世界中で大ブーム 日本発祥「水槽アート」の幻想的な世界

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水草の光合成を眼前に見て感動しました

「僕がこの世界にハマったきっかけは、娘がお祭りの夜店で取ってきた金魚でした。とりあえず水槽セットを買って、説明書を頼りにセッティングして泳がせてみたら、あ、綺麗なもんだなって。

水槽の取り扱い方法をネットで調べていく中で見つけたのが、水草レイアウトの作品画像です。こんな綺麗な水槽が作れるのか、と驚きました。

その後、仕事の撮影で水草レイアウトの情景を使うことにしました。’10年のことです。スタジオに専門家を呼んで、一から水槽を作ってもらい、あれこれと質問もしました。それで撮影後に、その日使った道具を丸ごと譲ってくれないか、とお願いしたんです」

こう語るのは、マンガ家・アートディレクターであるタナカカツキ氏(写真)。タナカ氏は水槽美術の愛好家が集う「世界水草レイアウトコンテスト」の世界ランカーとしても知られている。タナカ氏が続ける。

「譲ってもらった水槽は、幅120㎝、高さ45㎝、奥行き45㎝(=200ℓ以上)。道具もすべて高級品でしたが、交渉して50万円で譲ってもらいました。

まずは水草を育てるところから始めますが、最初は道具の扱い方さえおぼつかない。とにかく愛好者のブログを調べまわって知識を詰めこみ、あれこれと失敗しながらも、ある程度対応できるようになりました。

始めて1年が経った頃でしょうか。水槽に水草を入れると、苔が出たり、水面に油膜が張ったりするのですが、水がどんどん透明になるんです。3ヵ月くらい経つと、キラッキラの水になる。それをこの世界では『水ができあがる』とか『強い水ができる』と言います。すると、水草から気泡がプクプクと出てきて、まるで炭酸水のように気泡が水面に上っていく。水草の光合成を目にするという体験は初めてでした。

魚も色艶が良くなって、群れになって泳ぎ、生き生きと動き出すんです。たぶん魚って本来はこういう動き方をするんだって思いました。生態系がバチッとできた瞬間です。室内でこれほどの自然体験ができるんだと感動しました。そこからさらに本腰が入りましたね」

水草レイアウトは、水槽の中に一枚の絵を作るという点で、タナカ氏の本業であるマンガに通じるところがあるのだという。さしずめ水草がペンと絵の具というわけだ。

「コンテストに出品するときは、まずどんな水槽にするか、絵を描きながら構図を練ります。次に石や流木、ソイルと呼ばれる底床材で土台を作って水草を植えますが、ここではまだ水を入れず、十分に霧吹きをして蓋をし、水槽内に水分を閉じこめます。1ヵ月ほどで草が根を張るので、そこで水を投入するんです。水草を植えてから完成するまでの期間は、僕の場合は8ヵ月ほどが多いですね」

’16年には銀賞(世界ランク4位)を受賞、今も世界一を目指して新たな作品を作り続けているという。

2011年からコンテストに出品しているタナカカツキ氏。この水槽は2015年に世界ランク8位になった作品で、「源流をたどる」というタイトルがついている
週に1回、伸びすぎた水草をハサミで切って整える。水草カットのための専用ハサミは1万円もする。ひとつの作品に使う水草は、多い年で50種類
光が弱いと水草は光を探すように縦に伸び、光が強すぎると地面を這うように成長する。さまざまな水草の要求を見分け、水草が感じる赤や青の光の波長を照明器具で調整するのも腕の見せどころ
2016年に銀賞を獲得した「光陰」という作品

独創的なデザインが人気に

’01年に始まった「世界水草レイアウトコンテスト」は、今や60ヵ国から2000作品も応募がある。主催の(株)アクアデザインアマノ・阿部正敏氏が言う。

「一般には、水草は魚を飼うときに数本入れる、いわば添え物のような存在です。ですが、弊社は、より自然に近い景観を作るためのネイチャーアクアリウムを提唱し、こうした水草の豊かな世界を知ってもらおうと世界コンテストを開催するようになりました」

毎年、世界中から選出された審査員によってランキングが決められる。

「育成技術が進化して、たくさんの水草をきれいに育てることが可能になり、審査する側から見ても、その創造性に圧倒される作品が数多く寄せられます。

近年では、自然な水景の構築でなく、陸上の世界を水中で再現するようなユニークな作品が増えてきました。大小さまざまな石を接着剤でくっつけて岩場を表現したり、木の枝に苔を貼り付けて熱帯雨林を模してみるなど、ジオラマ的なデザインが人気を博しています。水槽内に魚はいなくてもかまわないのですが、魚が排出する糞や尿は水草の栄養になり、水草がよく育つ。魚と水草と微生物という生態系ができあがっているのです」

これまでマレーシア、フランス、ベトナム、中国などの愛好家がグランプリ(1位)に輝いている。昨年の覇者は日本。今年も8月に結果が発表される予定だ。

廖國宏(台湾) 「(無題)」/コンテストは無料で誰でも参加できるが、応募写真は水槽全景を入れて正面から撮影したもの、というルールがあるため、水槽内がベストの瞬間を捉える撮影技術も重要だ。この作品は2018年の315位。水面のゆらぎが映り込んでおり、かえって水槽らしさがよくわかる
ミハエル・レロイ(フランス) 「石の森」/2015年、23位ながら斬新さが際立った作品。まるで中国・桂林のような奇岩がそそり立つ光景と、魚の黒と白のストライプがシャープさを感じさせる。極限まで色を抑え、水中というより空中を魚が漂っているような錯覚に
アドリアーノ・モントロ・ニカシオ(ブラジル) 「友に捧ぐ」/2016年、タナカ氏に次いで世界ランク5位に輝いた作品。緑だけでなく赤や黄色の鮮やかな色の水草や赤褐色の木が配置され、奥行きを表現する砂の色にも赤色が。緑と青がベースとなっている作品が多いため、ひときわ目立つ

『FRIDAY』2019年6月7日号より

  • 水槽画像提供㈱アクアデザインアマノ

Photo Gallary8

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