7人中6人辞任「批評家なき」日本映画批評家大賞に価値はあるか? | FRIDAYデジタル
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7人中6人辞任「批評家なき」日本映画批評家大賞に価値はあるか?

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19年5月30日に授賞式が行われる第28回日本映画批評家大賞のHP。ここに選考委員の記載は無い(オフィシャルHPより)
19年5月30日に授賞式が行われる第28回日本映画批評家大賞のHP。ここに選考委員の記載は無い(オフィシャルHPより)

5月30日に東京・青山にあるスパイラルホールで授賞式が行われる『第28回日本映画批評家大賞』。今年は作品賞に『焼肉ドラゴン』、主演男優賞に柄本佑、主演女優賞には石橋静河が選出されているが、どうも雲行きが怪しい。

この賞についてオフィシャルHPには、
《1991年 水野晴郎が発起人となり、淀川長治、小森和子等、 当時第一線で活躍していた現役の映画批評家たちの提唱により誕生した。「批評家による批評家だけの目で選んだ他に類を見ない」賞です》
と書かれているのだが…。

「08年に水野晴郎さんが亡くなったあとも、彼の愛弟子である“ボンちゃん”こと西田和昭氏が代表理事として、映画賞を運営してきた。だが、彼の借金などが問題となり、18年にはその座に留まることが難しくなった。代表理事が替わるなどのドタバタで、昨年は授賞式ができなかったんですよ」(スポーツ紙記者)

昨年は主演俳優に木村拓哉、主演女優賞に満島ひかりが選ばれたものの、27回目にして初めて授賞式は行われなかった。選考委員を務めた津島令子氏は、そのときの混乱ぶりを振り返る。

「18年1月に選考委員を集めたとき、西田さんから新しい代表理事ということでT氏という人物を紹介されました。どうも、彼が西田氏の借金を何百万円か肩代わりしたそうなんです。でも、どういう経緯で代表理事を引き継いだのか、詳しい説明がありませんでした。T氏は音楽プロデューサーと名乗っていましたが、知り合いの音楽関係者に聞いても知らないようでしたし、何をしているのか良く分からない人でしたね」

選考委員は基本的にはギャラも交通費も支払われない。パンフレットに受賞の推薦理由を署名で書くと、1本5千円の原稿料が入る。なので、運営にはまったく関わっておらず、どんなお金の流れになっているか分からないという。

「昨年の選考会議に当初、T氏が来てなかったんです。代表理事なのにそれはおかしいだろうっていうことで、事務局を通じて連絡して来てもらった。そんなことからも分かるように、T氏からは映画に対する愛情がまったく感じられないんです。普段は映画を見ていなかったとしても、せめて選考に上がった映画はDVDででも見るじゃないですか。そんな気すらなさそうでしたからね」(同・津島氏)

そんな中、18年5月にT氏より授賞式の中止が一方的に選考委員に伝えられた。一度は原宿のライブハウスでの開催が決まっていたものを反故にしたのだ。
代表選考委員だった野島孝一氏は怒りをにじませる。

「T氏は授賞式をやるっていったのに、やらない。その理由を聞いたら『選考委員と信頼関係を保てないから』と。しかも、中止理由を聞いた別の選考委員に対して『出ていけ!』と怒鳴ったんです。運営スタッフにも『クビだ!』とキレたりする彼の姿を見るうちに、この人とは一緒にやって行けないと思ったんです」

それは、他の選考委員も同様の意見だったようだ。国弘よう子氏も、

「Tさんは『お金はあります。やりましょう』と言っても、結局はできない。大きいことおっしゃるんだけど、いざというときになるとスッと逃げちゃうんですよ。そんな態度を見ていて、歴史ある『日本映画批評家大賞』をこのまま続けていたらみっともないものになっちゃうと思ったんです。だったら辞めた方がいいと。だから、本当に『日本映画批評家大賞』の名前は外してほしいですね」

そこで18年に代表選考委員の野島氏が、
「批評家は解散する」
と宣言。7人の選考委員は解散することになった。

「選考委員は解散したままなのに、今年に入って第28回の受賞者が発表され、5月30日には都内で授賞式もすることを聞いてびっくりしました。私たちのところには事務局から『一緒にやりましょう』というメールが来ていたのですが、Sさんを除く6人の選考委員は無視していました。いろいろな評論家やライターの方々に、誰が日本映画批評家大賞の選考委員をしているのか聞いてみても、Sさん以外は誰がやっているか分からないんです」(前出・津島氏)

昨年までは、HPなどで選考委員である批評家の名前は開示されていた。だが、今年は明らかにされていない。
そこで、どんな批評家が選考したのか代表理事であるT氏に事情を聴こうと事務局に電話すると、事務局長と名乗る金子尚樹氏から折り返し連絡があった。

「T氏は代表理事から離れるので、私が代表理事になることになりました。ですので、今回の受賞式などの責任者は私ですので、私が答えたいと思います」

そこで、改めて選考委員についてたずねると、

「今回から選考委員については、無記名で行うことになりました。Sさんは戻ってきてくれましたが、そのほかの選考委員の方々はダメでした。なので、地方紙の映画記者のご協力も得ています。今回は7人の方に選考委員になっていただきました。それ以上のことは明らかにすることはできません」(金子氏)
とのことだった。

だが、選考委員を降りた6人の内のひとりである垣井道弘氏はあきれ顔で話す。

「我々は批評家として名前を出してみんなで話し合い、責任を持って選んできたわけです。7人のうち1人は残りましたが、批評家のいない批評家大賞なんてありえない。選考者を明らかにして、選考理由をここまで詳しく書くのは、この賞くらいなんです。彼らが映画賞を開催するのは勝手ですが、『日本映画批評家大賞』という名前は使ってほしくないですね」

日本映画批評家大賞とは、《批評家による批評家だけの目で選んだ他に類を見ない賞》なのだ。水野晴郎さんをはじめ、淀川長治さんや小森和子さん、そして昨年まで選考委員を務めた批評家たちは皆、名前を出して選んできた。

それなのに、誰が選んだかも分からない賞を、今年の受賞者はどんな気持ちで受け取るのだろうか――。

 

  • 取材・文荒木田 範文(FRIDAYデジタル芸能デスク)

    埼玉県さいたま市出身。夕刊紙、女性週刊誌を経て現職。テレビやラジオなどにも出演中

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