シロさんと僕たちが「ストレート」に擬態して生きてる理由
こんにちは。G(ゲイ)執筆家のオオタサダヲと、カミングアウトせず、それぞれ地に足の着いた仕事をしているG友達4人との井戸端会議をお届けします。
今回のテーマは、ズバリ「なぜカミングアウトしていないのか?」。
左から
仲間亮平 38歳 飲食チェーン営業職
藤木孝 47歳 金融アナリスト
山田和俊 42歳 WEBクリエイティブデザイナー
大林陽介 43歳 内科医
「ダイバーシティ」とは人に踏み込みすぎない社会
――ゲイも今じゃずいぶんと存在を知られてきてるけど、みんなは職場やプライベートで全くカミングアウトしていないんだよね?
一同 してないね。
孝 うちは会社が外資系だからさ、全然OKみたいな感じなんだよ。周りの人が、席に「レインボーリボン」。とか貼っていて。

――孝の会社って、そんなにカミングアウトしてる人がいるの?
孝 いや、違うよ! 「私はゲイに理解があります」っていう人が周りにたくさんいるってこと。金融業は特に多様性を推進してるところがあるから。
陽介 そういうことね!
和俊 ダイバーシティ……。
――だったら、ゲイであることはオープンにしやすいのかな?
孝 んー。たださ、自分がゲイだって自己紹介する機会があるわけではないからね。それに文脈もないから、誰かから聞かれもしないしさ。
和俊 “理解してます“っていうのはありがたいけど、きっかけがなかなか難しいね。いきなり“はい、自分はゲイです!”って手を挙げたりはできないし。
――確かに。流れがないままいざ告白されたら、周りも慣れてなくてびっくりするだろうしね。
あのさ、4人とも、そこそこ女性に好かれそうな顔してるなと思うんだけど、結構な大人で独身でいると“あの人、なんで結婚しないんだろう?”って思われたりはしない?
和俊 2、3年前までは聞かれたけど、最近の風潮ではそういうのはないよね。
孝 ストレートの独身の人にも「結婚しないんですか?」とは今どきなかなか聞かないよ……。 そのあたりはLGBTとか関係なく、誰もが聞かれたくないことはあるんじゃないかな。そう思わない?
一同 思う!
孝 聞かれたくない気持ちってのを、実感してる自分らだからこそ、なおさら思いやる常識を持ちたいよね。
亮平 ただなー、それも職種によってとか、会社の規模にもよって環境は違ってくるよ。

――亮平のところはどんな感じなの?
亮平 飲食の営業職だからかな……仕事終わりに一杯って付き合いが多くてさ、酒が入ると結婚のことは聞かれるよ。酔った上司から「お前も家族を持たないと一人前じゃないぞ!」とか。
陽介 そういう上司ってさ、独身であれば女子にも男子にも平気でみんなに絡むんでしょ? 私は親の病院で働かせてもらってからの独立開業医だから、会社勤めの人間関係って本当に大変なんだろうなって感じる。
亮平 もうさ、カミングアウトしても平気な社会っていうよりは、そういうことを聞かない社会になってほしいわ。
和俊 人に踏み込まないことも思いやり……みたいなね。
亮平 俺ね、会社でカミングアウトできずにストレートで過ごしてるんだけど……。メジャーリーグの大谷翔平っているじゃん?
一同 可愛いーー!
亮平 じゃなくて(笑)。最近さ、職場の仲の良い女子に大谷“亮平”って言われてて。
一同 似てないーー!
亮平 いや、それがさ、外見じゃなかったみたいなんだよ。
一同 ???
亮平 それはなぜかというと、“二刀流”ってことらしい……。
一同 バレてんじゃん(笑)!
――さすが女子、鋭い(笑)! でもそれってなんか、ちょっと愛情ある感じもするけどね。ゲイだと思い切って言ってみたらだめかな?
亮平 いやーいざカミングアウトしたら結構引くんじゃないかな。
陽介 打つほうがすごいのよ……とか言ってみたら。
一同 下品(笑)。
亮平 でもこういう女子がいるから職場で笑えるのも確か。
小さな嘘を重ねることの罪悪感
――なるほどね……他にノンケとして普段過ごしてるなかで、悩みなんかはある?
和俊 んー、亮平とは違う意味の悩みがあるんだよね。仲良しの先輩や同僚と飲みに行った時の、プライベートの話。

――恋バナとか? 僕はカミングアウトしてない会社で働いてた頃、彼氏を彼女って置き換えて話をしてたよ。
一同 あー! わかるー!
和俊 そう! それ! 自分も孝の事を、“彼女”に変換してる(笑)。皆、腹をわって話してくれるから、なるべくこっちも本当のことを話そうと思うからさ。プレゼンの仕方とか、仕事の悩みを彼女(じつは孝)に相談してるっていうエピソードを喋ったりしてると「お前の彼女、なんか妙に頼りがいがあるね……」って急に真顔でツッコミ入れてくるから相当に焦る。
亮平 そりゃそうだ! ホントは頼れる彼氏の話だもんね(笑)。
孝 和俊さん、逞しい彼女でごめん(笑)。
和俊 いえいえ(笑)。で、慌ててちょっと女の子っぽいメルヘンな話を盛るんだけど。そうすると、その場その場で小さな嘘をつくもんだから、後で辻褄が合わなくなって大変なんだ。他にも、彼女は写真が嫌いな設定にしてたり、出張が多い設定をしてたり……。
陽介 彼女に会わせろって言われるからでしょ(笑)?
和俊 そう。で結局、適当についてた嘘が思い出せないもんだから、エアー彼女のプロフィールがたまに支離滅裂になってて。職場の人たちが矛盾に気づいて「お前、大丈夫か?」って真剣に体調を気遣われてる(笑)。
―― わかる(笑)。プライベートの話をして気を許してくれてるのはめちゃめちゃ嬉しいのに、こちらはなぜか気が張ってきちゃって……。なかなかツライところだよね。
和俊 きっとね、良い人たちだからカミングアウトしても……ってふと頭をよぎるんだけど、ノンケとしての自分に心を許してくれてるんだから、今になって彼らを戸惑わせたくないんだよね。みんなに対して、嘘を重ねる自分に罪悪感はあるけど。
――恋愛関係以外は素のままで向き合ってるんだから、ついていい嘘もあると思うよ。
和俊 こういう経験重ねてるとさ、Gであることをわかってほしいというよりは、むしろいろんな人が抱えてる言いにくい事情ってのを気づいてやりたいって、そんなふうに考えるようになるよ。いろんなしがらみでつきたくない嘘を重ねてる男女はいるだろうしね。
「親を悲しませたくない」からこその擬態
陽介 恋愛以外にも、カミングアウトのことでやるせない気持ちにはさせられるわよ。
孝 どういうこと?

陽介 3年前に、東京で今の内科クリニックを開業したでしょ? あれ、40歳って区切りもあったけど、親に対しての思いも後押しをしたんだよね。
――陽介は大学を卒業してから、ずっと群馬のお父さんの医院で働いてたよね。週末だけ、彼氏に会いに東京に来て、自分たちとも遊んでて……。
陽介 そう。うちの場合、私が跡取りでさ。親は実家の医院を継ぐことを期待してたの。で、田舎では内科医の組合ってものがあるのね。そこに毎月1回、親子で参加してたんだけど、集まる先生たちから「偉いねー、これで結婚さえすればもう一人前だね」って私、いつも言われてたの。
亮平 陽介、長男だったね。
陽介 最初のうちは良かったのよ。でも毎度毎度言い続けられるとだんだん面倒になっていて、ある時……40歳手前かな、「なんで大林先生の息子さんは結婚しないんだろう」って、田舎っていう小さなコミュニティだから急に噂になり始めてさ。そうしたらその会合に出る父親の背中、すごく小さく見えてきて。あー、自分のせいで可哀そうな目にあわせてるんだって思ったら、もう申し訳なくてたまらなくなって。
和俊 理屈抜きで、親にはごめん……って思うよね。
陽介 跡取りとして家庭を持つという選択が、情けないんだけど私にはできなかったから、東京で開業したいって理由で親から離れたんだ。結婚できない理由を正直にカミングアウトするより、そのほうが親を悲しませないと思って。
孝 そっかあ。家の事情ってのも、さまざまに関わってくる問題だね。
陽介 だから今はさ、とにかくがむしゃらに働いて、つくった借金を返して、親に認めてもらおうと思ってるの。私はゲイである以上、結婚ができなくて父親の夢を叶えてやれないから、せめて、父と同じ仕事で成功して、尊敬とか感謝っていうのを伝えるしかないんだよね。
――なんかこうして聞いてるとみんな、あえてカミングアウトをしない選択をしてるんだね。ダイバーシティな世の中って言っても、告白できるきっかけは簡単に訪れないし、すれば周りはどうなるんだろうって戸惑いはあるし。でも何よりも、自分にとってかけがえのない人たちとの繋がりを大切にするために、「ストレートに擬態」して生きている印象を受ける。
孝 やっぱり行きつくのは、自分の生きやすさよりも、相手への思いやりっていうことなのかな。
――うん。誰かを大事にすることは必要だよ。愛することで、自分を豊かに感じられる部分はあると思う。
亮平 そうだよ、やっぱり愛だろ? 愛!
陽介 おっさん臭い(笑)。
――(笑)。ただ、ゲイとして生きるにも最低限、暮らしを守れる法律とかは必要だよね。だって生活が保障されてこそ、初めて相手を思いやるゆとりが生まれるわけだから。僕らが今を生きてくなかで、マイノリティとして不都合が生じることはまだまだある……その辺も考えてみなきゃね。
取材・文:オオタサダヲイラスト:ますだみく