100件以上の強姦を供述 現役ミュージシャンの極悪非道な犯行 | FRIDAYデジタル

100件以上の強姦を供述 現役ミュージシャンの極悪非道な犯行

平成を振り返る ノンフィクションライター・小野一光「凶悪事件」の現場から 第8回

100件以上の被害者を出したと供述する強姦魔は、有名ミュージシャンに曲を提供したこともある現役ミュージシャンだった。北九州で発生した衝撃的な事件をノンフィクションライター小野一光氏が当時の取材メモから振り返る。その極悪非道な犯行の一部始終が明らかになった。

アコースティックデュオとして活動するかたわら、有名ミュージシャンやアイドルグループにも曲や歌詞を提供してた
アコースティックデュオとして活動するかたわら、有名ミュージシャンやアイドルグループにも曲や歌詞を提供してた

「1年くらい前に住居侵入の容疑で逮捕された北九州市在住のミュージシャン(起訴状では音楽教室経営)の男がいるんですけど、いま、10件あまりの強盗、強姦(現:強制性交等)、窃盗、強姦未遂の罪で起訴されていて、100件以上の強姦の余罪を自供しているそうなんです……」

福岡県警担当記者の友人から驚きの情報提供を受けたのは、2004年12月のこと。その男、武藤博之(仮名、逮捕時36)が福岡県警に逮捕されたのは03年11月で、時間こそ経ってはいたが、強姦の余罪100件以上という尋常ではない数字のインパクトから、取材を開始することになった。

すぐにわかったのは、武藤はアコースティックデュオでメジャーレーベルからアルバムを出したこともある、現役ミュージシャンだということ。さらには、有名歌手や有名グループにも楽曲を提供しており、なかにはオリコンチャートのトップ10以内に入ったCDもあったのである。

関係者をあたり、彼を知る音楽仲間に辿り着いたところ、一緒にユニットを組んでいた相手への取材をしないことを条件に、話を聞くことができた

「ある日を境に、突然連絡が取れなくなり、しばらくして知り合いから連絡があって、初めて事件について知ったんです。本当に寝耳に水の話で、とにかく驚きました。武藤は曲作りの才能が有り、彼の生み出すメロディーはメジャーで通用するものでした。××(有名歌手)に彼の書き下ろし曲を提供することが決まったときは、『とうとう(依頼が)来たよ』と、かなり嬉しがっていました」

武藤はインディーズで3枚のアルバムと、メジャーで1枚のアルバムを出したが、1999年に活動拠点を実家がある北九州市に移したのだという。

「メジャーアルバムがぱっとせず、地元に戻ってもう1回頑張ろうとの思いで帰郷したんです。ライブハウスや路上で音楽活動を続ける傍ら、自宅で個人経営のボーカルスクールをやっていました」

生徒は10人ほどいて、「優しい先生」と評判だったそうだ。だが、そんな彼には周囲の誰ひとりとして想像できない”裏の顔”があったのである。

起訴された事件の1つは、以下のような犯行内容だ。

午前8時45分頃、女性宅の無施錠のベランダ窓から室内に侵入し、就寝中の彼女に対し、その顔面をタオルで目隠しし、両手首をカーディガンで緊縛。「静かにしろ、言うことを聞けば何もないから」や「おカネはあるか。どこかに隠し持っていても見つけるぞ」などと語気鋭く脅迫し、それから午前11時10分頃まで女性を強姦し、現金約4万円とパンティ2点を強取した。

この件では無施錠のベランダ窓からの侵入であるが、ほかにも無施錠の玄関から室内に入ったケースも数多い。時間帯はほとんど未明から朝にかけてで、就寝中の女性ばかりを狙っていた。また、女性を脅す際には、「声を出したら殺すぞ」や「騒ぐと殺すぞ」、さらには「叫ぶな」や「顔を上げるな」といった言葉も使っている。

犯行時は常に被害者に目隠しをしており、タオルのほかにキャミソールやワンピース、カットソーなどで顔を覆っていた。同時に、ベルトやタオル、シャツなどを使って両手首を縛り、自由を奪った。そのうえで相手を強姦し、金品やパンティなどを奪っていたのだ。

福岡県警担当記者は言う。

「武藤が侵入したのは無施錠の部屋ばかり。犯行については強姦や強盗だけでなく、寝ている女性の下着を刃物で切断したこともあると供述しているようです。また、強姦の最中に写真を撮影することも多かったようで、逮捕後の家宅捜索では、部屋のパソコンから大量の”強姦写真”が発見されています」

被害者が暮らすのは、おもに大学や短大が集中する地域で、単身者用のアパートやマンションばかりが狙われていた。私がその地域で聞き込み取材を行ったところ、友人が同様の被害に遭ったという女子大生に出会った。彼女は語る。

「去年(03年)の夏だったんですけど、1人暮らしをしている友だちが朝方、人の気配で目を覚ましたら、目の前に布で顔を隠した男の人がいて、写メで寝顔を撮ろうとしていたらしいんです。悲鳴を上げたら相手は慌てて逃げていったそうなんですけど、彼女はいまだに傷ついていて、夜とか怖くて寝られないって言ってます」

03年5月に書かれた武藤のブログには、彼の1日のスケジュールについての記述がある(以下抜粋)。

〈朝…いや、昼12時に起床。ただの寝ボスケではなく、前日の仕事を終えて睡眠時間は大体6時間、僕は音楽教室の生徒さんのチャイムに起こされます。なんてぐうたらした先生なんでしょう。自覚がない。申し訳ない。そして大体3時すぎくらいまで授業。その後、お昼寝。この数時間のお昼寝がポイントです。きっとこの時間がなければ、僕はとっくに病院で点滴を受けていることでしょう。そして再び夕方の5時20分頃起きだして、バタバタと用意を整え、夜の仕事へと行くわけです。この、夜の仕事が終わるのが、そうですね、お客さんの入り具合にもよりますが、早くて2時すぎ、遅い日は朝の陽射しの中、帰宅です。なんて働き者なんでしょう〉

だがじつは、この朝帰りは犯行後の帰宅だったりもしたのだ。文中に登場する〈夜の仕事〉とは、01年11月から03年8月まで続けていた、北九州市内の高級クラブでのボーイのアルバイトである。同店の関係者に取材すると、次の言葉が返ってきた。

「真面目で店の女の子に色目を使うようなことなど1度もなかったので、強姦で逮捕されたという話を聞いたときは驚きの一言でした。ただ、去年(03年)の7月頃に肋骨を折ったことがあって、理由を尋ねたら『急いでたので近道しようと塀を越えたら、雨で濡れていたので滑り落ちたんです』と答えていました。いまから考えると、不自然な話だったと思います」

このクラブでは月に1度の割合で武藤のミニライブを開催し、彼は自作の曲を1時間ほど歌い、好評を博していたという。武藤は同ブログのなかで、クラブでの仕事についても触れている。

〈僕の夜のお仕事はいわゆる水商売! 高級とまではいかないが、クラブで女性に囲まれてのお仕事! うらやましいって! そう言われることがよくあるけどなんと男性は、僕ひとりなのだ! そりゃひとり言の連発…とほほ…。ときには、バーテンダーとして、魅惑のカクテルを! ときには、ライブしちゃったり~ ときには、裏方人生! いや~ほんまに大変や~女の子はわがままやし都合ええときだけ甘えてくるしと…世の中女性に囲まれた職場はたくさんあるけど、囲まれすぎてストレス大ダメ! しかしなんやな~、これからは女性の時代とおもうけどもっとええとこみたいな~男と女のかけ引きをず~とみながらいろんなことを考えさせられるのよね~! ラブソングをたくさん書きまくったもののはたしてかけ引きが必要なのか? ストレートに表現するほうが僕にはええかな~〉

そのストレートな表現が、強姦という手段であったとすれば、もはや言葉もない。

  • 取材・文小野一光

小野 一光

ライター

1966年生まれ。福岡県北九州市出身。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーライターに。アフガン内戦や東日本大震災、さまざまな事件現場で取材を行う。主な著書に『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相』(文春文庫)、『全告白 後妻業の女: 「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと』(小学館)、『人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー』 (幻冬舎新書)、『連続殺人犯』(文春文庫)ほか

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