絶対王者からの陥落 挑戦者となった帝京大学が「目指すもの」 

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2019年1月2日、帝京大は天理大に敗れ、大学選手権は9連覇で終わった

奈良の御所実業高出身の北村将大は、意識がぼんやりしたまま悔しさをかみしめた。

2019年1月2日、東京・秩父宮ラグビー場。大学選手権の準決勝に帝京大のスタンドオフとして先発も、開始6分で脳震盪となって退場。天理大に7―29で敗れ、大学日本一の連続記録を9で止めてしまった。

学年が2年から3年に上がった5月某日、当時の状況を思い返した。

「前後の記憶はないんですけど、気が付いたらベンチに座っていたというのが(当時の)現状です。その時も頭が混乱していたというか、整理できていない状況で……。そんななかでも、この1年、積み上げてきたことができなかったという悔しさがありました。もちろん、チームが負けたことが一番、悔しかったのですけど」

北村と同学年で大阪の常翔学園高からやって来た安田司は、「もう、無理や」とうなだれるほかなかった。

フランカーとして天理大戦の後半から出場も、自分の売りである身体のぶつけ合いで差し込まれたり、ボールの出どころになるスクラムで一方的に押された。試合後は岩出雅之監督から「負けたのは仕方がない。まずは、リラックスしよう」と言われて「2~3日」のオフを過ごすなか、受け入れがたかった現実を徐々に受け入れてゆく。

「最初は、『ホンマに負けたんかな』という感じでした。ただ、しばらくたったら悔しさがこみ上げてきました。スクラムも押されて、コンタクトの部分でも…負け…て…ましたし…。絶対、やり返したろう、と思いました」

強みだったはずの領域で苦しんだ。その背景を、2人の同級生の木村朋也は「練習でやっていたことが試合に出たと、切実に思います」と見る。

京都の伏見工高から加入するや、1年時からウイングとして台頭。天理大戦ではチーム唯一のトライを決めている。しかし、大学ラグビー史上トップクラスの大きなピリオドが打たれたことで、シビアに我が身を振り返る。

「僕が思うのは、皆が秋山さんに頼っていた、ということで……」

前主将の秋山大地は、大型ロックとしてタックルしては起き上がってまたタックル。後に日本一となる明大に春の公式戦で敗れれば「私生活」の見直しを目指した。クラブの矜持たる勤勉さと誠実さを具現化し続けていた。

木村は、その大きすぎる存在に依拠するしかできなかったと反省するのだ。

「僕自身、痛いプレーから逃げていたところもあります。しんどい練習の時も、(周りを盛り上げるよりも)自分に集中しきっていた」

連覇初年度の初優勝時に先立ち、帝京大は医療学部と連携して身体作りの環境を整備してきた。ウェイトトレーニングルームを充実させて管理栄養士のもとで食生活を改善。雑務を上級生が負担し下級生にゆとりを与えたのと相まって、ストレスなく他校を圧倒できるようになった。

昨今は、帝京大がずっと優位性を保ってきたフィジカリティと部内の風通しの良さを見習った他校も成長。さらには同時期に日本選手権の学生枠が撤廃されたことで、従来の帝京大が掲げていた「トップリーグ(社会人)勢撃破」という目標は縮小化した。その延長線上で、学生ラグビー界での連覇記録が途切れた。

ただ、歴史は地層のように積み重なる。天理大戦の80分間が、帝京大の数年来積み上げてきた文化をリセットするわけではない。新年度を迎えたいま、部員たちはそれぞれの立場で母校の本来の良さを再確認している。「これからまた連覇を」と口を揃える。特に存在感を示すのが、下級生時から試合に出続ける3年生たちだ。

北村曰く、帝京大では「チームをよりよくしたいと(強く)思うのが、2年生から3年生に代わった時のいちばんの違い」。備品を管理するボール係、トレーニング場の清掃をするウェイト係など、部内に置かれたいくつかのセクションでも3年生以上が主導的な立場を任される。来季以降の組閣について議論するのも、「テイキョウの3年生」の特徴だ。

木村は週末に鍋やアサイーボウルを作る「夜食係」の1人。2年へ進級する折に「ヨーグルトを皿に出すだけ。絶対に楽だ」と踏んで当時の上級生に「入れてください」と頼んだこの職場では、「発注ミスがあって怒られた」と、思わぬ成長機会に出くわした様子。いまは「こういうことは、社会に出てから役立ったりもする」と前を向き、「楽」とは真逆の方向へ舵を切ったと笑う。

「部員間でよくコミュニケーションを取るため、数週間に1回メンバー(座席の配置)を変えたりしています」

4月下旬からは関東大学春季大会のAグループに参戦。4年生で主将の本郷泰司を故障で欠くなか目下2連勝中だ。最上級生の末拓海がゲーム主将を務めるなか、北村もリーダー陣の一角に入る。

「フィジカル負けしたことがああいう怪我(脳震盪)に繋がったので、フィジカル強化を。また、状況判断と、その状況に合った技術(を磨いている)。どう悔しさを伝えるかが大事。(チームを)変えていくだけでなく、もっといいものにしていきたいです」

安田はコンタクトの多いフォワードのポジションにあって、前年度からレギュラーを争ってきた数少ない選手の1人。王者ではなくなった現実をも、活力へ変えるつもりだ。

「去年まで(試合を)経験させていただいた分、コンタクトの部分で絶対に負けない。3年生ですが、上級生という責任感、プライドを持ってやる。どのチームもフィジカルでチャレンジしてくると思いますが、自分たちもチャレンジャーという意識で、痛いところへ挑みます」

追われる立場から追う立場に回ったいま、「チャレンジャーという意識で」と心の底から言えるようになっただろう。

 

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

  • 写真築田純/アフロスポーツ

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