”みたいに人の名前を借りて自分の恥ずかしいことを語ることってあると思うのですが、まさにテルコに自分を投影して映画を観ているからこそ、観賞後にとにかく誰かと話しをしたくて、つぶやいているのではないでしょうか。この“映画の中のテルコのことを話しているけど、実はこれは自分の痛い恋愛……”という共感力&発信欲が自然発生的に口コミとなっていると思います」

成P:「この映画でこだわったのは“テルコへの共感性”です。最初は狂気じみているテルコの恋心ですが、最後は観た人がテルコを応援したくなるような、ある種の爽快感を感じて終わらせたいと思っていました。テルコを恋愛のアンチヒーローにしなかったことも受け入れられている理由のひとつかもしれません。

あとは“寂しさ”もサブテーマで、東京に生きる若者の生きづらさや寂しさ、人間関係を大切に描いています。だからテルコだけの物語ではなくて、マモル、マモルが恋をするスミレさんや、テルコの友達の葉子、葉子を追いかけるナカハラなどの群像劇として一人一人の想いや背景も描きました。テルコだけの目線で語られる物語ではないので、仮にテルコに共感ができなくても、誰かの心情に自分の気持ちが寄り添える形になっていると思います」

左からナカハラ(若葉竜也)、葉子(深川麻衣)、テルコ(岸井ゆきの) (c)2019映画「愛がなんだ」製作委員会

前原P:「片思いってどうやって終わらせるんだろう? って、みんな考えていると思うんです。だって片思いは自分だけの問題だから“これで終わり”っていうのが分からなくて、いつまでも心に残ってしまう。だからテルコみたいに終わりが分からない人もいれば、ナカハラみたいに自分からひっそりと行動を起こす人もいる。きっとナカハラみたいに自分の中で決着を付けている人が世の中には多いと思うんです。だからナカハラへのコメントも非常に多いですね」

ーーここまで世間で広がりを見せ、ヒットをすると公開当初は予想していましたか?

成P:「いや、まったく想定していませんでした(笑)」

前原P:「実は想定していた客層より若い人が観に来てくれています。当初は主人公たちと同じ20代から30代前半位を想定の客層と考えてました。でも実際は10代の女子も多いんです。そんなキラキラムービー(例えば同級生を好きになり恋に落ち、いろいろありながらも結果的に結ばれるときめき恋愛映画)世代の若い子には響かないのかなと思っていましたが、実際には足を運んでくれています」

ーーもしかしたら『愛がなんだ』をキラキラムービーと誤解して観に来ている女子もいるかもしれませんね。映画のキービジュアル(下)にあふれるカップルの多幸感からは、“成仏できないトラウマ級の恋愛”が描かれているとは、きっと思わないです(笑)。

成P:「この絵柄に成田凌くんですから、確かにそれはあるかもしれません。実はこのビジュアルは映画の中のシーンとしては出てこないんです。でも、映画のスチールを担当してくれた写真家の木村和平さんが撮ってくれて、あまりに良い写真だったので、ティザー(宣伝物の最終版の前に出す先行バージョン)として東京国際映画祭に出品するために制作しました。あまりに評判が良く、最終的に本編のポスターとしても使用することにしました。本編と宣伝物が違いますが、そこに物語を想像させる余白があるのもいいかな、と」

テルコ(岸井ゆきの)とマモル(成田凌)のあまりにも多幸感にあふれたシーン。あえて映画本編ではカットされたが宣伝部ビジュアルでは使用。見る者の様々な想いを呼び覚ます出色の絵柄  (c)2019映画「愛がなんだ」製作委員会

ーーそうしたポスター作りをはじめ、主題歌に海外アーティストとの共演やフジロックの出演でも知られるHomecomingsが起用されているなど、作品作りへの徹底したこだわりを感じます。

成P:「主題歌はもちろん、キャスティングなど、制作段階でたくさんの意見が出てきました。主役の岸井ゆきのさんは制作当時は朝ドラ『まんぷく』に出る前で今ほど知名度は高くないし、演技が素晴らしいのは知っているが主演を張れるのか、とか。今泉力哉監督も商業映画を多数撮影している訳ではないし、成田凌くんもキャスティング時点では今ほどはドラマに出ていない……。ビジネス目線で見れば人気やマーケティングを重視した作品作りは一理あります。でも、今回はそこにはこだわらない作品作りをしました。良い作品を作れば自ずと観客はついて来てくれると過去の経験からも自信はありました。でも、この“良い作品を作るためにこだわりを捨てない勇気を持てるか”というところに全力投球できたことがヒットの要因かもしれません」

ーーもし10年前に企画が成立していたら、『愛がなんだ』はこれほどヒットしていたでしょうか?

前原P:「今泉監督が彼の作家性をここまで表現できたのも今だからだと思う。10年前に企画を思いつき、4年ほど前に本格的に映画化に向け動き出し、2年ほど前に今泉監督にオファーをして、時間をかけて作れたことが本当に大きいと思います。そして人間の本質を描いている角田光代さんの原作を丁寧に今の時代に合わせて作れた、というところも良かったのかもしれません」

成P:「10年くらい前、ちょうどリーマンショックなど経済的にもいいニュースがなくて、恋愛ものの作品が減っていたように感じます。でも、ここ2、3年で『南瓜とマヨネーズ』(臼田あさ美、太賀)や『寝ても覚めても』(東出昌大、唐田えりか)とか少しずつ恋愛映画が戻って来ている。そういう潮流に偶然乗ることができたのも良かったですね」

ーー先日5月10日(金)には映画上映なしでトークショーだけを行う有料イベントがテアトル新宿で行われ、立ち見客も50人いて、4回以上作品を観た強者も多数集まった。上映館数は72館からどんどん増えていて、さらに大ヒットする気配があります。

成P:「今泉監督と岸井ゆきのという女優の映画というだけで、この映画の方向性や、どう作るべきかというのは分かっていた。だからこそ、その作品性を壊さないために、こだわり続けた映画です。ミレニアム世代、SNS世代の若いキラキラムービーが好きな女子たちが、リアリティを追求した恋愛映画を観に映画館に来てくれている。こうした動きがミニシアターやインディペンデント映画に少しでも還元できているのであれば頑張ったかいがあったな、と思うし、それがさらにヒットへとつながればいいですね」

前原P:「原作の角田さんも完成した作品を観て、映画を気に入ってくださり、もう一度本を読もうと思ったところ、自著でありながら自宅になかったので本屋さんに『愛がなんだ』を買いに行ったと話されていました(笑)。実は観客の方たちも映画を観てから、改めて原作を読みたいと書店に向かってくれている動きもあるようで、メディアを超えて共感のムーブメントが広がっています。原作と映画の良い関係を築けたこともうれしいですね」

— — — — — — —

ーーメイン館のテアトル新宿からスタートした『愛がなんだ』は、アート系映画館、ミニシアターといった旧来の枠を越え、地方の映画館や、シネマコンプレックス(TOHOシネマズ日比谷など)からも「上映したい」と声がかかり出し、200館までは拡がる見通しとなった。

某日の「池袋HUMAXシネマズ」では、館内はほぼ20代前後の女性で埋め尽くされ、彼女たちは無言で食い入るようにスクリーンを見つめていた。ところがエンドロールが終わった瞬間、堰を切ったかのように感想を語り始めたり、SNSへの書き込みらしき行動をとっていた。かと思えば某日の「アップリンク吉祥寺」では比較的幅広い年齢層(そして男性客も)が作品を楽しみ、途中で声を出して笑うなど、痛々しい恋愛への郷愁や余裕のあるリアクションもみられた。

恋愛という非常にパーソナルな想いの恥ずかしい部分までつまびらかにしている作品だからこそ、客層や映画館、上映時間帯などによって、場内のリアクションに違いが出ているのも面白い。この映画は、いわゆる今までの定番の「恋愛映画」というものへのカウンター的存在となるはずだ。想定外に若い観客たち始まったこの作品の快進撃は、じわじわと世代を拡げ、女性以外も観始めている。

制作者がこだわり抜いて作った映画が、素敵な恋愛ばかりしてきたわけではない観客たちの「隠していた寂しい恋心を成仏させる」、あるいは「蘇らせる」といった共感や反応を呼んでいる。『愛がなんだ』を観るというのは、ちょっと特異な映画体験なのかもしれない。あなたは、どうする??

主人公テルコを演じる岸井ゆきの。デビューから約10年。様々な作品で活躍してきたが、朝ドラ『まんぷく』でヒロイン(安藤サクラ)のめい・タカ役を演じて知名度が一気に高まった。『愛がなんだ』では、観客の人生観・恋愛観によって様々に受け止められるヒロインを、巧さを感じさせないけれども絶妙な演技で造形している  (c)2019映画「愛がなんだ」製作委員会
テルコの友人(知人、親友、腐れ縁?)葉子(深川麻衣) (c)2019映画「愛がなんだ」製作委員会
マモル(成田凌)が好きになってしまうスミレ(江口のりこ)。彼女の登場で気持ちも物語も激しく動き出す  (c)2019映画「愛がなんだ」製作委員会
『愛がなんだ』全国公開中 配給:エレファントハウス 原作:角田光代「愛がなんだ」(角川文庫刊) 監督:今泉力哉  脚本:澤井香織、今泉力哉 出演:岸井ゆきの、成田凌、深川麻衣、若葉竜也、片岡礼子、筒井真理子/江口のりこ (c)2019映画「愛がなんだ」製作委員会
  • 構成SUPER MIX取材・文知野美紀子(SUPER MIX)

Photo Gallary7

share icon記事をシェアする

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事