価格は国の10分の1「ホリエモンロケット」驚きの安さが笑える | FRIDAYデジタル

価格は国の10分の1「ホリエモンロケット」驚きの安さが笑える

「インターステラテクノロジズ」稲川貴大社長 密着インタビュー

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千葉県浦安市の工場にて。北海道大樹町には約2倍の広さの工場があり、2ヵ所でロケットを製作している
千葉県浦安市の工場にて。北海道大樹町には約2倍の広さの工場があり、2ヵ所でロケットを製作している

仏壇用のロウソクも使う

「今回打ち上げたロケットは、私を含め20人ほどのメンバーで開発しました。工場にある部品の中には、ホームセンターで手に入る汎用品もあります。例えば、エンジンの中には推進剤である液体酸素の出入りをコントロールするバルブが内蔵されています。これは買うと300万円もしますが、ウチは自社で設計・製造しているので格安です。バルブ上部に付けるモーターはマブチモーター製で1000円。モーターに付いているギアは5000円。桁が全然違いますね(笑)」

こう語るのは、ホリエモンこと堀江貴文氏(46)が出資するロケット会社『インターステラテクノロジズ』の稲川貴大社長(32)だ。

5月4日、同社のロケット「MOMO」は、日本の民間企業では初となる宇宙への到達に成功した。

史上初の快挙を成し遂げたロケット「MOMO」だが、驚くべきはその”安さ”だ。「MOMO」の販売予定価格は数千万円。JAXA(宇宙航空研究開発機構)が使用するロケットの価格相場が2億~5億円と言われるなか、そのわずか10分の1という笑ってしまうほどの価格だ。

「私たちのコンセプトはロケットのコストを下げること。すべての部品を最高精度にするとコストは高くなりますが、技術的な要求を下げられるだけ下げることで安さを実現しています」

千葉県浦安市にある工場も、最先端技術を扱っているとは思えない、雑多で簡素なたたずまいだ。大型機械も、そのほとんどが中古製品だという。稲川氏は、無造作に置かれた一つ一つの部品を手に取りながら笑顔で説明を続ける。

「ロケットの脳にあたるコンピュータには、必要最低限の電子部品がついた市販の基板を使っています(4枚目写真)。価格は1000円。国が使用しているコンピュータは数千万円します。エンジン燃料に着火する際は、ロウソクの蠟(ろう)を溶かして作ったガストーチを使っています。蠟は燃焼力が高いので、強力な火を安く熾(おこ)すのに適しているんです。このロウソクも、ホームセンターで買った仏壇用のものです。誰でも手に入れられる材料を使っていても、工夫次第で宇宙にロケットを飛ばせると証明できました」

少年のような目で部品を解説する稲川氏だが、実際、彼は幼少期からものづくりに熱中していたという。

出所直後の堀江氏に誘われ

「子供の頃はひたすらガンダムのプラモデルを作っていました。手先を動かすのが好きで、高校時代は工芸部に入部。釘を一本も使わない木のロッキングチェアを作り、美術のインターハイに出展されたこともありました。部活に没頭して勉強はほとんどしなかった。でも物理や数学など理系科目だけは得意で、常に学年上位の成績は取れていました」

1浪後に東京工業大学機械物理工学専攻に進学すると、人力飛行機を作って琵琶湖の上を飛ばす「鳥人間コンテスト」に出場した。

「人力飛行機の設計に必要なので、材料力学、熱力学、流体力学など大学で学習する内容は1~2年生のうちにほとんど独学で勉強しました。『鳥人間コンテスト』のチームを3年生で卒業してからも、ものづくりがしたいという思いは変わらなかった。そんなとき、有志でロケットを作っている学生たちがいることを知り、『これだ!』と思ったんです。さっそく私も14人ほどのサークルを作り、ロケットを作り始めた。そのうち、サークルの技術を向上させるために今の会社の前身団体などに手伝いがてら顔を出すようになっていきました」

ロケット製作の魅力にとりつかれた稲川氏はJAXAや三菱重工業への就職を目指すが、あえなく失敗。カメラメーカーへの内定を貰い、一時はロケット作りの夢を諦めかけていた。だが、入社式を3日後に控えた’13年の3月、堀江氏と出会ったことで運命が一変する。

「その日、私はたまたま春休みを利用して堀江さんのロケット会社の打ち上げ実験を手伝いに来ていたんです。折しも堀江さんは2日前に出所したばかりで、この日が初対面。実験は残念ながら失敗で、ロケットはその場で炎上してしまった。すると堀江さんが突然、『よし! 会社に人を増やそう』と言い出した。そして端っこでボーッと立っていた私に声をかけてきたんです。『キミ、これからどうするの?』って。全部、ロケットが横で燃えている間の出来事ですよ(笑)」

稲川氏は、堀江氏とのやり取りを笑いながらこう振り返る。

「堀江さんに『これからどうするの?』と聞かれたので『3日後にカメラメーカーに就職します』と答えると、『ロケットやりたくないの?』と聞かれ、『やりたいんですけど、JAXA落ちちゃったし……』『いや、ロケットを作りたいの? カメラを作りたいの?』『ロケットが作りたいです』『じゃあ、ウチでやろう!』『やります!』という流れになって、あっという間に入社が決まってしまいました」

急遽、『インターステラテクノロジズ』への入社を決めた稲川氏は、翌年には社長に就任。しかし、宇宙への道はそう簡単ではなかった。

「今回打ち上げに成功した『MOMO』は3号機です。初号機と2号機の打ち上げは、両方とも成功はしませんでした。初号機は打ち上げ後に通信が途絶えてしまいエンジンを緊急停止させ、2号機は打ち上げ直後に炎上してしまった。でもそのたびに、堀江さんとお酒を飲みながら励まし合ってきました。堀江さんはいつもグデングデンに酔っぱらって目標を語ります。『こうやっていこう!』と。それで私が『いいっすね!』と賛同したり、『でもここはこうしたほうがいいですよ』と意見を言ったりしながら方向性を決めていくのです」

社長に就任してから5年。数多(あまた)の失敗を乗り越え、ようやく宇宙空間へのロケット打ち上げに成功した稲川氏だが、技術的な壁はまだ高い。「MOMO」の速度は秒速2㎞。人工衛星を地球の軌道に打ち上げるには秒速約8㎞の速度が必要であり、実用性を高めるためにはさらに高いハードルを次々と超えていかなければならない。それでも稲川氏は諦めず、未来を見据えている。

「現在は、100㎏ほどの小型衛星を高度500㎞の地球低軌道に乗せるためのロケット『ZERO』の開発に着手しています。これには大量のエンジンを積む必要があるので、重量は36トンほどになる予定です(今回打ち上げに成功した『MOMO』の重量は1.1㌧)。もし打ち上げに成功すれば、世界のライバル企業とも戦っていけるでしょう」

稲川氏の最終的な目標は、「誰もが宇宙に行ける世界を実現すること」。ホームセンターで部品を買い、町工場で組み立てたロケットで宇宙旅行できる日が、いつか来るかもしれない。

5月4日に宇宙空間へ到達した「MOMO」3号機。名前の由来は漢字の「百」で、高度100㎞を超えるという意味合いだ
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稲川氏の右手にある円筒状の部品が、エンジン推進剤である液体酸素のON/OFFを操作するバルブ
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ロケットの脳にあたる基板。写真の基板はロケットに搭載されたカメラで撮影した画像を、地上に送信する役割を担う
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電子基板と配線ケーブルを繫ぐコネクターにもホームセンターで売っている汎用品を使用。一個当たり10円程度で購入できる
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本誌未掲載カット 「ホリエモンロケット」驚きの安さが笑える 「インターステラテクノロジズ」稲川貴大社長 密着インタビュー
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『FRIDAY』2019年5月31日号より

  • 写真結束武郎、時事通信社(2枚目)

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