ダーリンハニー吉川さん推薦「2万円以下」で大満足 “観光列車”
趣向を凝らした内装、おいしい料理、車窓を流れる美しい風景……各地で観光列車が話題になっている。だが、気になるのが料金。「いくら素敵でも、数万円はちょっと」という人も多いだろう。そこで、全国の路線はほぼ制覇したという鉄道芸人ダーリンハニー吉川さんに、2万円以下でも十分満足できる観光列車を紹介してもらった。
寒天列車 明知鉄道 5500円
スタートは1987年! 素朴さが魅力の元祖レストラン列車
現在、全国各地で走っている食事付きの観光列車だが、その草分け的存在といえるのが、岐阜県の恵那駅~明智駅間を走っている「寒天列車」だ。なんとスタートは1987年! 30年以上の歴史をもっているのだ。
明知鉄道の駅がある恵那市山岡町は細寒天の生産量が日本一。料理は、その細寒天を使った懐石料理。
「この料理がおいしいんです。『寒天って、こんなにバリエーションがあるの?』というくらい、20種類近い料理が楽しめるんです」(ダーリンハニー吉川さん 以下同)
窓の外には、田んぼと山の「これぞ日本の農村風景」という景色が広がり、車内には長テーブルが置かれ、隣り合った人たちと話もはずむ。
「今は豪華な観光列車が多いですが、素朴で、シンプルで、それがいいんです。リピーターの方も多くて、『またお会いしましたね』なんて挨拶が交わされていたり……。僕も何回も乗ってます」
土日祝日だけ運行する観光列車が多いなかで、「寒天列車」は月曜日以外9月30日まで連日運行。秋になると「寒天列車」に代わって「きのこ列車」、冬には「じねんじょ列車」が走る。
伊予灘ものがたり JR四国 4430円~6760円
地元の人のおもてなしと、伊予灘に沈む夕日が最高!
愛媛県の松山駅~伊予大洲駅・八幡浜駅間を走る観光列車「伊予灘ものがたり」。
「列車が走ってくれるのを見ると、地元の方が家から出てきて、手を振ってくれるんです。自然発生的に始まったもので、最初はそれほどでもなかったんですけど、今では本当にたくさんの人が手を振ってくれる。列車から、その様子を見ると、すごく感動します」
運行ルートは、松山駅から伊予大洲駅までの「大洲編」、伊予大洲駅から松山駅までの「双海(ふたみ)編」、松山駅から八幡浜駅までの「八幡浜編」、八幡浜駅から松山駅までの「道後編」の4つがある。
「田園地帯と海沿いを走るんですけど、とにかく車窓の景色が素晴らしい。朝も昼もきれいなんですけど、僕がとくにおすすめしたいのは夕方走る『道後編』。この列車に乗ると、時期によっては伊予灘に沈む夕日が車窓から見えるんです。これが惚れ惚れするほど、きれい。ルートごとに趣向を凝らしたお食事もおいしいです」
上記に紹介した価格は食事券込みのもの。乗車券と普通列車グリーン券のみで乗車することもでき、その場合は、松山駅~伊予大洲駅1930円、松山駅~八幡浜駅2260円となる。
雪月花 えちごトキめき鉄道 17500円
国内最大級の大きな窓からの景色を眺めながら、ゴージャスな三段重の食事
新潟県の上越妙高駅~糸魚川駅を走る「雪月花」。
「この列車は、まさしく海と山の景色を楽しめる列車。ものすごく窓が広いんです。窓の広さは国内最大級です。その広い窓から妙高山脈や日本海が見える。爽快です」
古い車両を改造している観光列車が多いなか、2016年にデビューした「雪月花」は新しく作られた車両。国内最大級といわれる窓からはダイナミックな景色が楽しめる。
「途中、二本木駅ではスイッチバックをしますし、筒石駅は全国でも珍しいトンネルの中にあるもぐら駅。スイッチバックやもぐら駅を大きな窓から見ることができるのも楽しいです」
「雪月花」は、基本的に土日祝日に運行し、上越妙高駅から糸魚川駅へ向かう午前便と、糸魚川駅から上越妙高駅に向かう午後便があり、午前便では洋食、午後便では和食が提供される。
「このお食事が、びっくりするほどおいしいんです。洋食は、『ミシュランガイド東京』で星を獲得している飯塚隆太シェフが、和食は地元の名店『割烹 鶴来家』の五代目、青木孝夫氏が監修。三段重のお重に地元産の野菜や魚介類を使った料理がギュッと詰まっている。ごちそうをいただきながら、車窓を眺める。極上の贅沢ですね」
西武 旅するレストラン「52席の至福」 西武鉄道 10000円(ブランチ)、15000円(ディナー)
オープンキッチンで、出来立ての食事が楽しめる
都内から出発する食事付き観光列車として人気なのが、この西武 旅するレストラン「52席の至福」。土日祝日に、池袋駅や西武新宿駅から西武秩父駅に向かうブランチコースと、西武秩父駅から池袋駅や西武新宿駅に向かうディナーコースのほか、池袋線内を走り、池袋駅から池袋駅に戻る「IKEBUKUROディナーコース」があり、バレンタインデーなど平日特別に運行するコースもある。
「『旅するレストラン』という名前どおり、まさしくレストラン列車なんです。4両編成で、2両がレストラン車両、1両がオープンスペースで、もう1両がオープンキッチンになっていて、料理を作っているところを見ることができる。内装と外装のデザインは、新国立競技場を手がけている建築家の隈研吾さんの監修で、西川材(杉材)がふんだんに使われていて、気持ちがいいです」
食事のメニューは季節ごとに変わり、フレンチだったり、中華だったり、イタリアンだったり、何度乗っても飽きることがない。
「都心から出発する数少ない観光列車。池袋や新宿の都心から、だんだん秩父の山の中に入っていく……。旅行に出かけるという気分が盛り上がって、いいんです」
西武秩父駅前には「西武秩父駅前温泉 祭の湯」という、“祭”をデザインコンセプトにした複合型温泉施設があり、秩父の美しい景色を眺めながら温泉が楽しめる。秩父で遊んでから、西武秩父発のディナーコースの列車に乗って帰ってくるという贅沢も楽しめる。
しまかぜ 近鉄 4610円~5560円(※)
本革製のシート、バリエーション豊富な個室でゆったり旅
「しまかぜ」の出発駅は、大阪難波、京都、近鉄名古屋の3駅。いずれも三重県の賢島を目指す。大阪難波駅~賢島駅は4950円、京都駅~賢島駅は5560円、近鉄名古屋駅~賢島駅は4610円だ。大都市から出発するので、利用しやすい。
「この列車は、シートが本革製で座り心地がめちゃめちゃいい。前後間隔が125㎝もあるので、ゆったり旅ができます。6両編成で、1号車と6号車は床が72㎝高くなっているので、空が迫ってくる感じ。グループだったら、1030円足して個室も利用できる。掘りごたつ風の和風個室や、窓に向かってL字型にソファが配置された洋風個室など、バリエーションもいろいろあるんです」
いちばん前の座席がとれれば、列車の前に広がる景色も楽しめるが、そこがとれなくても大丈夫。
「車内で無料提供されているWi-Fiサービスの映像コンテンツ『しまかぜチャンネル』では、列車の前方、後方の映像が映し出されて、これがまた楽しいんです」
食事付きの観光列車ではないが、車内にはカフェ車両があって、ここで食事を楽しむことができる。
「僕が好きなのは“海の幸ピラフ”。たっぷり海の幸が乗っていて、おいしいんです。ほかに松阪牛カレーや松阪牛重もありますし、お弁当を買うこともできます。スイーツもいろいろあって楽しいです」
※普通運賃+特急料金+しまかぜ特別車両料金の合計額
特急 A列車で行こう JR九州 2840円
“水戸岡デザイン”を堪能しつつ、バーでゆったり大人の時間
意匠を凝らした内装で、人気の高い水戸岡鋭治氏デザインの車両。「ななつ星in九州」がデビューしたときには、その豪華さが話題になった。九州では、“水戸岡デザイン”の観光列車が何本も走っているが、
「短時間ですが、“水戸岡デザイン”を楽しめるのが『A列車で行こう』です。車両がホームに近づいてくると、ジャズの名曲『A列車で行こう』が流れて、期待感満点の中で乗車する。窓の一部がステンドグラスになっていたり、座席の柄も凝っているし、ソファ席や、セミコンパートメント席もあって、まさに“ザ・水戸岡デザイン”という感じで豪華です」
列車が走るのは熊本駅~三角駅間。30~40分の路線なので、食事は出ないが、
「『A-TRAIN BAR』と名付けられたバーがあるんです。ハイボールやチョコレートなどのおつまみが用意されているんですけど、僕が大好きなのは『“A”ハイボール(デコポン)』。地元産のデコポンを使っていて、これがおいしいんです。
30~40分の旅なので、短い気がしますけど、短いからこそ余韻が残って、そこがまたいいんです」
地元の人と触れ合いながら食事を楽しむもよし、豪華な車内でコース料理に舌鼓をうつもよし。さまざまな楽しみ方ができる観光列車。週末、ちょっと足を延ばして列車の旅を楽しんではいかが?
ダーリンハニー吉川 2000年、太田プロライブでデビュー。2歳のときから鉄道好きになり、全国の路線をほぼ制覇。『タモリ倶楽部』では“タモリ電車クラブ”の会員として、『笑神様は突然に…』では鉄道BIG4の一員として多数テレビに出演。現在、『新・鉄道ひとり旅』(スカパー)にレギュラー出演中。著書に『ダーリンハニー吉川の全国縦断鉄博巡り』(メタモル出版)。
- 取材・文:中川いづみ
ライター
東京都生まれ。フリーライターとして講談社、小学館、PHP研究所などの雑誌や書籍を手がける。携わった書籍は『近藤典子の片づく』寸法図鑑』(講談社)、『片付けが生んだ奇跡』(小学館)、『車いすのダンサー』(PHP研究所)など。