不倫報道を火消しした“日本一残念な兄”千原せいじの「対応力」
『週刊文春』(5月23日号)に報じられた、千原せいじの『ハヤシライス不倫』。
いったいどんな“不倫”なんだ? それはせいじの答えにあった。記者の直撃取材に対して
《カレーライスばっかりじゃなくて、たまにはハヤシライスやハッシュドビーフも食べたなるしねぇ…》
よく耳にする浮気常習男の言い訳と同じようなことを言ってたのには興ざめだったが、それでも否定したり、変にごまかさないで、潔く事実を認めたことは評価していいのではないか。しかも直撃インタビューの全文は記事として面白く仕上がっていて、本人にも雑誌サイドにとっても“オイシイ”結果になったと思われる。
芸人の“不倫・浮気報道”なんて、今も昔も特に珍しいことではない。ちょっとやそっとのことでは世間は驚かないだろう。相手女性が、名前を聞いてもすぐにわからないタレントや一般人の場合は、記事になってもニュースにはならないこともある。一瞬で忘れ去られてしまうのがおちだ。最近でもそんな例はいくつもある。
せいじの相手も一般人だった。彼が直撃取材を受けても、否定したり、ごまかしたり、ノーコメント、あるいは浮気を認めても、特筆する内容でもなかったら、この“浮気報道”を、後追いするメディアもなかっただろう。
それでは、苦労してスクープをものにした記者は報われないというものだ。
大騒ぎにならなかったら、撮られた本人はほっと胸をなでおろすことだろう。それはそれでいいかもしれないが、どんなピンチもチャンスに変えて、“オイシイ”ネタにして、笑いを取ろうとするのが、“できる芸人”ではないだろうか。
せいじはそんな期待に応えてくれたのだ。まずタイトルにしやすく、“キャッチ”となるフレーズを提供してくれた。なおかつ、浮気を認めたうえで、絶妙な“釈明”をしてくれた。
”これで面白い記事ができる!”
記者は内心“やったー”と思っただろう。
芸人だって不倫や浮気などの女性問題を起こした場合は、ほかの芸能人と同じで反省、釈明を求められる。場合によっては会見を開くこともある。だが、大きく異なるのは面白い答えを要求されるところだ。しかもその対応次第では、芸人としての評価が急降下してしまう場合だってある
芸人の“釈明”は実力の証とも見られているのだ。
ここ最近のMVPは六代目三遊亭円楽だ。
16年6月、『老いらくのラブホ不倫』というタイトルで、『FRIDAY』に一般女性との不倫が報じられ、謝罪会見を開いたのだが、
「『老いらく』じゃなくて、円楽だっていうのに」
と語るなどし、会場は終始笑いに包まれ、集まった記者から拍手が起こるほどだった。ネットでは、「落語を聞いているみたいだった」と絶賛の声まで出ていた。
落語家ならではのなせる業ではあると思うが、“笑い”を生業とする人たち皆が皆出来るとは限らない。大袈裟かもしれないが、技を極めた人たちだからこそできることなのだ。
会見は開いていないが、せいじの釈明も“面白さ”という点では秀逸だと思う。記事を読んで妙に納得してしまった読者も多いのではないか。撮られた写真も絶妙だ。カメラマンの腕もさることながら、そんなシーンを作ってくれたのはせいじと彼女だから、『文春』もふたりに“感謝、感謝”だろう。
その上、”上出来の釈明”は彼が被るダメージを最小限にくい止めたのだ。円楽のときもそうだったが、せいじを責める声はほとんど出ていない。
まあ、世間は不倫報道に慣れてしまった感があり、お笑い芸人の不倫報道なんかに興味がないのかもしれないが…。
番組降板はないと思われるし、活動自粛もないだろう。しいて言えば、家族団らんや夫婦円満イメージのCMにはしばらく出演できないことくらいか。
そして、せいじは直撃取材の最後を
「ほな(記事を)楽しみにしてるわ」
という言葉で締めくくっている。強がりとも取れるが、ある意味記者に対するリスペクトのようにも取れたのだが…。
“日本一残念な兄”は“日本一あっぱれな芸人”だった。
文:佐々木博之(芸能ジャーナリスト)
宮城県仙台市出身。31歳の時にFRIDAYの取材記者になる。FRIDAY時代には数々のスクープを報じ、その後も週刊誌を中心に活躍。最近は、コメンテーターとしてもテレビやラジオに出演中
写真:森田直樹/アフロスポーツ