天文学史に金字塔 ブラックホールを捉えた望遠鏡に見学者が殺到中
「1993年、この45m電波望遠鏡を使った観測で、渦巻銀河NGC4258の中心に、秒速1000㎞で高速回転するガス円盤が発見されました。これにより太陽の3900万倍という巨大質量が確認され、それまで存在自体が曖昧だったブラックホールが確実に存在する証拠となったのです」
国立天文台「野辺山宇宙電波観測所」の所長である立松健一教授は、こう語る。
4月10日に全世界同時で発表されたブラックホールの撮影成功を受け、天文学が近年まれにみる盛り上がりを見せている。10連休の間、八ヶ岳山麓にある野辺山観測所には、多くの見学者が詰めかけた。観測所は年末年始を除き、毎日朝8時半から17時(7月下旬~8月は18時)まで敷地内を自由に歩き回ることができる。ただし観測に支障をきたすため、スマホなど電波を出す機器は電源を切らなければならない。
彼方からの電波を捉えて
敷地内には大小さまざまな観測機器が点在し、およそ100機ものアンテナが設置されている。その間を縫って歩いた奥に、ひときわ巨大なパラボラアンテナが聳(そび)え立つ。これこそが、天文学史における金字塔を打ち立てた45m電波望遠鏡だ。野辺山があったればこそ、今回の国際協力プロジェクト(EHT)によるブラックホール撮影も成し遂げられたと言えるだろう。同観測所でブラックホール研究に従事する、竹川俊也特任研究員が言う。
「現在、私が探しているのは、未発見の中間質量ブラックホールを示唆するガス雲です。
この前、世界同時発表されたものは、太陽の数百万倍から数十億倍という超大質量のブラックホール。一方、恒星が一生の最後に超新星爆発したときに作られる比較的小さなブラックホールもあります。ですが、それらの中間的な大きさのものは見つかっておらず、ブラックホールのミッシングリンクと呼ばれてきました。
先日、ここの45m電波望遠鏡で見つけた特殊な分子ガス雲を、チリにあるアルマ望遠鏡でさらに詳しく調べました。その結果、太陽の3万倍の質量を持つ中間質量ブラックホールの存在が明らかになり、今年1月に成果を発表したのです」
45m電波望遠鏡は、37年前、当時世界最大のミリ波望遠鏡として作られたが、まだまだ現役だ。立松所長は、未来の天文学者である子供たちに、間近でぜひこの勇姿を見てほしい、と話す。8月下旬には年に一度の特別公開も実施され、普段は入れない観測室などを公開、研究者が最新の研究成果を説明するという。
高さ50m、重さ700tの巨大望遠鏡は、観測中、グオーン、グオーンと音を立てながらゆっくり動いてターゲットとする観測天体を追尾していく。パラボラが向いている空の向こうの、さらにその何千光年か先にある観測天体から届く、かすかな電波。それに耳を澄ませる望遠鏡の姿を見れば、誰しもが壮大な思いにかられることだろう。





巨大なアンテナは、今日も宇宙からの電波を捉えている




国立天文台 野辺山宇宙電波観測所
長野県南佐久郡南牧村野辺山462-2
https://www.nro.nao.ac.jp
『FRIDAY』2019年5月31日号より
取材・文:梅本真由美撮影:濱﨑慎治