蒼井優、山崎努らの競演が光る『長いお別れ』想像と違う味わい | FRIDAYデジタル

蒼井優、山崎努らの競演が光る『長いお別れ』想像と違う味わい

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「認知症」がテーマの映画と聞くと、どうしても身構えてしまう。だが、蒼井優、竹内結子、松原智恵子、山崎努らが演じる『長いお別れ』(5月31日~公開中)を実際に観てみると、事前の想像とはかなり異なる感情に包まれる。『長いお別れ』はそんな作品だ。

『長いお別れ』 (C)2019『長いお別れ』製作委員会 (C)中島京子/文藝春秋
『長いお別れ』 (C)2019『長いお別れ』製作委員会 (C)中島京子/文藝春秋

この作品は、認知症になり徐々に記憶を失って行く父と、その家族の7年間の日々を描いている。『長いお別れ』という題名を見れば、物語の大きな流れは誰にでも想像できるだろう。

かつて、「認知症」が「痴ほう症」と呼ばれていた頃、「認知症」をテーマにした映画は、観客にとってあまりにもショッキングだった。『恍惚の人』(1973年作品。出演:森繁久彌、高峰秀子、田村高廣)や、『花いちもんめ。』1985年作品(出演:千秋実、加藤治子)などが代表的だ。

認知症の兆候・発覚。本人の悲嘆と家族のとまどい。介護の苦労や症状の進行。やがて訪れる悲しい別れ…。親たちがこうなるのか! 自分がこうなるのか!? 認知症の実態が、映像として赤裸々に描かれ、名優たちの体を張った渾身の演技が社会に衝撃を与えた。

――時は流れ、高齢化社会がますます進行し、「認知症」に対する理解や経験値は社会全体では高まってきた。とはいえ「認知症」が本人と家族にとって一大事であることは変わらない。

そんな時に登場したのが『長いお別れ』だ。

山崎努と松原智恵子の両親。竹内結子と蒼井優の娘たち。この4人を中心に物語は進む。

元・中学校校長で認知症を患い、ゆっくりと記憶を失って行く父親を演じるのは山崎努。過剰に劇的にしない枯れた演技が絶妙なリアリティを出していて、さすがである。

蒼井優演じる芙美の中学時代の同級生を演じる中村倫也(右)。ここからもドラマが始まる  『長いお別れ』 (C)2019『長いお別れ』製作委員会 (C)中島京子/文藝春秋
蒼井優演じる芙美の中学時代の同級生を演じる中村倫也(右)。ここからもドラマが始まる  『長いお別れ』 (C)2019『長いお別れ』製作委員会 (C)中島京子/文藝春秋

竹内結子が演じる長女は夫の転勤でアメリカで暮らすが、不慣れな海外生活や息子の子育てに悩みを抱えている。蒼井優が演じる次女は、仕事も恋も順風満帆とはいかず、こちらも悩んでいる。

それぞれの抱える問題が、父親の症状の進行と共にサイドストーリーとして、かなりしっかり描かれる。父親の認知症は一大事だが、そんなことはお構いなしに自分たちの人生もある、という感じで、『長いお別れ』が描く世界(あるいは、サブテーマ?)は広い。そして、竹内も蒼井も実に自然体の演技で、息のあった姉妹っぷりが実にチャーミングだ。

そして、この作品の最大の収穫(感動ポイント?)は、松原智恵子かもしれない。観客が期待する「松原智恵子が演じる母親像」が素敵にスクリーンに現れる。が、それだけに留まらない見せ場があって、「妻の想い」に心が震えてしまう。

タイトルロールでは、蒼井優が一番手。ついで竹内、松原、山崎の順に表記されているが、4人の誰もが主演であり助演でもある、見事なアンサンブルキャストになっている。

監督は中野量太。ずっとオリジナル脚本にこだわってきた中野監督だったが、『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年作品。主演:宮沢りえ)が映画各賞に大量ノミネート&受賞を果たし絶賛される前に、この『長いお別れ』(原作・中島京子)のオファーを受けた。

「映画というのは、『今、撮らなければならない』、あるいは『今、必要だ』という点に価値があると思っている。『長いお別れ』は、そういう作品だと感じました」と中野監督は語る。

この映画は、失うものは大きいが、その過程で得るものや気づきがあること、そして継承さえも描いている。中野監督の言葉通り、「認知症」が当たり前になった日本だからこそ、まさに「いまこそ必要」な映画と言えるだろう。

自らの両親を想い、自らの行く末も想い、スクリーンと対話してみるのも悪くはない。中高年に限らず、若い人、結婚したばかりの人にもご覧いただきたい。そこには単なる哀しみ、とは別の感情が待っている。

映画『長いお別れ』 フォトギャラリー

『長いお別れ』 (C)2019『長いお別れ』製作委員会 (C)中島京子/文藝春秋
『長いお別れ』 (C)2019『長いお別れ』製作委員会 (C)中島京子/文藝春秋
竹内の夫を演じる北村有起哉(右)。この家庭にも、また別のドラマがある 『長いお別れ』 (C)2019『長いお別れ』製作委員会 (C)中島京子/文藝春秋
竹内の夫を演じる北村有起哉(右)。この家庭にも、また別のドラマがある 『長いお別れ』 (C)2019『長いお別れ』製作委員会 (C)中島京子/文藝春秋
『長いお別れ』 (C)2019『長いお別れ』製作委員会 (C)中島京子/文藝春秋
『長いお別れ』 (C)2019『長いお別れ』製作委員会 (C)中島京子/文藝春秋
『長いお別れ』 (C)2019『長いお別れ』製作委員会 (C)中島京子/文藝春秋
『長いお別れ』 (C)2019『長いお別れ』製作委員会 (C)中島京子/文藝春秋
『長いお別れ』 監督:中野量太 出演:蒼井優 竹内結子 松原智恵子 山﨑努   北村有起哉 中村倫也 杉田雷麟 蒲田優惟人 脚本:中野量太 大野敏哉 原作:中島京子『長いお別れ』(文春文庫刊) 主題歌:優河「めぐる」  企画:アスミック・エース Hara Office 配給・制作:アスミック・エース (C)2019『長いお別れ』製作委員会 (C)中島京子/文藝春秋 絶賛公開中
『長いお別れ』 監督:中野量太 出演:蒼井優 竹内結子 松原智恵子 山﨑努   北村有起哉 中村倫也 杉田雷麟 蒲田優惟人 脚本:中野量太 大野敏哉 原作:中島京子『長いお別れ』(文春文庫刊) 主題歌:優河「めぐる」  企画:アスミック・エース Hara Office 配給・制作:アスミック・エース (C)2019『長いお別れ』製作委員会 (C)中島京子/文藝春秋 絶賛公開中
  • 羽鳥透

    1965年、東京出身。エディター&ライター

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