パンダのシャンシャンを中国に返還しなければならない本当の理由 | FRIDAYデジタル

パンダのシャンシャンを中国に返還しなければならない本当の理由

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6月12日に2歳の誕生日を迎える上野動物園のシャンシャン(メス)。「早ければ6月にも中国に返還されるのでは」との報道もあり、最後に一目愛らしい姿を見ようと多くの人が連日列をつくっている。 

シャンシャンの今後に関しては、現在、東京都と中国との間で話し合われているというが、「パンダ2歳返還説」の真相を上野動物園の前園長で、現在日本パンダ保護協会の会長を務めている土居利光氏に聞いた。

 日本にずっといると、シャンシャンは孤独!?

上野動物園のリーリーとシンシン、そしてシャンシャンの3頭のパンダをはじめ、現在日本には全部で10頭のパンダがいる。中国との協定で子供が生まれた場合「2歳になったら帰ってしまう」ともっぱらの噂だが、かわいいシャンシャンも6月に中国に戻ることになってしまうのだろうか。

「生後24ヵ月になったら、中国と東京都が協議をするということで、すぐ戻すわけではありません。ただ、いつかはシャンシャンも中国に戻るでしょう。なぜなら、日本にいてもシャンシャンは一人ぼっちで過ごさなくてはなりません。いなくなるのはさみしいかもしれませんが、中国へ帰って、いいパートナーと巡り合って、自分たちの子孫を増やすことが、シャンシャンにとっての幸せなのです」

 親子でいるのは1歳半まで。その後はオスをめぐるライバル!?

1歳半になったころから、母親のシンシンから離れて一人暮らしを始めたシャンシャン。まだ体も大人のパンダより小さく、親と離されるのはかわいそうに思えたが、

「野生のパンダは、だいたい1歳半から2歳ぐらいで親と離れて自立します。それまでは親と一緒にいて、どういうエサを食べたらいいのか、パンダ同士でどうコミュニケーションをとったらいいのかなど、生きていくために必要なことを学びます。そして、それ以上学ぶ必要がなくなったら、自然に親から離れていく。

動物は子孫を残すことが重要ですが、自分のテリトリーに乳を飲む子どもがいると発情期がこないんです。子パンダにとっても、早く自分の生息地域を見つけ、パートナーと出会わなければならない。それがパンダにとっての幸せなのです」

3歳ぐらいになると、性成熟期を迎えるパンダ。

「そのころになると、親子というより、自分自身で生きていく独立した個体同士。パンダは成長するにつれて、親のことを忘れてしまう。父親パンダにいたっては、交尾後すぐにメスのもとを離れるので、子どもが生まれたとすら知らない。それが彼らの生き方なのです。動物には、それぞれの生き方がある。それを尊重してあげてください」

あの大胆なツートンカラーは、パートナーと出会うため!?

パンダが白黒模様なのには、大きく2つの説がある。1つは天敵から身を守るため。パンダが生息している山岳地帯には、昔、ヒョウやトラも住んでいたと考えられている。クマ科だが冬眠しないパンダは草木が枯れて見晴らしがきく冬季、それらの肉食獣から認識されにくくする必要があったという説だ。そして、もう一つは仲間同士識別しやすくするためというもの。

「実は現在でも、なぜあの模様なのかはわかっていません。けれど、私は仲間同士識別しやすくするためだと思います。もし、天敵がいたら、エサを食べるときも、あのように座った態勢ではなく、すぐに逃げられる態勢をとっているはずです。なので、天敵説はちょっと疑問に思います」

パンダの赤ちゃんは100~200g。人間の手のひらにのってしまうほどの小ささで生まれる。これも天敵がいなかったためと考えられるそうだ。

「野生では、母親パンダは子どもが生まれたら3日間ほど、飲まず食わずで面倒をみます。そんなとき天敵に襲われたら逃げられない。しかも、発情期は1年に一度で、たいてい1頭しか生まない。そのようなことから考えても、天敵がいたとは考えにくい。それも、私が個体識別説を支持する理由です」

メスのパンダは、5平方キロをテリトリーとしていて、発情期になると、オスはメスが発する匂いなどに惹かれて近づいてくるという。視力はあまりよくないと考えられているので、お互いを認識するためにあの大胆なツートンカラーが必要だったのだ。

遺伝子から管理されている中国のパンダ

中国で野生のパンダが生息しているのは、四川省、甘粛省(かんしゅくしょう)、陜西省(せんせいしょう)の3省。四国よりひと回り広い地域だ。中国政府の調査によると(2015年2月発表)、野生のパンダは1864頭。2000頭弱が四国より広いところに暮らしているのだから、単独行動が基本のパンダにとってパートナーと出会うのは至難の技だと思われる。

近年の問題としては、開発により地域が分断され、近親交配が多くなり、死産などが増えてきたという。このため、中国はアメリカと共同でパンダの遺伝子を調査し、遺伝子的に相性がいい相手とペアリングさせようとしている。

「この3省には、広大な保護区が設けられています。シャンシャンも、遺伝子を調べられ、いいパートナーとなるオスがいる繁殖基地に戻され、いつかお母さんになるでしょう」

 パンダの主食である竹はいっせいに開花し、その後枯れる。1970年代には、ある地域の竹がいっせいに枯れ、多くのパンダが餓死してしまったことがある。このことをきっかけに、中国政府はパンダの保護に力を入れ、2003年の調査では約1600頭だった野生のパンダも、徐々に増えてきている。

「今、さまざまな種類の動物が絶滅危惧種と言われていますが、一つの種が絶滅すれば、生態系全体が変わってしまうこともある。環境を大事にしなければいけないのは人間も同じ。『かわいい』というだけでなく、パンダを通して、我々人間はどう生きていけばいいのか考えてもらえるとうれしいです」

 6月12日のシャンシャンの誕生日を記念して、PARCO_ya上野では『ハッピーパンダフルデイズ』を開催(5月22日~6月18日)。隣接する松坂屋上野店ではシャンシャンの写真展も開催されている。

土居利光 千葉大学卒業後、東京都庁に入庁。多摩動物園長を経て、2011年~2017年、上野動物園園長。2012年7月12日には、ジャイアントパンダの雌シンシンの赤ちゃんが肺炎で死んだ件に関しての記者会見を開き、涙を流しながら会見した。現在、日本パンダ保護協会会長、首都大学東京の客員教授を務めている。

  • 取材・文中川いづみ写真日本パンダ保護協会/アフロ

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