干物女を生んだ漫画『ホタルノヒカリ』が働く女子を自由にした?

〈平成の名作漫画を振り返る〉著者・ひうらさとる氏にきく「干物女」誕生秘話

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“干物女(ひものおんな)”という言葉を生み出し、社会現象にもなったメガヒット漫画『ホタルノヒカリ 』。恋に仕事に日々奮闘する主人公・雨宮蛍のリアルな姿を描き、働く女子にエールを贈る物語は今もなお胸を打つ。女性の生き方が大きく変わった現在でも、時に叱咤し、時に癒し、時に背中を押してくれる同作。どんな想いでこの作品を描いていたのか、作者のひうらさとる氏に話を聞いた。

〔あらすじ〕雨宮蛍は会社ではばっちりキメて仕事もバリバリこなす、デキるOL。でも、家ではジャージにちょんまげ頭、散らかしっぱなしでゴロゴロしまくりな“干物女”。そんな蛍が、几帳面でマジメな部長の高野誠一と同居することになってしまい波乱の生活がスタート。 さらに、蛍の前にロンドンから帰国した気鋭のデザイナー・手嶋マコトが現れ、久しく恋愛を忘れていた蛍の心が動き出すーー!?

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女性たちの上昇志向への疲れをいち早く捉え共感を集めた

──『ホタルノヒカリ』が漫画雑誌「Kiss」で連載スタートしたのが2004年、連載終了が2009年。そこから10年が経ち、女性たちを取り巻く環境、価値観……さまざまなものが変化しました。『ホタルノヒカリ』や主人公の雨宮蛍をいま振り返って、どう感じますか?

連載が始まった頃や、ドラマ化した時は特にまわりの男性から「(デキる女の赤裸々な実態が)信じられない!」という反応を受けました。でも蛍のような女性はいまやもう普通で、すっかり市民権を得たなと思います。現在連載中の『ホタルノヒカリ BABY』を描くにあたり改めて読み返しましたが、働く環境や生活の豊かさとしてはむしろ恵まれすぎているほうですよね。

──こういった、価値観の静かながらも大きな変化は、この作品が与えた影響も大きいと感じます。『ホタルノヒカリ』はひうらさんにとってどんな作品になりましたか。

綾瀬はるかさん主演でドラマ化されたり、いろいろなメディアに取り上げていただいたりと、みなさんの反応をありがたく感じることの多かった作品でした。一番は、今まで考えていたことがようやく自然に描けた作品であり、それが私自身においてエポックメイキングな作品でした。

──世の中だけでなく、ひうらさんご自身にとっても革新的な作品だったのですね。“干物女”のアイデア、雨宮蛍の物語はどのように生まれたのでしょうか。

当時、私より10歳くらい年下、蛍と同世代のバリバリ働いている編集さんやアシスタントの女の子たちが、実は恋愛や上昇志向に対して意外に冷めていることが私にとっては新鮮な発見で、それが元になっています。

自分が乗り越えてきたことを、妹たちに向けて語りかけるようなスタンスでずっと描き続けていましたが、この作品では、それまでに感じたことのない確かな手応えがありました。実は、“干物女”というネーミングはたまたまセリフの中で思いついて使っただけだったのですが……蓋を開けてみたらすごく反響があって、びっくりしましたね。

ただ、ドラマやメディアで取り上げていただく時、そういう女の子たちを非難するような扱いにしないで欲しいと伝えたりと、そこだけは気をつけました。

──“干物女”というワードに愛情を感じるのは、送り手のそうした気持ちが反映されているからだと思います。寄せられたファンの声で印象深かったものがあれば教えてください。

蛍や高野部長だけでなくマコトや山田姉さんまで、読者のみなさんがまるで親戚のように親しみを感じてくれていたのが嬉しかったです。サイン会などで会った女の子たちが「私も干物です!」と言うのですが、みんな可愛くって。

そのあたりが、今の“ふつうにキレイな子たちが実はオタク”という現象にもつながっているのかなと。

──蛍のように「キラキラしていない自分」を隠して生きる人がいるのは、特にSNS上では2019年の今も変わらない気がします。等身大の自分を出したくても出せない、その挙句疲れてしまう……そんな人に向けてひうらさんならどんな言葉をかけますか。

息をするようにSNSを使いこなしている世代は、SNSの人格もまた自分なのではないでしょうか? まぁそれでも、自分を隠すことに疲れるなら距離を置くのもいいと思いますが、例えば見栄を張って“盛りすぎて”しまう自分も、そういった願望を持つ等身大な自分だと考えると楽になると思いますよ。

──『ホタルノヒカリ』後は、『ホタルノヒカリSP』に続き、現在「Kiss」で蛍と部長の子育てを描いた『ホタルノヒカリBABY 』を連載されていますが、この作品はひうらさんご自身が出産・育児をしている中で生まれたのでしょうか。

代表作の続編ってちょっと難しいなと思っていたので、『ホタルノヒカリSP』で変化球を投げてみたら、オタク系の子たちから大変ご好評いただきました。一方で、以前からのホタルファンのみなさんからは「もっと蛍と高野部長が見たい!」という感想もあって。

編集部からも「子育て編はまた別に連載して欲しい」と要望があり、「蛍の子ってどんな子かな? 生まれた時から部長みたいだったら面白いかな」と一(はじめ)のキャラクターを考えました。

もちろん私の子育て経験も入っていますが、昨今の世の中に出ている子育て関連の情報が「子育ては大変! ママはつらい!」というものが多すぎる気がして。なるべく独身の読者が読んでも楽しい、蛍たちらしい気楽な子育てを描くようにしています。

──最終巻のあとがきにあったように、『ホタルノヒカリ』の蛍は自由になるための物語だったと思います。連載中の『ホタルノヒカリ BABY』は蛍のどんな物語になるのか、楽しみにしています。

『ホタルノヒカリ BABY』は特に大変なドラマも起きないし、蛍も部長もそんなに成長しませんが、初期の『ホタルノヒカリ』みたいに日常生活を淡々と楽しく描いていきたいと思います。

バブル崩壊後であっても、キレイに巻いた髪、高価な服やバッグにビシッとハイヒールでキメるのが主流だったあの時代。デキるOLの私生活が実は“干物女”であるという設定は、世の中に衝撃を与えた。同時に、“干物女”というワードの出現によって潜在していたリアルな「蛍女子」たちが市民権を得たといっても過言ではない。

今やオフィスカジュアルが主流となり、スニーカーにリュック姿で出勤する女性も珍しいものではなくなった。おひとりさまを楽しむ生き方や肩肘はらない私生活を公言し、周囲も自然に受け入れる。『ホタルノヒカリ 』は、そうした一段階進んだ自由な時代に進むきっかけとなった作品だ。

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  • 取材・文川俣綾加

    福岡県出身のライター。漫画、アニメの取材記事や解説などを媒体を問わず執筆中。著書に『ビジュアルとキャッチで魅せる POPの見本帳』『ねこのおしごと』のほか写真集『小雪怒ってなどいない!』(岡田モフリシャス名義)。

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