映画館の最新形態「ミニシアターコンプレックス」で観客は幸せに?

大型映画館、ミニシアター、シネコン、そして… 一般料金1900円時代に映画館と観客の関係は、どうなるのか

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「ミニシアター・コンプレックスの時代到来!」と題する投稿が4月某日にウェブサービスのnoteにアップされた。

その主旨は「映画館についての取材を多く受けるが、ミニシアターに対する〔小さくてメジャーではない作品をかける映画館〕という概念があいまいで古すぎないか?」、そして「アップリンクキノシネマ伏見ミリオン座京都みなみ会館(今夏再オープン)などの動向を取材し、“ミニシアター・コンプレックス”の時代として、従来のミニシアターの概念をアップデートして!」というメディアへの提言、呼びかけなのだった。

呼びかけの主は映画会社アップリンクの浅井隆代表。インディペンデント・スピリットをベースに、常に映画業界を揺さぶるような活動を行ってきた浅井代表が提唱する“ミニシアター”の最新形態とはどんなものなのか。その呼びかけに応えて、“ミニシアター”の現状を取材すると、筆者の想像を超えた変化が起こっていた。本稿はそのレポートである――。

「アップリンク吉祥寺」(武蔵野市吉祥寺本町) 7列の座席の椅子をレインボーカラーで配置し、ブルーの壁は青空をイメージしたというスクリーン2 (c) 村田雄彦

そもそも“ミニシアター”って何? シネコンとどう違うの? という人もいるかもしれない。まずは前提条件となるミニシアターについて確認してみよう。

辞書の『広辞苑』(岩波書店)によると、ミニシアターとは「小規模劇場・映画館。座席数は少ないが、前衛的なテーマなどの演劇公演・映画上映を企画」するものだという。そして『大辞林』(三省堂)だと「座席数が300以下の小規模映画館。主に芸術性の高い映画などを上映する」という定義のようだ。

これに対してシネコンの定義は、映画製作者連盟「全国スクリーン数」の但し書きによると「同一運営組織が同一所在地に5スクリーン以上集積して名称の統一性(1、2、3…、A、B、C…、等)をもって運営している映画館を抽出したもの」なのだという。

1980年代から始まったミニシアターブームは、シネマライズシネクイントシネセゾン渋谷といった個性的な映画館を多数生み出した。特に1990年代に起こった渋谷系ムーブメントは、音楽のみならず、映画・コミック・ファッションなどのサブカルチャーがクロスオーバー。2000年代ごろまでは、ミニシアターが文化発信の拠点として、独自の地位を確立していた時代が確かにあった。

◆代表的なミニシアターの開館年
1981年:PARCO SPACE PART3(最初は多目的ホールとしてオープン。後に「シネクイント」として映画常設館となる)
1981年:シネマスクエアとうきゅう
1982年:ユーロスペース
1985年:シネセゾン渋谷
1986年:シネマライズ
1987年:シネスイッチ銀座(「銀座文化劇場」より改名)
1987年:銀座テアトル西友
1989年:Bunkamura ル・シネマ
1994年:恵比寿ガーデンシネマ
1995年:シネアミューズ イースト/ウェスト

だが、そんなミニシアターブームも2010年代には衰退傾向にあった。映画館の上映スケジュールを調べるのに必携であった雑誌「ぴあ」が2011年に休刊、『トレインスポッティング』『アメリ』『ポンヌフの恋人』など80年代、90年代のミニシアターブームをけん引したシネマライズが2016年に閉館したことなどは象徴的な出来事であった。

その背景には「シネコンの隆盛」だけでなく、「テレビ局製作の『○○ the movie』的な映画が人気を集めたことによる邦画の隆盛(洋画離れ)」「フィルムからデジタルへ移行する際の映画館の費用負担増」「景気回復に対する実感のなさ」といった要因もあったように思う。

前置きが長くなったが、それを踏まえた上で冒頭の浅井代表の問いかけである。「ミニシアターの概念が古くない?」と。

■昔の「ミニシアター」は意外とデカかった! 最新「シネコン」には100席未満のスクリーンも多数!

ミニシアターと呼ばれた映画館の座席数を振り返ってみると、シネマライズが303席と220席、シネクイント(初代)が227席、シネマスクエアとうきゅうが224席と「ミニ」という名前を冠しているわりには収容人数は意外に多い。
1980年代、90年代は新宿ミラノ座渋谷パンテオンといった1000人超規模の「大型映画館」がまだ現役で営業をしていたこともあり、そのカウンターカルチャーとして「ミニシアター」と称していたという側面もあったようだ。

だが、現代のミニシアター事情はそう単純なものではないようだ。

「例えば、現在のユーロスペースは145席と92席。それに対し2018年にオープンしたTOHOシネマズ日比谷は11スクリーン中、5スクリーンが98席。ユーロ~より小さいのが5つもある。TOHOは日比谷にミニシアターを5つ作ったと言ってもいいのではなかろうか」(アップリンク浅井代表)。

その指摘通り、シネコンとミニシアターの境目があいまいになってきている。映画館の規模だけでなく、上映される作品にも変化が出ている。

インディーズ映画の『カメラを止めるな!』がシネコンも含めた全国300スクリーン以上で上映され、大ヒットを記録したのをはじめ、片山慎三監督の『岬の兄妹』が、シネコンのイオンシネマ系列でも上映された。今泉力哉監督の『愛がなんだ』もスマッシュヒットを受けてTOHOシネマズ日比谷などでも上映がスタート。奥山大史監督のインディーズ映画『僕はイエス様が嫌い』(5月31日公開)も同シネマズ日比谷で上映予定だ。

さらにアップリンク配給のドキュメンタリー映画『氷上の王、ジョン・カリー』は松竹系のシネコンである新宿ピカデリーや東劇(435席)でも上映される。5月9日に行われた同作のジャパンプレミアのチケットは、町田樹氏(元フィギュアスケーター。慶應義塾大学・法政大学非常勤講師)が登壇するということもあり、1分で即完売となった。

ドキュメンタリー映画『氷上の王、ジョン・カリー』(5月31日から公開)のジャパンプレミア(5月9日・新宿ピカデリー)。本作に字幕監修・学術協力として関わった元フィギュアスケート日本代表・町田樹氏と振付師の宮本賢二氏が登壇。チケットは1分で売り切れた

シネコンで上映される映画のラインナップは金太郎飴でどこで観ても同じだ、といった紋切り型の考えは改めねばならない状況になっているのかもしれない。さらに逆の動きもある。

浅井代表が言う。「かつてのミニシアターという概念でいうと、『翔んで埼玉』や水谷豊監督の『轢き逃げ 最高の最悪な日』をアップリンク吉祥寺で上映するなんてありえない、と思われるかもしれない(実際に上映している)。結局みんな、過去のミニシアター幻想に縛られているんですよ。シネコンは文化の敵でしょという人もいるが、今どきの映画ファンはシネコンもミニシアターも自由に行き来していますよ。アップリンクに来るお客さまが、シネコンで『アベンジャーズ』を観るのはあたりまえ。むしろ見せる側や報道する側の感覚がアップデートされていない」

そして浅井代表は続ける。「かつてのミニシアターは資本力がないから設備を変えられなかった。東京でさえそうなんだから、地方のミニシアターはもっとそう。地元の小さな喫茶店みたいなもので、横にスタバができるとそっちに客が行ってしまう」とも指摘する。そこで浅井代表が提唱するのが、ミニシアターとシネコンのハイブリッド型となる「ミニシアター・コンプレックス」である。

■5スクリーンを駆使 アップリンク吉祥寺は年間700作品の上映を目指す

全5スクリーン(63席、52席、98席、58席、29席)を有する“ミニシアター・コンプレックス”「アップリンク吉祥寺」がオープンした(2018年12月14日)。かつてのシネマライズ規模(300席)のキャパシティーで5つの作品が上映できるというわけだ。オープン時は『見逃した映画特集 Five Years』と題した特集上映が行われ、『妻よ薔薇のように 家族はつらいよ III』『孤狼の血』といったメジャー作品から、アップリンクが得意とするインディーズ作品まで、およそ1ヵ月半で150本以上の映画を一挙上映してみせて、映画ファンの度肝を抜いた。

「アップリンク吉祥寺」のロビー (c) 村田雄彦
アップリンクの浅井隆代表 写真:壬生智裕

「周辺は住宅街なので近所の人が多く来てくれた。うちは年間で700本くらい上映する予定で、いろいろな映画を提示して映画を選ぶ体験をしてもらえる。また、若い人には、ここの内装を見て、普通のシネコンじゃないんだなと思ってもらえたようだ。今はインターネットが発達し、映画館側より一般のファンの方が情報が早いんです。そういう時代だからこそ、お客さんの“これを観たい”というニーズには、多スクリーンで応えることが大切になってくる」と自負する浅井代表。

さらに「これはホラ話として聞いて欲しいんですが、もし僕がロケットを飛ばせるだけのお金を持っていたとしたら、高輪ゲートウェイ駅直結で、50スクリーン完備のシネコンを作りたい。そうすれば日本で公開される映画を初週だけなら全て上映できるんですけどね」と付け加え、笑ってみせた。

浅井代表が指摘するとおり、ここ半年で複数スクリーンを有するミニシアターが続々とオープンしている。 木下グループの傘下で、近年、映画配給事業で存在感を見せるキノフィルムズが、映画館運営を手がけるkino cincemaを立ち上げ、映画館事業にも参入。4月12日には「kino cinéma横浜みなとみらい」(3スクリーン、55席、111席、111席)がオープン。さらに6月28日には「kino cinéma立川髙島屋S.C.館」(3スクリーン、87席、87席、25席)もオープンする。

kino cincemaの西嶋祐一郎社長は「お客さまに劇場にいらしたきっかけを聞くと、観たい作品が決まっていて、ネットで調べてきたという方が多かった。情報をアクティブに得る方が多く来ている印象があります。以前は新高島に109シネマズがあったんですが、契約の問題で撤退されてしまい。みなとみらいエリアには映画館がなかったので、周辺の住民の皆さまからも待ちに待った映画館だと言ってもらえた」と語る。

アップリンク同様、キノフィルムズは良質なアート映画を中心に多くの映画を配給している。「キノシネマ横浜みなとみらい」でも『幸福なラザロ』『マックイーン:モードの反逆児』といった同社配給作品が上映され、順調に客足が伸びているという。しかし上映作品は柔軟に行われており、20世紀フォックスが配給するメジャー作品の『ボヘミアン・ラプソディ』が上映されると、DVD・Blu-rayが発売された後であるにもかかわらず、多くの観客が来場した。また、下のフロアにはTSUTAYA、スターバックスコーヒーがテナントとして入居しており、三店舗が連携して集客を行っている。

また6月オープンの「kino cinéma立川髙島屋S.C.館」に関しても、「自社配給作品を中心に、良質なアート作品を上映するというポリシーは引き継いでいこうと思います。ただ横浜と違う点をあげると、隣に(有力シネコンの)立川シネマシティさんがあり、そこでは超大作や単館系の作品を上映しているということ。だからシネマシティさんとの協力体制をしっかりとやっていきたい」(西嶋社長)。さらに今後、別の都市でも3~4スクリーン規模の映画館出店を予定しているとのことで、今後のキノシネマの動向にも注目が集まる。

「kino cinéma横浜みなとみらい」(横浜市中区) シアター1
kino cincemaの西嶋祐一郎社長  撮影:壬生智裕
「kino cinéma立川髙島屋S.C.館」(立川市曙町)のロビー

そして、リニア中央新幹線開通を2027年に控え、再開発・新規出店などが進む名古屋にも目を向けてみよう。4月12日には名古屋の「伏見ミリオン座」(4スクリーン、184席、47席、109席、74席)がリニューアルオープンした。もともとは映画会社のヘラルドグループが1950年にオープンした洋画ロードショー館「ミリオン座」を前身とする同館は、2005年からはスターキャット・ケーブルネットワークが運営を担当。そして今回のリニューアルにより、3スクリーンから4スクリーンの劇場に変ぼうを遂げた。

移転前は中高年層が客層の中心だったという伏見ミリオン座。伏見ミリオン座の稲垣明子支配人は「10年以上劇場をやってきたので、劇場にお客さんがついている。今回、そう遠くない場所に移転したため、お客さまがそのままこちらにも来てくれている」。また、カフェコーナーでは有機栽培の豆を使用したコーヒーや、GURUMAN(グルマン)のパンなどを提供。新聞や雑誌なども置いてあり、映画館を観ずに、カフェ利用だけも可というのが、いかにも喫茶店文化が充実している名古屋らしい。

上映作品の傾向について「シネコンで上映される作品とミニシアター系の作品の中間くらいが好まれる。4スクリーンに増えたことで編成の自由度が増えた」と語る稲垣支配人。ゴールデンウィークには岸井ゆきの、成田凌が出演する『愛がなんだ』が大ヒットして、若者層が多数詰めかけた。こちらも複数スクリーンにしたことが好調に寄与しているという。

「伏見ミリオン座」(名古屋市中区)  撮影:壬生智裕
「伏見ミリオン座」(名古屋市中区)のカフェコーナー  撮影:壬生智裕
「伏見ミリオン座」(名古屋市中区)  撮影:壬生智裕

■シネコン1900円時代到来 ミニシアターコンプレックスはリピーターを獲得を重視

話は変わり、TOHOシネマズ、東急レクリエーション(109シネマズなどを運営)、松竹マルチプレックスシアターズ(直営25劇場。新宿ピカデリー、丸の内ピカデリー、MOVIXなどを運営)など、大手シネコンチェーンが、現行の映画料金の値上げを相次いで発表した。一般料金1800円が1900円になる映画館も多い。その理由として松竹マルチプレックスシアターズ(新宿ピカデリーと丸の内ピカデリーで1900円への値上げを発表)は「アルバイト人件費や物流費等コストの上昇と設備投資等への負担増」としているが、他社も理由としては近いところであろう。10月から予定されている消費税増税への対策という側面もあろうかと思う。

大手の値上げについて、アップリンクの浅井氏に尋ねると、「消費税が増税されても、映画は仕入れ価格があるわけでなく売り上げを劇場と配給会社でシェアするので、トータルバランスで考えて、シニア料金を上げるのか、一般料金をあげるのか、どこから収益を得るかということは各社の戦略の違いなので」との返答が。

NTTコム リサーチ「第7回「映画館での映画鑑賞」に関する調査」によると、直近1年以内(2017年5月~2018年5月)に映画館で映画鑑賞をした人(以下「映画館鑑賞者」)は全体で35.3%。映画館で鑑賞する人数はゆるやかな減少傾向にあるという。その一方で、映画館で5本~11本観るというミドルユーザーの割合が増えているという調査結果もあり、1人当たりの平均鑑賞本数は逆に増えているという。これはつまりリピーターの獲得が運営の肝となっていることを指し示している。

今回取材したアップリンク、キノシネマ、伏見ミリオン座が共通して掲げていたことは、いかにリピーターを獲得していくかということ。

アップリンク浅井代表が「リピーターをどう優遇していくかということは重要となる。シネコン各社が1900円にしたのは、おそらく年に1回か2回観る人をターゲットにしているからだろう。けれども僕らは月に2~3本観る人をターゲットにしているから、会員料金を安く設定し、リピーターを優遇・獲得することで収益をあげようとしている」と語る。

キノシネマの西嶋社長も「消費税増税という大きなタイミングを迎えるので、われわれの料金体制も皆さまの状況をうかがいながら冷静に判断したい」と続けた。

例えばアップリンク吉祥寺では、年会費1,500円で会員になると、平日1,000円 土日祝日1,300円で鑑賞できる。キノシネマ横浜みなとみらいでは、年会費1,000円で、入場料1,300円となる(火曜日・木曜日は1,000円)。伏見ミリオン座も、鑑賞料が1000円になる会員制度がある。

キノシネマの西嶋社長も「普段よりお安く観られるということもあって、おかげさまで会員数も順調に増えております。また、鑑賞ポイント交換制度も行っており、卓球選手や、フィギュアスケート選手のサイン入りグッズや、フィギュアスケート国内大会のチケットなどが抽選で当たるキャンペーンを行っております。これを実現させるのはなかなか大変でしたが、木下グループならではの利点だと思いますし、これまでにない層のお客さまに訴求することができています」と語る。

今回、いろいろと“ミニシアター”の現状を見てきたが、“ミニシアター”と”シネコン”との境目は、ハード的(映画館)にもソフト的(作品)にも、ますますあいまいなものとなってきている。

読者の皆さんは、“ミニシアター”と”シネコン”の境目についてどう考えますか? そして映画館に求めることは、何でしょうか?

「アップリンク吉祥寺」オレンジ、ブラック、ブルーの椅子をランダムに配置したスクリーン1  (c) 村田雄彦
  • 壬生智裕

    (みぶ・ともひろ)映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。年間数百本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、特に国内映画祭、映画館などがライフワーク。

Photo Gallary11

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